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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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佐藤公子さんの場合(3)

すみません。この部分が抜けてました。とりあえずアップします。m(__)m

 次の日、昨日と同じようにスーパー目指して歩いていると、昨日と同じ路地の手前で、昨日と同じネコを見かけました。

 

 あ、昨日のネコや。夢やなかったんやろか?

 でも、しゃべったってのは、夢や。きっと。

 

 独り言を言いながら通り過ぎようとすると、ネコが声をかけてきました。ナンパされてるみたいです。

「おい。おい。おい!

 っていうか、無視するじゃねえ!スルーすんな。せっかく、別の世界へ送り出してやろうと思って待っててやったのに」

 

 昨日のあれは、夢じゃなかったのでしょうか。

 

 公子さんは、愕然としました。年甲斐もなく、ファンタジーや二次元にかぶれてすぎて幻聴が聞えるのでしょうか。


「おい、今、何考えた?幻聴かなんかだって思ったのか?」

 

 こわっ。このネコ、ウチの心読んだ。


「今、このネコ、心を読んだって、思ったんじゃねえか?」


 サトリや。サトリの妖怪や。ネコ型のサトリってあったんや。えっと……サトリを撃退する方法は……。

 あちゃー。思い出せんわ。慌てすぎて出てきいひん。

 しゃあない。ヤバイし、関わり合いにならんと、さっさと通り過ぎよ。


「おい、関わり合いになりたくないって、何てババアだ。ちょっとは、面白いネコがいるから付き合ってやろうって、気にならないのか?

 しかも、俺は、心を読むわけでも妖怪でも何でもない。あんたの顔に書いてあるだけだ」


 ババアとは何や。ババアとは。失礼な。


 このネコにとって、公子さんは立派なババアのようです。自分をババア呼ばわりするようなネコとは付き合いたくありません。


 それに、顔に書いてあるって……。冗談やろ。


 公子さんの顔はいたって普通で、黒板やホワイトボードじゃありません。


「クソッ。そんなこと、どうでも良いんだ。どうして、そうなるんだ?信じられん。って、そこじゃねえだろ?

 なあ、昨日のこと、考えてみたか?」

 

 目の前のネコにどう対応しようかと悩んでいた公子さんは、ネコの提案に現実に引き戻されました。

 まあ、異世界へ行かないかという提案を受け入れるかどうか悩むことを現実的だと言うかどうか疑問ですが、とにかく、ネコの異常さはさておいて、異世界へ行くかどうか考えることにしたのです。

 

 良かった、あれは、夢やなかったんや。

 病気になったわけやないんや。

 

 ネコの非常識な提案が夢や病気じゃなかったことに胸をなで下ろした公子さんは、昨日の提案を検討することにしました。

 

 ネコの提案を受け入れれば、平凡な日常を脱出して、あり得ない世界へ飛び立つことができます。それは、ファンタジーが大好きなオタク気質の公子さんの歓迎するところです。

 でも、主婦が勝手にどこかへ行ってしまったら、家族のみんなはどう思うでしょう。何より、毎日の生活に不自由を感じるに違いありません。


「異世界行くんは興味あるけど、帰って来れるん?そもそも、帰って来たとき浦島太郎じゃ話にならんし、そうやないにしても、何日も留守にするわけにはいかん。無理やわ」

「向こうで何年過ごそうが、今この時、この場所へ戻れば良いんだ」

「そんなこと、できるん?」

「可能だ」


 なるほど、実際、この世界で時間がかからないなら、家族のことは心配しなくても良いのです。

 公子さんが心配していたのは、家族の生活に影響を与えてしまうことです。夫はとうに定年退職しましたが、社会人になった二人の子供は同居しているのです。公子さんが突然消えたら、迷惑することでしょう。

 でも、公子さんの冒険によって家族が何の影響も受けないのなら、話は別です。


 面白い話にゃ、乗らなきゃ損や。


 大阪のおばちゃんは、こういう場合でも、本能的に損得を計算してしまうのです。

 これから行くスーパーの目玉商品――先着百名様限りの一パック百円の卵――が買えるなら、多少の寄り道しても許されるというものです。


 公子さんは、ネコと交渉しました。


 まず、異世界へ行っても、帰って来るのは今このときで、誤差があってもせいぜい五分程度、ただし、向こうに何年でも滞在できることを確認しました。

 その上で、向こうの状況が全く分からないから、帰りたくなったらいつでもこっちへ帰れるようにしてほしい、と念を押すのも忘れません。


 ネコは、「要求水準の高いババアだ。普通、異世界へ行けるってだけで乗ってくるのに」と文句を言いましたが、最終的に公子さんの要求を受け入れました。

「ただな、あっちで過ごす時間の分だけ、こっちで過ごす寿命が縮むことになる。それは、了解してくれ」

「そうね、じゃないと、あっちで十年生きて、こっちへ帰ってきてから、その十年がなかったことにして暮らすってのも変や。第一、体がもたんやろ」

「向こうでの年齢設定は幾つぐらいにする?」

「そんなこと、できるん?」

 

 ん~、幾つぐらいが良いやろ。高校出てすぐぐらいが良いかもしれん。あっちへ行くんはウチだけやし、高校生やったら、保護者がどうのこうの言われて補導されたりするかもしれんし、面倒や。

 異世界で不審な十七、八の少女が補導されるってことがあるかどうかさえ分からないのに、真面目に悩みます。


 公子さんは、真剣に悩みました。

 こんなに悩んだのは、デパートのポイント専用カードを作るかどうか悩んで以来、久しぶりのことです。


「じゃあ、高校卒業したとこってことで、十八ぐらいにしてくれへん?その方が、体力があって跳んだり跳ねたり、逃げ回ったりするのに都合が良いと思うし」

「跳んだり跳ねたり逃げ回ったりって、お前、あっちで何するつもりだ?

まあ良い。年齢は十八歳ってとこだな。

じゃあ、契約成立ってことで」


 ネコが、得意そうに顎を上げました。

「その道を真っ直ぐ進め」

 

 こんなんで、契約が成立したことになるん?

 こんな簡単で良いんやろか?

 もっと、大層な、おどろおどろしい儀式が要るやろ?普通。

 

 あんまり簡単なので、拍子抜けしました。

 

 これって、手数料として、寿命が十年縮みますって、オチはないやろね。

 

 心の中でつぶやくと、憮然としたネコの声が聞こえました。

「手数料は、滞在時間の1パーセント。お前の寿命から分けてもらう。良心的だろう?

あと、こっちへ戻りたくなったら、向こうの世界にいる俺の兄弟探して、戻りたいって言え。俺とそっくりだから、すぐ分かる」

 

 やっぱり、こいつ、サトリやわ。

 

 でも、向こうにいるこのネコの兄弟がこのネコとそっくりって、ポケモンのジュンサ―さんやジョーイさんみたいなんやろか?でも、しゃべるネコ――ニャースみたいや――を見つけるまで帰れないなんて、詐欺や。やっぱり、美味い話には裏があるんや。

 でも、面白そうなんは確かや。時間がかからへんなら……やってみても良いかも……。っていうか、もう、やってしもてるし。後戻り、できひんやろ。

 まあ、騙されても実害ないし、ていうか、騙されるのも面白いかもしれへん……。



 魔が差したとか言いようがありません。


 公子さんは、変化のない毎日に少し飽きていたのかもしれません。


 人間、魔がさすと、考えられないことをするものです。



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