第59話 自由の値段
市場の空気は、昨日より少し重かった。
騒がしい声はある。
笑い声もある。
だが、どこか短い。
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「今日はパン無しだ」
パン屋がそう言った。
棚は空だった。
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「粉が尽きた」
それだけだ。
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「芋ならあるぞ」
隣の屋台が言う。
「粥もある」
人はそちらへ流れていく。
大きな混乱はない。
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だが、少しだけ沈黙が増えた。
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リオンは広場の木箱に座っていた。
手には芋粥の椀。
「……パンの方がいいな」
小さく呟く。
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「贅沢だな」
カイが横で言う。
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「いや」
リオンは首を振る。
「普通だろ」
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「管理区域なら」
リオンは続けた。
「パンはある」
「薬もある」
「荷車も来る」
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カイは頷いた。
「そうだ」
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「でも」
リオンは粥を見つめる。
「そこには自由がない」
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カイは何も言わない。
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広場の端では、小さな口論が起きていた。
「昨日より高いぞ」
「仕入れが止まってる」
「関係ねえだろ」
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結局、値段は下がらなかった。
買う人は買う。
買わない人は去る。
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市場は続く。
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その様子を見ながら、リオンは言った。
「これが自由か」
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カイは答えた。
「そうだ」
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「高いな」
リオンは苦笑する。
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「自由は」
カイは静かに言った。
「いつも高い」
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遠くで、子どもが転んだ。
泣く。
すぐに誰かが抱き起こす。
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安全管理なら、
最初から転ばない。
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だがここでは、
転ぶ。
泣く。
立ち上がる。
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リオンは、粥を一口食べた。
「……まずくはない」
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カイは小さく笑った。
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市場は、今日も回っている。
完璧じゃない。
効率も悪い。
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それでも止まらない。
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自由の値段。
それは、
不便で、
危険で、
時々腹が減る。
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それでも――
自分で選んだ生活だった。
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