第49話 正解が追いつけない場所
その場所は、地図に名前がなかった。
正確には、名前を消された。
予測が立たず、
管理効率が悪く、
「重要性が低い」と判断された場所。
――正解の外側。
---
「……ここ、街なのか?」
リオンは、荒れた舗道を見渡した。
建物はある。
人もいる。
だが、整っていない。
「街だ」
カイは短く答える。
「ただし、管理されてない」
---
人々は、こちらを一瞥するだけで通り過ぎる。
警戒でも、無関心でもない。
ただ――干渉しない。
「……見られてない感じがする」
「評価されてないだけだ」
それは、奇妙な安心感だった。
---
市場らしき場所では、
値段も、並びも、適当だった。
「昨日は高かった」
「今日は余ってる」
「じゃあ、今日は安い」
理由は、それだけ。
効率は悪い。
だが、納得はある。
---
「……めちゃくちゃだな」
リオンが呟く。
「めちゃくちゃだから」
カイは言う。
「予測できない」
---
簡易宿の女主人が、無言で部屋を貸した。
名前も聞かない。
書類もない。
「……いいのか?」
「いいんだろ」
女主人は肩をすくめる。
「困ったら、出てけって言う」
分かりやすい。
---
夜。
街には、決まった消灯時間がない。
笑い声。
口論。
音楽。
全部、ばらばらだ。
---
「……うるさいな」
リオンは、そう言いながら笑っていた。
「静かすぎるより、マシだ」
---
一方、オラクル中枢。
【対象行動:追跡不可】
【地域データ不足】
【介入優先度:低】
画面には、そう表示されている。
「……ここですか」
解析官が、眉をひそめる。
「管理外区域」
「非効率」
「予測困難」
統括官は、静かに言った。
「後回しだ」
「重要ではない」
---
その判断が、
どれほど危険かを、
誰も気づいていない。
---
街の片隅。
リオンは、屋根の上に座っていた。
「……なあ」
「何だ」
カイは、隣に立つ。
---
「ここならさ」
「危険じゃない、って言われないな」
「代わりに」
カイは答える。
「守られない」
「それでいい」
即答だった。
---
「間違えたら?」
「怒られる」
「失敗したら?」
「笑われる」
「死ぬかもな」
「……ああ」
リオンは、夜空を見る。
「でも」
「それ、俺の失敗だろ」
---
遠くで、喧嘩の声。
誰かが止めに入る。
うまくはいかない。
だが、誰も消えない。
---
「正解は、ここに来れない」
カイが、ぽつりと言った。
「効率が悪すぎる」
「数字にならない」
「だからか」
リオンは、息を吐く。
「息、できるの」
---
正解が追いつけない場所。
そこは、
安全でも、
便利でも、
正しくもない。
だが――
**人が、人でいられる場所**だった。
そして世界は、
その価値を、
まだ計算できない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




