第52話 誰も正解を知らない夜
夜になると、この街は少しだけ静かになる。
昼の騒ぎが嘘のように、
店はゆっくり閉まり、
灯りがぽつぽつ残るだけになる。
それでも完全には眠らない。
どこかで酒の匂いがする。
どこかで口論が続いている。
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リオンは、屋根の上に座っていた。
この街で一番落ち着く場所だ。
誰にも指示されない。
誰にも見張られない。
ただ、風がある。
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「……暇だな」
隣に立つカイに言う。
「安全な街なら」
「今頃は管理時間だ」
カイは短く笑った。
「この街は、時間を管理しない」
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遠くで、怒鳴り声が上がった。
「また喧嘩か?」
「多分な」
「止めなくていいのか」
「そのうち止まる」
実際、数分で静かになった。
誰かが止めたのか、
当人たちが疲れたのかは分からない。
それでも終わる。
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「……不思議だな」
リオンは夜空を見る。
「ここ、正解ないのに回ってる」
「だから回る」
カイは答える。
「正解があると」
「誰も考えなくなる」
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しばらく沈黙が続いた。
風が吹く。
遠くで犬が吠える。
ただの夜だ。
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「なあ」
リオンが小さく言う。
「俺さ」
「何だ」
「もしこの街に来なかったら」
少し言葉を探す。
「今も“危険度”の中で生きてたんだよな」
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「そうだな」
カイは否定しない。
「安全で」
「正しくて」
「静かな人生だ」
「……嫌だな」
リオンは苦笑する。
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街の広場では、
数人が焚き火を囲んでいた。
酒瓶が回る。
話が続く。
誰も記録しない。
誰も評価しない。
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「……あれ、何話してんだろ」
「大したことじゃない」
「どうして分かる」
「大したことなら」
「こんなところで話さない」
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リオンは、少し笑った。
確かにそうだ。
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そのとき、広場から声が上がる。
「おい!」
「屋根の上!」
「落ちるぞ!」
誰かがこちらを指差している。
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「……心配されてる」
リオンは、少し驚いた。
「危険度じゃない」
カイは言う。
「ただの心配だ」
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リオンは、しばらく黙っていた。
胸の奥が、少しだけ温かい。
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「……なあ」
「何だ」
「この街さ」
一度言葉を止めてから、
「正解、知らないよな」
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「知らない」
カイは答える。
「多分、これからも知らない」
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リオンは、空を見上げる。
星が、ゆっくり流れていた。
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誰も正解を知らない夜。
それでも人は、
笑い、
喧嘩し、
話をしている。
それだけで、
この街は今日も続いている。
そして世界はまだ、
その理由を理解していない。
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