第56話 安全のための遮断
最初に気づいたのは、粉屋だった。
「……遅いな」
いつもなら昼前に届くはずの荷車が来ない。
小麦は、この街では作れない。
外から運ばれてくる。
だから一日遅れるだけで、
少しだけ困る。
それだけのはずだった。
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「昨日も来てない」
倉庫を見た男が言った。
「……二日?」
「二日だ」
空気が、少しだけ重くなる。
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市場では、まだ騒ぎになっていない。
昨日の在庫が残っている。
今日の分も少しはある。
すぐ困るわけじゃない。
だが――
「三日来なかったら」
粉屋が言う。
「終わるな」
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その頃、街の入口。
リオンは、門の外を見ていた。
道はある。
荷車の轍もある。
だが今日は、静かだ。
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「……来ないな」
「来ないな」
カイも同じことを言う。
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「事故か?」
「違う」
カイは即答した。
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「止められてる」
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リオンは眉をひそめた。
「誰に」
「誰だと思う」
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答えは、考えるまでもない。
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オラクル管理局。
中央制御室。
【非管理区域への物流】
【安全評価:未保証】
【配送許可:停止】
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「事故リスクが高い」
統括官が淡々と説明する。
「医療体制が不十分」
「治安保証なし」
「行政責任不明」
「安全のためだ」
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反対する者はいなかった。
数字は正しい。
判断も合理的。
そして何より――
**優先度が低い**
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「小さな街です」
解析官が言う。
「社会影響は限定的」
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統括官は、頷いた。
「問題ない」
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その頃、街では。
パン屋が袋を覗いていた。
「……明日までだな」
小麦が足りない。
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「どうする」
誰かが聞く。
「どうもしない」
パン屋は肩をすくめた。
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「作れる分だけ作る」
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人々は少しだけ困る。
だが、まだ怒らない。
まだ、原因を知らない。
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街の屋根の上。
リオンは遠くの道を見ていた。
「……なあ」
「何だ」
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「これってさ」
少し考えてから言う。
「俺のせい?」
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カイは、しばらく黙っていた。
そして言った。
「違う」
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「正解のせいだ」
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リオンは小さく笑った。
「ひでえな」
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カイは、街を見下ろす。
市場。
人の声。
パン屋の煙。
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「これは始まりだ」
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リオンは顔をしかめた。
「何の」
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「自由のコストだ」
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遠くの道は、今日も静かだった。
荷車は来ない。
誰も止めに来ない。
ただ――
**安全のために、世界がこの街を切り離した。**
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