第44話 危険度を下げる方法
その説明は、あまりにも丁寧だった。
「危険度を下げる方法は、あります」
管理局の職員は、柔らかい声でそう言った。
責める調子でも、
脅す調子でもない。
――説得だ。
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「生活指針に、より忠実になること」
「感情の変動を、最小限に抑えること」
「不要な思考負荷を避けること」
机の上に、数枚の紙が並べられる。
【推奨行動一覧】
【非推奨対人関係】
【感情安定化ルーチン】
すべて、“あなたのため”と書かれている。
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「これを守れば」
職員は、にこやかに続けた。
「危険度は、確実に下がります」
「外出許可も、検討されるでしょう」
リオンは、紙を見つめた。
どれも、難しくない。
怒らない。
考えすぎない。
期待しない。
――生きるのを、やめるだけだ。
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「……守らなかったら?」
リオンが聞く。
職員は、一瞬だけ言葉を選んだ。
「その場合は」
「現在の保護措置を、継続します」
脅しじゃない。
事実だ。
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部屋に戻ると、エリスが待っていた。
珍しく、一人だ。
「……説明、受けました?」
「ああ」
リオンは、紙を放り投げた。
「従順になれ、ってやつだ」
エリスは、否定しなかった。
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「……どう思いますか」
リオンが聞く。
「正しいと思う?」
エリスは、しばらく黙った。
そして、正直に答える。
「安全、ではあります」
「でも……」
「でも?」
「あなたが、いなくなる」
その言葉は、静かだった。
だが、深く刺さる。
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「……なあ」
リオンは、天井を見上げる。
「俺、悪いことしてないよな」
「してません」
「じゃあさ」
一拍置く。
「俺が、ここで従順になったら」
「世界は、良くなるのか」
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そのとき、扉が開いた。
あの男――カイだ。
「ならない」
即答だった。
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「良くなるのは、数字だけだ」
カイは、紙を一瞥する。
「それは、危険度を下げる方法じゃない」
「**人間度を下げる方法だ**」
リオンは、思わず笑った。
「ひでえ言い方だな」
「事実だ」
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「……でもさ」
リオンの声が、少し低くなる。
「従えば、外に出られる」
「普通に暮らせる」
「“普通”か?」
カイは、問い返す。
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「間違えない人生は」
「失敗しない人生は」
「誰の人生だ」
答えは、出ている。
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リオンは、紙を一枚拾い上げた。
そして、ゆっくりと破った。
一枚。
また一枚。
破るたびに、胸が軽くなる。
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【感情指数:上昇】
【将来危険度:微増】
警告灯が、はっきり点く。
だが、リオンは気にしなかった。
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「……選んだな」
カイが、静かに言う。
「ああ」
リオンは、頷く。
「何もしない罪より」
「間違える罪の方が、マシだ」
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エリスが、小さく息を吐く。
「……これで、戻れませんよ」
「戻らなくていい」
リオンは、窓を見る。
安全で、
正しくて、
静かな世界。
その外に、
まだ行ったことのない場所がある。
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危険度を下げる方法は、簡単だ。
従うこと。
考えないこと。
自分を削ること。
だが――
それを選ばない人間がいる。
そして世界は、
**その存在を、危険と呼ぶ。**
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