第60話 正解が街を締め上げる
五日目の朝。
市場は、明らかに変わっていた。
店は半分しか開いていない。
開いていても、棚が空だ。
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「塩、ないのか」
「昨日で終わりだ」
「次は?」
「来ない」
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同じ会話が、あちこちで繰り返される。
声はまだ荒くない。
だが、笑いが消えた。
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リオンは広場を歩いていた。
足が止まる。
パン屋の店先だ。
扉は閉まっている。
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「……閉めたのか」
カイが後ろから言う。
「粉がない」
リオンは答える。
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張り紙が一枚貼られていた。
【粉が入るまで休み】
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「入ると思うか」
カイが聞く。
リオンは少し黙った。
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「……思えない」
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市場の奥で怒鳴り声が上がる。
「高すぎる!」
「仕入れが止まってる!」
「関係あるか!」
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人が集まる。
小さな揉め事だ。
だが以前より長い。
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診療所でも同じだった。
医者が棚を閉める。
「薬、終わりだ」
箱は空だった。
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「次は?」
リオンが聞く。
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「ない」
医者は言った。
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「できることはする」
「できないことはできない」
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外に出ると、街の空気が重かった。
人の歩く速度が少し遅い。
会話も少ない。
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リオンは屋根の上に登った。
街を見下ろす。
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「……変わったな」
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カイは頷く。
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「締め上げてる」
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「誰が」
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「正解が」
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遠くの道は今日も静かだ。
荷車は来ない。
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オラクル管理局。
中央モニターには数字が並ぶ。
【非管理区域】
【物流停止:継続】
【影響評価:限定的】
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「暴動の兆候は?」
統括官が聞く。
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「ありません」
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「では問題ない」
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画面の数字は正しい。
判断も合理的。
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そして、
この街の苦しさは、
**まだ数字になっていない。**
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屋根の上で、リオンが呟く。
「……これ」
一度言葉を止める。
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「街、持つのか?」
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カイは少しだけ考えた。
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「分からない」
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それが正直な答えだった。
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夕方。
市場はいつもより早く閉まった。
灯りも少ない。
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街はまだ動いている。
だが、確実に弱っている。
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正解は、銃を持たない。
兵士も送らない。
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ただ静かに、
物流を止め、
医療を止め、
資源を止める。
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それだけで――
**街はゆっくり締め上げられていく。**
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