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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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次世代の会の恋愛模様(1)

第10章  次世代の会の恋愛模様


 念願かなって、玲奈ちゃんは、ケーキ屋さんで働くことになりました。

 接客はぎこちないのですが、初々しくて好感が持てると評判になりました。


 肉屋のトオルくんが、「キミちゃんの友だち?あんな可愛い子、どっから涌いて来たんだ?」と、絶句したのですが、本当に他所の世界から涌いて来たのです。

 まあ、表立って言えない話ですが……。


「はい、じゃあ、ミルフィーユが一つ。イチゴのショートケーキが一つ。レアチーズケーキが二つ。以上の四つでよろしいでしょうか」

 ケーキを入れる箱を組み立てて、その中にケーキを並べていきます。

「保冷剤お入れします。お家に帰りましたら、冷蔵庫にお入れください」


 習うより慣れろとは、よく言ったもので、お店の人に教えてもらいながら何度かやっているうちに、なんとか様になってきました。


 公子さんも、武史さんも、和也くんも、心配してときどき様子を見に行きますが、小さな失敗はあるものの、大きな失敗はないようです。


 やっぱり、自分でやりたいことをやったのが良かったのでしょう。

 元々可愛い子でしたが、お店の制服のピンクのエプロンが良く似合って、たちまち看板娘になりました。

 ただ、どうかすると、甘いものが苦手な男の人までケーキを買いに来るようになって、公子さんたちは焦りました。


 心配したとおり、町中の年頃の男の子が、玲奈ちゃんに興味を示したのです。


 行動力だけはある、猪突猛進型のトオルくんなんかは、公子さんにアタックしたのと同じくらいの入れ込みようで、猛烈にアタックし始めました。

 デートに誘われて、いそいそと出かける玲奈ちゃんを見て、公子さんは頭を抱えました。

 玲奈ちゃん本人は、恋がしたいと言ってました。ただ、玲奈ちゃんが考える恋とは、少女マンガに出てくるような恋愛入門編のようなものです。十八歳の少女がするヘビーな恋愛は想定外でしょう。

 でも、それは説明しても分からないことです。

 もしかして、耳年増で知識だけはあるかもしれませんが、知識として知っていることと現実に経験することは全く違うのです。 


 こっちへ来た以上、そういうことも勉強しなければならないのでしょうが、それは公子さんの本意じゃありません。

 玲奈ちゃんのご両親は、玲奈ちゃんが大人の恋愛をするのを喜ばないだろうと、思うからです。


 公子さんも人の子の親です。七歳の子供が大人と恋愛すると考えるだけでも、到底容認できないことです。


 一計を案じた公子さんが、和也くんに命じました。

「ええか?あんた、玲奈ちゃんの恋人になり」


 和也くんの目が点になりました。


 言うに事欠いて、「恋人になり」とは、なんという言い草でしょう。


「俺にだって、プライドはあるんだ。いくら玲奈ちゃんが可愛くても、おたくに命令されてする恋なんて、あり得ねえ。冗談じゃねえ!」


「あんた、玲奈ちゃんがホントの十八なら惚れたやろ?」


 痛いところを突かれて言葉に詰まりました。思わず目が泳いでしまいます。すかさず、公子さんが説き伏せました。

「別に、ホントの恋しろって言うわけやない。いうたら、玲奈ちゃんのお守りしてほしいんや」

「お守りって?」

「玲奈ちゃんは恋に恋してるだけや。そやから、恋してると思わせれば良いんや。あんたなら、できるやろ?」

「そりゃ、できるでしょうが、何でそこまでしなけりゃならないんすか?」

「トオルくんやケイジくんを始めとする町中の男の人に諦めてもらうには、玲奈ちゃんに恋人がいるってことにしといた方が良いやろ?」

「確かに、それはそうかも……」

「そやから、その恋人っていうのが、あんたやってことにするんや」

「何で、俺なんすか?武史さんでも良いでしょうに」

「あかん。あの人は不器用やから、本気になりかねん」

「別に本気になっても良いじゃねえっすか」

「アホか。あの人は四十や。七歳の子に本気になったら、ほんまもんのロリコンや。

 しかも、玲奈ちゃんにとっては、自分の両親より年上の相手や。

元の姿に戻ったときの状況を想像してみ?」

 

 四十歳(こちらの世界に来た時点では三十八歳だったということですから、元に戻るとすれば三十八でしょうが、どう変わるというのでしょう)に戻った武史さんが七歳の玲奈ちゃんと両想いになっている図を想像して鬱々とする公子さんは、和也くんにも同じ想像をするよう促します。


 さすがに、それはヤバイ。犯罪じゃね?


 さすがの和也くんも事態の深刻さに思い至りました。そうして、特殊任務を了承して、玲奈ちゃんを口説くため、ケーキを買いに行くのでした。




「カズくんは、タケさんと仲が悪いの?」


 この頃になると、玲奈ちゃんは、武史さんのことを『タケさん』、和也くんのことを『カズくん』と呼ぶようになっていたのですが、何とか玲奈ちゃんを誘うことに成功した和也くんは、玲奈ちゃんから質問攻めに遭いました。

「そんなことないさ」

「でも、いっつも喧嘩してるよ……」

「傍から見ると喧嘩が多いのは、確かだ。でも、仲悪いわけじゃねえ」

「でも、二人でいると、どっちも怖い顔してる」


 和也くんは、ニヤリと笑って弁明を始めます、

「俺、向こうで就活、つまり就職活動の真っ最中だったんだ」


 玲奈ちゃんは、和也くんが何を言いたいのか分かりません。そもそも就職なんて小学生には縁のないものですから、どういうものか分からないのです。

「で、エントリーシートって、志望する会社に出す書類があるんだけど、上手く書けなくて苦労してたんだ。その話したら、タケさんが見せてみろって言ってくれて、スマホに残ってたデータ見せたんだ」

「スマホ、使えるの?」


 おいおい、食いつくのは、そっちかよ。


 頭を抱えたくなりましたが、噛んで含めるように説明します。

 

 小学生の玲奈ちゃんにとって、こっちでは、スマホも携帯も使えないことは大問題なのです。

 ゲームもできませんし、ラインもメールもできません。


「充電器は持ち歩いてる。だって、あっちこっち出かけてるとき、電池切れなんてバカげたことになりたくねえだろ?だから、通信できないけど、保存した文章なんかは呼び出せるんだ」

「で、タケさんに見せたら、どうなったの?」


 何だい。ちゃんと話、分かってるじゃねえか。


 これ以上話が通じないと、ギブアップするしかないと覚悟を決めたとき、玲奈ちゃんが想像以上の理解力を示したので、和也くんは胸をなで下ろしました。


「あの人、細かく添削してくれたんだ。添削ってのは、つまり、上手に書き直してくれることだ。

 字の間違いとか、変換ミスとかだけじゃなく、文の流れを変えたりするんだけど、そもそも、何が言いたいのか分からないって言ってくれて、言いたいことにインパクトを持たせるっていうか、目立たせなきゃならないって、そういう文章の書き方教えてくれたんだ。

 根は良い人だよ」


「でも、喧嘩してるよ」


「だって、本音で付き合えるの、あの人だけだぜ?

 こっちの連中に平成の話なんかできねえし、ブラックなネコの話もできねえ。

 公子さんだって、俺たちの親ぐらいの年だし、お世話になりっぱなしで、全然頭上んねえだろ?」

「ええ?公子さんって、そんな年なの?」

「ああ、21××年の翌年で年女……つまり、四十八だったらしい。しかも、向こうに旦那や結構大きな子供がいるらしいぜ。

 それで、玲奈ちゃんのことを気にかけてくれたんだろな」

 

 玲奈ちゃんは、妙に納得したのでした。



いつも喧嘩している武史さんと和也くんは、本当のところ仲が良いようです。でも、玲奈ちゃんの偽装恋人には、和也くんが指名されます。適材適所です。

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