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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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ネコの出現(1)

第11章 ネコの出現


 商店街にジングルベルが流れ出すと、年の瀬が近づきます。


 この一年、いろいろなことがありました。

 武史さんは、つらつらと思い起こして振返りました。


 今年一番の出来事は、公子さんに会ったことです。今から思えば、公子さんに会うまでの時間は眠っていたようなものです。


 公子さんが来てからは、次世代の会と遊んだり、女の子と付き合ったりしました。そして、和也くんに会って、玲奈ちゃんに会ったのです。


 いつのまにか、公子さんと一緒に高島アパートで保護者のような役割をしている自分がいました。

 以前なら、そんな雑用は面倒だと他の人に任せていたでしょう。


 高島アパートでの生活は、決して裕福ではありませんが、自然を楽しみ、人間関係を楽しむ豊かで実りのある毎日でした。


 向こうへ帰っても、ここでのことを忘れんとゆとり持って生活を楽しんだら良いんや。


 公子さんのセリフが頭の中をぐるぐる回ります。

 ブラックなネコは、見つかるでしょうか。


 武史さんは、何となく、ラスボスは公子さんなんじゃないかと思うようになりました。


 非日常を求めた公子さんの願いが、武史さんたちを巻き込んで、この旅が始まったような気がするのです。

 ゲームのパーティーは、勇者、聖女、魔法使いなんかがメンバーとなります。

 公子さんのパーティーは、結婚したい男、就職したい男、親から自立したい子供がメンバーとなっているのです。

 巻き込まれたことに抗議しようと思いません。なぜなら、武史さんにとって有意義なものだったからです。

 多分、和也くんや玲奈ちゃんにとっても有意義なものだったでしょう。

 

 後は、ネコを探して帰るだけです。

 

 武史さんは静かに息を吐いて、今にも雪が降りそうな灰色の空を見上げました。





 クリスマスが近づくと、玲奈ちゃんがふさぎ込みました。


 理由は簡単に想像できます。


 玲奈ちゃんは、お店で毎日クリスマスケーキの予約を受け付けているのですが、怜奈ちゃん自身、クリスマスケーキはお家のクリスマスパーティーで食べるものだと思っているからです。

 だから、お母さんやお父さんが側にいないことが悲しくてたまりません。

 本当は泣きたくてたまらないのですが、泣いても帰れないことは分かっています。それに、公子さんを始めとするみんなのお世話になっているのに、泣いたら迷惑をかけるだけだと知っているのです。それで、我慢しているのですが、悲しくてたまりません。


 当然、ネコを探すときは、必死です。

 必死になりすぎて、同行している和也くんが心配になるほどです。


 一人暮らしの長い武史さんでも、クリスマスやお正月は、家族と過ごしたいと思ったものです。ましてや、七歳の玲奈ちゃんにとって、両親と離れて知らない土地で暮らすストレスはどれほどのものでしょう。


 ある晩、四人がいつものように武史さんの部屋でくつろいでいると、公子さんが和也くんにけしかけました。


「和也くん。あんた、無駄に女たらししとるんや。

 なんか楽しいこと言うて、玲奈ちゃんの気ぃ晴らしてあげよし」

「何ちゅう言いぐさっすか?俺は、女たらしじゃない。女友だちと仲良く青春してるだけっす」

 

 あまりの無茶ぶりに抗議しても、暖簾に腕押し、蛙の面に小便です。公子さんはびくともしません。


「何でも良いから、なんか楽しいこと提案してえな」

「もう~」


 和也くんの窮状を救助したのは、武史さんでした。


「公子さん、こういうのはどうでしょう?

 せっかく仲良くなったんです。向こうへ帰ってからも連絡取り合ったら楽しいんじゃないですか?年の違った友だちってことで……だから、今、ここで、メールアドレスの交換するんです」


「グッドアイデアやわ!」

「すげえ!クリーンヒットだ!」

「素敵!玲奈、メールとかライン、大人の友だちとすることになるんだ」

 

 一同、武史さんの提案に大乗り気です。円陣を組んで「オー!」と叫びたいくらいです。


 でも、ここで問題が生じました。スマホや携帯の充電器を持っているのが和也くんだけだったのです。だから、武史さんのスマホも公子さんのガラケーも玲奈ちゃんのスマホも電池切れで、赤外線が使えません。

 仕方がないので、それぞれ自分のアドレスをメモ用紙に書いて他の三人に渡すことにしました。

 さっそく和也くんがスマホに登録したのは言うまでもありません。


「そやけど、気ぃつけなならん。武史さんが20××年五月、ウチと和也くん玲奈ちゃんがその翌年の二月と九月と十一月に帰るんや。最初に帰った武史さんは、その時点で全員を知っとるけど、他のメンバーは、ここでのことを全く知らんことになる」

「そうです。だから、全員が無事帰ってここでのことを知るまで、メールとかしてはいけないわけです。それだけは気を付けで対応しましょう」

「ということは、玲奈ちゃんがこっちへ来た十一月になってからメールするってことだな」

「それって、楽しそう」


 メモ用紙にアドレスを書きながら、玲奈ちゃんも嬉しそうに微笑みました。


「公子さん、このアドレスって?」

「ごめんやで。ウチ、携帯のアドレス覚えとらんのや。そやから、それはパソコンのアドレスや。

 大丈夫。マイパソコンやし、家族も誰も見いひん」

「ったく、おばさんなんだからー」

 

 和也くんが苦笑いしましたが、この人に胸キュンしたことも、黒歴史として覚えておくことにしました。

 

 それから、数日間、元の世界へ帰った後、どこかで会おうとか、一緒にご飯でも食べようとか相談して楽しく過ごしました。


 でも、日が経つにつれて、だんだん玲奈ちゃんの顔に憂いが浮かぶようになりました。


 やっぱり、友だちより、お父さんやお母さんに会いたくなったのです。

 何しろ、バイト先がケーキ屋さんなのです。毎日楽しそうな親子連れが来店するので、玲奈ちゃんには酷な環境でした。


 一計を案じた公子さんが提案しました。


 こうなったら、イベントするっきゃありません。 




クリスマスが近づくと人恋しくなるものです。

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