第51話 間違いだらけの生活
この街には、決まった正解がなかった。
だから、毎日が少しずつ違っていた。
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朝。
市場のパン屋が、なぜか閉まっていた。
「今日休みか?」
「昨日喧嘩したらしい」
「誰と?」
「知らん」
それで終わりだった。
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「……適当すぎないか」
リオンは呆れたように言う。
「その分、誰も困らない」
カイは肩をすくめた。
「パン屋は明日開く」
「今日は別の店で買う」
それだけだ。
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だが、すぐに別の問題が起きる。
「小麦が足りないぞ」
粉屋の男が叫ぶ。
「昨日の荷車が来てない!」
「じゃあ今日は作れねえな」
誰かが言った。
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「……それでいいのか?」
リオンは目を丸くする。
「よくはない」
カイは答える。
「でも世界は終わらない」
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代わりに、別の屋台が動き出した。
「粥ならあるぞ」
「芋もある」
「それでいいだろ」
人が、そっちに流れる。
計画ではない。
ただの調整だ。
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昼頃。
街の外れで、また小さな問題が起きた。
「水道止まってるぞ!」
配管が壊れたらしい。
「昨日から変な音してた」
「言えよ!」
「忘れてた」
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リオンは思わず笑った。
「忘れてたって……」
「人間だ」
カイが言う。
「忘れる」
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数人が集まる。
工具を持ってくる。
配管を外す。
誰かが水をかぶる。
「逆だ逆!」
「分かってる!」
「分かってねえ!」
騒ぎながら、直す。
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夕方には、水が戻っていた。
完全じゃない。
漏れもある。
だが、流れる。
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「……全部、間違いだらけだな」
リオンが言う。
「そうだ」
カイは頷いた。
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「でもな」
カイは、街を見渡す。
「間違いは、修正できる」
「正解は」
一拍置く。
「壊れるまで、止まらない」
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リオンは、少し黙った。
管理区域では、
間違いは起きない。
その代わり、
間違いを直す機会もない。
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「……なあ」
リオンが聞く。
「この街、ずっとこうなのか?」
「多分な」
「変わらない?」
「変わる」
カイは言った。
「間違えながら」
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夜。
市場の灯りが揺れていた。
誰かが歌っている。
誰かが笑っている。
騒がしい。
不安定だ。
だが――
リオンは、確信していた。
ここには、
**生きている生活**がある。
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間違いだらけの生活。
それは、
不完全で、
危なくて、
効率も悪い。
それでも――
人が、自分で選んだ毎日だった。
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