第37話 正解を欲しがる世界
中央評議会の会議室は、無駄に広かった。
円卓。
高い天井。
重厚な装飾。
――安心できる形。
「……感情的な対立は、避けたい」
議長が、前置きとしてそう言った。
その時点で、もう結論は決まっている。
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「あなたの主張は理解しています」
別の評議員が続ける。
「人を管理しすぎる危険性」
「思想の暴走」
「確かに、正しい指摘だ」
正しい。
その言葉が、何度も出てくる。
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「ですが」
必ず、続く。
「世界は、正解を必要としている」
俺は、何も言わなかった。
続きを、待つ。
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「すべての人に判断を委ねるのは、危険です」
「迷い、遅れ、失敗する」
「だからこそ、“基準”が要る」
議長が、静かに言う。
「あなたの思想は、その基準になり得る」
つまり――
**像になれ**、ということだ。
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「俺に、何をさせたい」
「簡単です」
評議員の一人が、穏やかに微笑む。
「あなたは、何もしなくていい」
「ただ、“正解”でいてほしい」
背中に、寒気が走る。
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「……それは」
エリスが、思わず声を出しかける。
俺は、手で制した。
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「正解でいる、というのは」
俺は、ゆっくり言った。
「間違えない、という意味か?」
「そうです」
「迷わない?」
「そうです」
「責任を取らない?」
評議会が、わずかに沈黙する。
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「違うな」
俺は、首を振った。
「それは、正解じゃない」
「**停止**だ」
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「世界は、混乱を恐れている」
議長が、声を低くする。
「あなたがいれば、世界は安心できる」
「安心のために、何を捨てる」
「……自由だ」
正直な答えだった。
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「それが、欲しいんだな」
俺は、円卓を見渡す。
「考えなくていい世界」
「責任を引き受けなくていい世界」
「それが、悪いか?」
誰かが、苛立ちを滲ませた。
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「悪くない」
俺は、即答する。
「ただし――長くは続かない」
「なぜだ」
「人は、正解を信じすぎると」
「**自分を捨てる**」
その言葉に、空気が凍る。
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「俺は、正解にならない」
はっきり言った。
「なる気もない」
「なれもしない」
「それでも、世界はあなたを求める」
議長が、疲れた声で言う。
「それなら」
俺は、立ち上がった。
「世界が間違えるところを」
「黙って見ている」
ざわめき。
「それは、無責任だ!」
「違う」
振り返って、言う。
「**自立を信じるという責任**だ」
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会議室を出るとき、
エリスが小さく息を吐いた。
「……嫌われましたね」
「嫌われてない」
俺は、廊下を歩きながら言う。
「依存を拒否しただけだ」
それが、一番怖い。
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夜。
中央連結都市の灯りを見下ろす。
世界は、正解を欲しがっている。
だが――
正解は、溜めると壊れる。
それを、世界はまだ知らない。
だから次に来るのは――
**俺抜きで、正解を作る試み**だ。
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