第53話 予測不能という価値
朝、街はいつもより少し慌ただしかった。
市場の中央に、人だかりができている。
「何だ?」
リオンが人混みをかき分ける。
---
中心には、壊れた荷車があった。
車輪が折れている。
荷物の箱が散らばっている。
「昨日の橋で落ちたらしい」
「運が悪かったな」
誰かが肩をすくめる。
---
「直せるのか?」
リオンが聞く。
「多分な」
老人がしゃがみ込んで車輪を触っている。
「ちゃんと直る?」
「分からん」
老人は平然と言った。
---
「分からんのにやるのか?」
リオンが少し驚く。
「やってみないと分からん」
それが、この街の答えだった。
---
数人が集まる。
木材を持ってくる。
釘を打つ。
誰かが手を叩く。
「曲がってる!」
「最初から曲がってる!」
笑い声が上がる。
---
完璧ではない車輪が出来上がった。
回すと、少し揺れる。
「……大丈夫か?」
「多分な」
また同じ答えだ。
---
荷車はゆっくり進み出した。
ぎこちないが、動く。
人々はもう興味を失って散っていく。
---
「……雑だな」
リオンが呟く。
「雑だ」
カイも頷く。
---
「でも、直った」
「そうだ」
---
リオンは少し考え込む。
「管理区域なら」
「最初から壊れない」
カイが言う。
「そう」
リオンは頷く。
「でも壊れたら?」
---
「使用停止」
カイは淡々と答えた。
「専門修理」
「管理判断」
「許可」
「時間がかかる」
---
リオンは、遠ざかる荷車を見る。
揺れながら進んでいる。
危ない。
不完全だ。
それでも、動いている。
---
「……なあ」
リオンが言う。
「この街って」
「何だ」
「全部、予測できないよな」
---
「そうだ」
カイは迷わず言う。
---
「でもさ」
リオンは少し笑った。
「だから止まらないんだな」
---
カイは、ほんの少しだけ目を細めた。
「予測は、便利だ」
「だが」
一拍置く。
「予測が強すぎると」
---
「世界は、止まる」
---
市場の喧騒が戻る。
誰かが笑う。
誰かが怒る。
誰かが値切る。
全部、予測不能だ。
---
予測不能という価値。
それは、
効率では測れない。
安全でもない。
だが――
それがある限り、
世界はまだ、
**動き続けることができる。**
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




