第54話 オラクルの届かない判断
昼過ぎ、街の入口で小さな騒ぎが起きていた。
荷馬車が二台、道の中央で止まっている。
互いに譲らないらしい。
「先に通るのはこっちだ」
「いや、荷が重いんだ。そっちが下がれ」
声は荒いが、殴り合いにはなっていない。
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リオンは腕を組んで見ていた。
「……また喧嘩か」
「喧嘩じゃない」
カイは言う。
「判断だ」
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「何が違うんだ?」
「喧嘩は勝ち負けだ」
「判断は落としどころだ」
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周囲に人が集まる。
誰も指示は出さない。
だが、口は出す。
「荷が重いなら坂の下だろ」
「いや逆だ」
「昨日雨降ったぞ」
意見が飛び交う。
まとまりはない。
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「……うるさいな」
リオンが苦笑する。
「それでいい」
カイは静かに答える。
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しばらくして、一人の女が前に出た。
「荷を半分降ろせ」
唐突だった。
「一台ずつ通せばいい」
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男たちは顔を見合わせる。
「……面倒だな」
「でも早い」
結局、その案になった。
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荷物を降ろす。
馬車が一台通る。
また積み直す。
効率は悪い。
だが、道は開いた。
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人々は、もう散り始めている。
事件は終わった。
誰も勝っていない。
誰も負けていない。
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「……記録もないんだな」
リオンが言う。
「ない」
カイは頷く。
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「管理区域なら」
リオンが続ける。
「交通優先順位が決まってる」
「そうだ」
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「なら揉めない」
「揉めない」
カイは言った。
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「でも」
リオンは道を見る。
「揉めたから、決めた」
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カイは、ほんの少しだけ笑った。
「それが」
「オラクルの届かない判断だ」
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遠くで、子どもが走り回っている。
誰も危険度を測らない。
誰も許可を出さない。
ただ、走っている。
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オラクルは、すべてを予測する。
事故。
犯罪。
衝突。
だが、予測できないものがある。
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それは――
**人が、その場で決めることだ。**
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リオンは、ゆっくり息を吐いた。
「……ここ、いいな」
「そうか」
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「完璧じゃないけど」
「止まってない」
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街は、またいつもの音に戻っていく。
笑い声。
怒鳴り声。
値切る声。
どれも正解じゃない。
それでも、この街は今日も動いている。
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