第42話 危険度が高い人間
その紙切れは、あまりにも簡単に渡された。
「……この人です」
管理局の担当官が、淡々と差し出す。
名前。
年齢。
職歴。
生活履歴。
そして、赤字で書かれた一行。
【将来危険度:高】
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「理由は?」
俺の問いに、担当官は即答した。
「感情変動が大きい」
「対人衝突履歴あり」
「衝動的行動の可能性」
「実害は?」
「ありません」
「今のところは」
“今のところ”。
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指定された区画は、静かだった。
予防管理区域の中でも、さらに制限の多い場所。
柵もない。
鍵もない。
だが、出られない。
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青年は、窓際に座っていた。
年は二十前後。
痩せているが、目に力がある。
「……あんた、誰だ」
警戒はある。
敵意はない。
「通りすがりだ」
「嘘だな」
即答だった。
だが、責める口調じゃない。
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「ここ、静かすぎるだろ」
青年は、外を見たまま言った。
「誰も怒らない」
「誰も怒らせない」
「嫌か?」
「……分からなくなる」
その言葉に、エリスが小さく息を吸った。
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「何を?」
「自分が、何したいのか」
青年は、拳を握る。
「怒ったら危険」
「黙ってたら安全」
「じゃあ、俺は何なんだ」
答えは、誰も持っていない。
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「名前は?」
「リオン」
短く答える。
「……危険らしいな」
俺は、そう言った。
リオンは、鼻で笑った。
「便利だろ」
「俺が何かやったら」
「“ほらな”って言える」
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「やる気は?」
「今は、ない」
即答だった。
「やったら、正解の証明になるからな」
理解している。
自分が、どう使われるかを。
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「……外に出たいか」
俺が聞くと、
リオンは少しだけ黙った。
「出たい、って言ったら」
「危険度、上がるんだろ」
「多分な」
「じゃあ、言わない」
賢い選択だ。
そして、歪んだ選択だ。
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エリスが、耐えきれずに言う。
「……あなた、何もしてないのに」
「してないから、危険なんだよ」
リオンは、肩をすくめる。
「何するか分からない、ってやつ」
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部屋を出た後、
エリスが低い声で言った。
「……これは、保護じゃない」
「ああ」
俺は、頷く。
「未来を理由にした、拘束だ」
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管理局の廊下で、
担当官が不思議そうに聞いてきた。
「……問題、ありましたか?」
「大ありだ」
俺は、即答する。
「だが」
「まだ止めない」
「……なぜ?」
俺は、立ち止まって答えた。
「これは、世界が選んだ正解だ」
「**自分で、壊すところまで見せる**」
---
リオンは、窓の外を見ていた。
安全で、
静かで、
正しい世界。
その中で彼は、
**まだ何もしていない罪**を背負っている。
――これが、次の歪みだ。
そして、
この歪みは、
静かに、確実に広がっていく。
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