第39話 正解は、転ぶ
崩れたのは、想定外の場所だった。
中央連結都市〈ハブ〉ではない。
予防管理区画でもない。
――外縁の、何でもない街だ。
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「緊急報告!」
通信石の声が、珍しく荒れていた。
「北西小都市、交通結界停止」
「予測モデルでは、影響軽微のはずでしたが――」
「死者は?」
一拍の沈黙。
「……三名」
「判断遅延による二次事故です」
エリスが、息を呑む。
「予測、外れたんですか」
「外れたんじゃない」
俺は、静かに言った。
「**曲がれなかった**」
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オラクルの判断記録を、急ぎ確認する。
【優先度低】
【即時対応不要】
【資源は中央に集中】
数字は、正しい。
理論も、正しい。
ただ――
現場が、見えていない。
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「……担当者は?」
「規定に従いました」
「逸脱は、ありません」
それが、答えだった。
「誰も、間違えてない」
エリスが、苦しそうに言う。
「ああ」
俺は、頷いた。
「だから、止められなかった」
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街に着くと、空気が重かった。
怒号はない。
抗議もない。
ただ、沈黙がある。
「……正しい判断だったんでしょう?」
住民の一人が、ぽつりと聞いた。
誰も、答えられない。
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オラクルの現地責任者が、淡々と説明する。
「犠牲は、想定内です」
「全体最適のためには――」
その言葉を、最後まで聞かなかった。
「やめろ」
低い声だった。
だが、全員がこちらを見る。
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「正解は、人を踏まない」
俺は、はっきり言った。
「踏んだ時点で、それは正解じゃない」
「ですが、あなたは――」
「俺は、決めなかった」
即答した。
「だから、これは俺の責任じゃない」
「**お前たちの選択だ**」
空気が、凍る。
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「……では、どうすればよかった」
責任者が、初めて感情を滲ませる。
「迷えばよかった」
俺は、そう答えた。
「止まればよかった」
「考え直せばよかった」
「それでは、遅れる!」
「遅れていい」
はっきり言った。
「遅れた結果の三人と」
「急いだ結果の三人は、違う」
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エリスが、小さく頷く。
「……選ばされた、んですね」
「ああ」
俺は、住民たちを見る。
「正解に」
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夜。
オラクルは、公式声明を出した。
【想定外の事象】
【モデル改修を実施】
【再発防止に努める】
いつもの言葉だ。
だが、違う。
今回は――
**信じていた人間が、離れた。**
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「……止めますか」
エリスが、静かに聞く。
「いや」
俺は、首を振る。
「止めるのは、世界だ」
俺が止めたら、
また俺が正解になる。
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翌朝。
中央連結都市に、小さな張り紙が出た。
【判断は、現場で行う】
署名は、ない。
だが、それで十分だった。
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正解は、転んだ。
派手じゃない。
だが、確実に。
そして世界は、
初めて“正解を疑う痛み”を知った。
次に来るのは――
**正解を、手放す決断**だ。
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