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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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ネコの出現(2)

「じゃあ、高島アパートのみんな、そうや、いっそのこと、次世代の会のみんなも呼んでクリスマスパーティーしよっか?

 玲奈ちゃん、子供会とかでパーティーしたことない?」


 ふさぎ込む玲奈ちゃんを慰めるため、高島アパートでクリスマスパーティーを開くことになりました。


 玲奈ちゃんのケーキ屋さんで一番大きなケーキを買って、みんなでご馳走を持ち寄ります。

 肉屋のトオルくんはトリの丸焼きを持ってきて、みんなに拍手喝采されました。八百屋のミヨちゃんは大盛りのサラダを持ってきて、女性陣に大喜びされました。魚屋のケイジくんは、お造りの盛り合わせです。「いっつもこれだけど……」と、照れながら差し出したお造りは新鮮でいかにも美味しそうでしたので、武史さんと和也くんが手をたたいて喜びました。

 武史さんと和也くんは飲み物担当です。ワイン、シャンパン、なぜか日本酒と焼酎、そして、玲奈ちゃんのために葡萄のジュースも用意しました。

 公子さんはいろんなカナッペを作って並べましたので、一同、思いっきり飲み食いしました。


 六畳一間に八人も詰め込んだので、狭くてたまりません。

 ご馳走を真ん中に車座になったのですが、歌ったり踊ったりゲームをするのは、廊下でするしかありません。

 でも、それがかえって新鮮で、お約束のプレゼント交換では大いに盛り上がりました。


 そろそろお開きにしようかというとき、そのニュースが知らされました。


 肉屋のトオルくんが、最新ニュースとして披露したのです。


「知ってるか?駅の横に空き地があっただろ?」

「ああ、昔、市役所があった場所ところだろ?」

 ケイジくんが答えると、リカちゃんが公子さんたちに説明してくれました。

「本当は、あそこに新しい市役所建てる予定だったんだけど、合併してなくなった小学校の跡地に建てたから、空いてしまったの」

「あそこに、大手スーパーの△△が来るんだってさ」

「△△って、スーパー最大手のあれか?」

「そうだ。△△ができりゃ、専門店が入る。この町に、ドーナッツやハンバーガーやアイスクリームのチェーン店ができるんだ。やったね」


「情報源はどこや?」

 公子さんが真っ青になって詰め寄ります。明らかに普通じゃありません。


「親父が商工会議所の人に聞いたんだ。多分、間違いない」


 公子さんは、パニックになりました。


 それが事実なら、中央通り商店街はどうなるのでしょう。お客を△△にとられて、つぶれてしまいます。

 一大事です。


 中央通り商店街は、△△の進出に対する反対運動を繰り広げるかどうか、検討しているようです。

 でも、次世代の会の面々は気楽なものです。△△ができることで、親の店が存亡の淵に立たされるという危機感なんて全くありません。

 むしろ、噂に聞くドーナッツやハンバーガーやアイスクリームのチェーン店が近所にできることを歓迎しているのです。自分の家の店の先行きの不安より、ドーナッツやハンバーガーやアイスクリームなんかを食べることができる喜びの方が勝っているのです。


「あんたら、何も知らんと、いい加減なこと言うたらあかん。

 そんな呑気なこと言うとる場合やないんや」

「何も知らんって、どういうことだよ?

 公子さんは、何か知ってるのか?

 このニュースだって俺が教えてやったのに」

 

 トオルくんが憮然とします。


「ああいう大手のスーパーは、進出した先で、そこにあった小売の店舗を根こそぎつぶしてしまうんや」


「あり得ねえ」

 ケイジくんもあきれ顔です。

「あんたらは、核になる店舗があれば、客が増えると思とるかもしれん。

 けど、そんな甘いもんやないんや。

 △△があれば、他の店は要らなくなる。客もジ△△だけで買い物が終わる便利さに目がくらんで、町の商店に足を運ばなくなるんや」

「まさか?」

「気が付くと、商店街はシャッター通りになってしまう」

「シャッター通りって、何?」

 リカちゃんが尋ねます。

「大きなお店でシャッターのあるとこがあるやない。そんなお店がつぶれるとシャッターを下ろしたままになるやろ?そんな店ばっかりになると、通りがシャッターだらけになるんや。言うたら、ゴーストタウンや」


「そんな……」

 ミヨちゃんが真っ青になりました。


「そやから、今のうちに反対運動せなならん。反対運動するかどうか検討するなんて悠長なこと言うとる場合やないんや。頑張って反対して、△△にこの町への進出を諦めさせるんや」


「それって、俺たちじゃ無理だ」

 トオルくんが頭を抱えます。


「大丈夫。次世代の会として署名ぐらいは集めれる。商店街の組合ってあるやろ?そこが中心になって反対署名集めるんや」

「どうしてそこまでしなけりゃならないんだ?」


 ケイジくんには、わけがわかりません。


「あのな、その先には続きがあってな」

 一同、思わず身を乗り出します。

「あって欲しくないんやけど、最後に行き着く先として、想像できる最悪のパターンがあるんや」


 一同、唾を飲み込みます。


「△△みたいな大きなスーパーは、もともとあった小売店舗をつぶすだけつぶした後で、採算がとれなくなると、簡単に撤退するんや。

 誰かに訊いてみ。△△は、土地を買うんやない。借りるだけや。そやから、撤退かて簡単にできるんや。

 でもって、そうなると、どうなると思う?△△が根こそぎつぶしたせいで、この町にものを売る店がなくなるってるやろ?そやから、住民がものを買いに行くとこがなくなってるんや。いうなら、町の人たちみんなが買い物難民になるってことや」

 

 一同、公子さんの話に背筋が寒くなりました。

 

 ことは、ドーナッツやハンバーガーやアイスクリーム程度の話じゃなく、商店街の存続にかかる大問題だったのです。


「俺、今の話、親父にしてみるわ」

と、トオルくんが言いました。

「俺も、右に同じ」

「私も、トオルくんやケイジくんと同じ」

「私も」

 次世代の会の面々は、それぞれ親を説得すべく早々に帰って行きました。



 公子さんは異世界から来た四人組も反対運動に協力すべきだと主張しました。

 

 こんなところで、△△の反対運動にかかわるなんて。


 昭和四十七年ていうたら大店法があったんやろか?自信ないわぁ。そやけど、規制緩和で廃止されたんは、2000年あたりやから、2000年っていうことは、平成に換算すると……十二年やろか?ここは、昭和四十七年やから……どっちにしても商店街が中心になって、商工会議所辺りを動かせば何とかなるかも……」

 

 ブツブツ言いながら知恵を絞ります。


 そんな公子さんに武史さんが尋ねました。


「詳しいんですね」

「2000年頃、規制が緩くなったせいで、知人が苦労しとったんで知っとるだけや。どっちにしても、こんな状況でお店がなくなったら、この町は大変なことになる」

「でも、歴史に介入することになります。これ以上、関与してはいけません」

「放っとけ、言うん?そんなこと言うても、知っとるんや。これから先、この長閑な町がどうなるか、知っとるんや。手をこまねいて見てろ、言うん?」


「そうです。我々は、歴史に介入すべきじゃない」


「だったら、どうしてこんなとこ来たん。来た以上、やるべきことをやるだけや。

 今、分かったわ。ウチが来たんは、この運動するためやったんや」


「ダメです」

 

 和也くんも玲奈ちゃんも唖然としています。

 公子さんの無茶には慣れてます。でも、これは、常軌を逸してます。


「公子さん、俺もタケさんと同じ意見っす。

 ダメです。諦めましょう。

 あそこまで教えてあげたんす。あれ十分じゃないっすか」

「公子さん、玲奈も思うんだけど、トオルくんたちだけでも上手にできるよ。きっと」

 

 三人が冷静なだけに、公子さんのいら立ちが募ります。


「あんたらには、人の心いうもんがないん?お世話になったこの町が、つぶれるかもしれんって瀬戸際なんや」

 

 武史さんがなだめますが、火に油を注ぐだけです。

 

 弱った。この人が駄々をこねたら、誰も太刀打ちできません。力関係が歴然としているのです。 

 

 武史さんたちが、困り果てたとき、ネコの泣き声が聞こえました。

 



大手スーパーの進出のニュースに、公子さんはパニックになります。

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