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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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佐藤公子さんの場合(5)

 公子さんは、天を仰ぎました。

 

 ここでは、三食昼寝おやつ付きの生活は望めないようです。

 でも、せっかく異世界へ来たのです。いや、あのネコが嘘をついていて、異世界じゃなくて単なる過去なのかもしれません。いかにもありそうな話で、どっちかはっきりさせたいものですが、近くにあのネコもいないですし、誰かに訊くこともできません。

 グーグル先生に何でも簡単に教えてもらえた元の世界(もしくは元の時代)が懐かしくて、公子さんは、思わず涙目になってしまいました。

 でも、異世界か過去か、どっちか証明する以前に、あってはならないお金を使うという危険はおかさない方が無難です。



 公子さんは大阪のおばちゃんです。

 どこまでもアグレッシブというか、前向きでした。

 ここで働くことに興味が湧いたのです。

 近くにあのネコの兄弟も見当たらないようですから、やるしかありません。


「私みたいなおばさん、雇ってくれるとこあるやろか?」

「おばさんって、あんた、二十歳前だろ?その若さなら、どこでも雇ってくれるよ。というか、あんた、学校出たんだろうな?」

 

 学校なら、とうの昔に卒業しています。何しろ、還暦なのですから。

 

 でも、学校以前に、気が付きました。

 八百屋のおじさんは、公子さんのことを二十歳前だと思ったようです。だから、学校を卒業しているかどうか心配したのです。


 二十歳前やて?おかしいわ。還暦のおばさん前にして二十歳前って、どうよ?

 いくら、ウチがわこう見える言うても、二十歳前ちゅうのはあり得へん。


 

 そして、壁に貼ってある鏡に気付いて、驚きました。

 着ているものこそ変わらないものの、顔はどう見ても十七、八のそれです。あの堂々たる大阪のおばちゃんは、どこへ行ったのでしょう。

 そういえば、ネコが、滞在先での年齢設定をどうのこうの言ってたのを思い出しました。

 公子さんは、ここでは、本当に十八の娘になっていたのです。

 思わず手を見つめました。皺もシミもないきれいな手です。そういえば、声だって、少し高めです。


 やった!


 公子さんは、思わずガッツポーズしました。


 わーい。わーい。プラセンタやコラーゲンのお世話にならんでも、わこうなれた。あれって、無茶苦茶高いんや。


 そうです。最近、公子さんは、通販でプラセンタとかコラーゲンを買って飲んでみようかと真剣に悩んでいたのです。

 

 若返りは女性の永遠の夢です。異世界限定とはいえ、みずみずしい若さに戻ったのです。 

 

 これで思いっ切り好きなことができるやん。


 若ければ、徹夜でマンガを読んだり、深夜アニメをぶっ続けで見たりすることもできます。コーヒーやお酒をがぶ飲みして気持ち悪くなっても、若気の至りだと許してもらえるのです。何より、失敗を恐れなくて良いのです。バカしても、若さのせいだからと笑って(!)許してもらえます。


 何て素敵なんやろ。

 

 公子さんは、八百屋のおじさんにお礼を言って、仕事を探すことにしました。


 そこそこ遊んだら帰るつもりやし、アルバイトで良いか……。どっかで従業員募集してるとこあれば良いんやけど……。



天然で楽天的な公子さんは、異常にポジティブです。

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