第46話 想定外の行動
異常は、数値の端から始まった。
【予測誤差:拡大】
【行動追跡:失敗】
【代替モデル起動】
制御室に、わずかなざわめきが走る。
「……消えた?」
若い解析官が、画面を睨む。
「いえ、消失ではありません」
「“外れた”だけです」
その訂正が、空気を重くした。
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「対象リオン・ハルド」
「行動履歴、予測範囲外に逸脱」
表示される軌跡は、途切れ途切れだ。
直線ではない。
合理的でもない。
「……ランダム?」
「いいえ」
上席の解析官が、静かに言う。
「**選択です**」
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街の外れ。
夜風が、リオンの頬を打つ。
息が、少し荒い。
だが、笑っている。
「……外、だ」
ただそれだけで、胸が熱くなる。
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「止まるな」
カイが、低い声で言う。
「今止まったら」
「“逃げた理由”を作られる」
「分かってる」
リオンは、頷いた。
恐怖はある。
だが、足は止まらない。
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小さな橋を渡る。
川の水音が、耳に刺さる。
「……うるさいな」
「世界の音だ」
カイは、そう返す。
「静かすぎる場所は」
「人を殺す」
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一方、制御室。
「追跡用モデル、再計算!」
「行動傾向を再設定!」
数字が、激しく書き換わる。
だが――追いつかない。
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「……おかしい」
解析官が、眉をひそめる。
「恐怖を感じているはず」
「逃走行動なら、最短距離を――」
「最短を、選んでいない」
上席が、言葉を継ぐ。
「彼は」
「“安全”より“意味”を選んでいる」
制御室が、静まる。
意味。
数値化できない項目。
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路地裏で、リオンは立ち止まった。
「……なあ」
「どうした」
「俺さ」
「今、めちゃくちゃ危険だよな」
「ああ」
カイは、否定しない。
「世界基準ではな」
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「でも」
リオンは、空を見上げる。
「初めて」
「俺の行動が、俺のもんだ」
その言葉は、震えていた。
だが、確かだった。
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【警告】
【対象行動:解析不能】
【将来危険度:算出失敗】
表示が、赤く染まる。
オラクルは、
“人間らしさ”を、扱えない。
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「……カイ」
「何だ」
「俺、捕まる?」
「可能性は高い」
「じゃあさ」
一拍、置く。
「それでも、意味あったよな」
カイは、即答した。
「ああ」
「世界にとってな」
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遠くで、警戒灯が点る。
追手が来る。
秩序が、取り戻しに来る。
だが――
オラクルの画面には、
一つだけ残った。
【備考】
【対象行動:予測不能】
【モデル改善、要検討】
それは、
システムが初めて出した
**敗北宣言**だった。
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想定外の行動。
それは、
一人の人間が選んだ、
ただの一歩。
だがその一歩は、
正解という名の線路を、
静かに踏み外していた。
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