第47話 捕まえなければならない理由
予測管理機構〈オラクル〉の中枢会議は、短時間で終わった。
議論は、ほとんどなかった。
結論は、最初から決まっていたからだ。
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「対象リオン・ハルドは」
統括官が、淡々と告げる。
「**捕捉・再管理対象**とする」
異論は、出ない。
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「理由は?」
形式上、確認だけが入る。
「予測不能行動の発生」
「他対象への影響拡大」
「模倣リスクの存在」
スクリーンに、数値が並ぶ。
危険度。
逸脱率。
社会影響指数。
どれも、基準を超えている。
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「……実害は?」
一人だけ、そう尋ねた者がいた。
会議室が、わずかに静まる。
統括官は、答える。
「現時点では、ありません」
「なら――」
「**だからです**」
統括官は、遮るように言った。
「実害が出てからでは、遅い」
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それが、オラクルの根幹思想だ。
壊れる前に止める。
起きる前に排除する。
正しさに、迷いは要らない。
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「……彼は、象徴になり得ます」
別の管理官が続ける。
「予測から外れた人間」
「管理を拒否した人間」
「それは、他の対象に――」
「“逃げ道”を示す」
その言葉で、全員が理解した。
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「逃げ道は、要らない」
統括官が、静かに言う。
「世界は、安全であるべきだ」
誰も、反論しない。
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一方、街の外れ。
リオンは、息を整えていた。
「……来るな」
「来る」
カイは、短く答える。
「理由は、分かるか」
リオンは、少し考えてから言った。
「俺が、前例になるからだろ」
その理解の速さに、カイは一瞬だけ目を細めた。
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「正解だ」
カイは言う。
「お前が逃げ切ったら」
「“逃げてもいい”になる」
「それは、困るわけだ」
「正解を、保てなくなる」
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遠くで、複数の足音。
追跡部隊だ。
静かで、整然としている。
恐怖を与えない訓練を受けた動き。
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「……捕まったら」
リオンが、低く聞く。
「どうなる」
「戻される」
カイは、正直に答える。
「管理下に」
「今度は、もっと深く」
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「それってさ」
リオンは、苦笑する。
「俺が間違ってたって」
「証明されるってことだよな」
「そうなる」
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一瞬、沈黙。
リオンは、拳を握る。
「……じゃあ」
一歩、前に出る。
「俺は、捕まるわけにはいかない」
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追跡部隊が、姿を現す。
「対象を確認」
「抵抗の可能性あり」
声は冷静だ。
感情は、ない。
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カイが、静かに言う。
「ここから先は」
「お前が選べ」
「逃げる」
「捕まる」
「どっちも、正解じゃない」
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リオンは、深く息を吸った。
恐怖は、ある。
だが、もう分かっている。
正解かどうかじゃない。
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「……選ばせてくれ」
それだけ言って、
リオンは、走り出した。
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オラクルの画面に、警告が点る。
【模倣リスク:上昇】
【社会影響指数:増大】
だが、止まらない。
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捕まえなければならない理由。
それは、彼が危険だからじゃない。
**選んだからだ。**
そして世界は今、
“選ぶ人間”を、
危険と定義し始めている。
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