第57話 届かなくなった荷車
翌朝、市場は少し静かだった。
騒がしくないわけではない。
人はいるし、声もある。
だが、いつもの匂いが足りない。
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「パン、今日は少ないぞ」
パン屋が棚を指した。
並んでいるのは半分だけ。
「粉がねえ」
それだけだった。
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「荷車は?」
「来ない」
「事故?」
「知らん」
会話は、そこで止まる。
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誰かが肩をすくめた。
「まあいい」
「今日は芋でも食うか」
笑い声が少しだけ上がる。
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だが、その笑いは短かった。
みんな分かっている。
二日。
三日。
それ以上になると――困る。
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街の入口。
リオンは、また同じ場所に立っていた。
道を見ている。
ただそれだけだ。
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「来ると思うか?」
カイが聞く。
「……分かんねえ」
リオンは正直に答える。
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「昨日来なかった」
「今日も来ない」
「なら明日は?」
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リオンは、少し考えた。
それから、言う。
「来ない気がする」
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カイは頷いた。
「正解だ」
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市場では、少しずつ変化が出ていた。
パン屋は、棚をさらに減らす。
粉屋は、袋を閉じる。
「今日はここまで」
昼前に店を閉めた。
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「早いな」
誰かが言う。
「粉がない」
理由は簡単だ。
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診療所でも同じことが起きていた。
「包帯が足りない」
医者が箱を覗き込む。
「注文は?」
「昨日出した」
「届く?」
「……分からん」
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街の人間は、まだ怒っていない。
だが――
少しずつ気づき始めている。
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夕方。
屋根の上で、リオンはパンをちぎっていた。
昨日より小さい。
「……減ってるな」
「そうだな」
カイは街を見ている。
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「オラクルか」
リオンが言う。
「多分な」
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「なんで?」
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カイは、少しだけ考えてから答えた。
「理由は簡単だ」
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「安全のためだ」
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リオンは思わず吹き出した。
「安全?」
「この街、危険だからか?」
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「違う」
カイは静かに言う。
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「管理できないからだ」
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街の灯りが、ゆっくり増えていく。
だが、いつもより少ない。
店が早く閉まったからだ。
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遠くの道は、今日も静かだった。
荷車は来ない。
誰も来ない。
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リオンは、暗くなった道を見ながら言った。
「……これ、長くなるな」
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カイは否定しなかった。
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届かなくなった荷車。
それは、ただの物流じゃない。
それは――
**世界が、この街から距離を取った合図だった。**
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