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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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玲奈ちゃんの登場(3)

「で、話は元に戻るけど、ウチと玲奈ちゃんは、二階の空き部屋に入るさかい大家さんに頼んでくれへん?」

「了解しました。でも、仕事はどうするんです?」

「井田屋食堂は、玲奈ちゃんに譲ろうかと思うんや」

「公子さんは何を?」

「ケイジくんに頼んで魚屋にでも雇ってもらおうかて思とるんやけど」

「魚屋っすか?」

「ネコが現れそうな場所やろ?」

「確かに」

 

 武史さんが頷いたとき、玲奈ちゃんが口を出しました。


「玲奈、ケーキ屋さんが良い」


 三人は驚いて玲奈ちゃんを見ました。今更ながら、本人の意向を無視して話を進めていたことに気付いたのです。


 勇気を振り絞って発言したので、エネルギーを使い果たしてしまったのでしょうか。それとも、大人三人に凝視されて怖くなったのでしょうか。玲奈ちゃんは、黙り込んでしまいました。


「ケーキ屋ってねえ。あれ結構大変だぜ。大丈夫か?今日見てたけど、料理運ぶのもおっかなびっくりって感じだったじゃねえか」


 和也くんに言われて、玲奈ちゃんは情けなくなりました。

 確かに、玲奈ちゃんは何もできません。こっちへ来て気付いたのですが、勉強と遊ぶ以外、玲奈ちゃんができることは何もないのです。


 でも、ここに、世の中の流れと関係ない人がいたのです。

「ケーキ屋ねえ。そうやねえ。怜奈ちゃんがやりたいならトライしてみよか?」


 一発逆転ホームラン。一気に場の空気が変わりました。


「良いんですか?多分、クビになるのが関の山ですよ」

「そんなこと言ってるから、あんたは女が分からないって言われるんっすよ。ものごとって、自分でやりたいって気持ちがありゃ、結構何とかなったりするもんっす。

 言われてみりゃあ、公子さんの言うとおりかもしれないっす。確かに、簡単じゃないかもしれないけど、玲奈ちゃんがやりたいなら、それもありかもしれない」

「でも、トラブル起こしたら、公子さんに迷惑がかかるんじゃ……」


 心配する武史さんをなだめて、公子さんが決断しました。

「怜奈ちゃんは、自分でやりたいことをやりたいようにした方が良いわ。

 じゃなきゃ、こっちに来た意味がないやろ?」


 心なしか公子さんが大きく見えました。


 公子さんだって、トラブルを歓迎しているわけじゃありません。でも、働きたくないと言っていた玲奈ちゃんが、自分から働こうと言いだしたのです。

 本来、七歳の子供が働くことはできません。児童労働は法律に反するからです。

 でも、この世界では、玲奈ちゃんは十八歳なのです。働かないわけにはいきません。

 ただ、中身が七歳の玲奈ちゃんが働くのです。できるだけ、本人の希望を叶えてあげないと、つぶれてしまいます。

 そうなったらますますあのネコのそっくりさんに会うチャンスがなくなりそうで、嫌な予感がしたのです。


「で、玲奈ちゃん、俺、向こうじゃ二十三歳だったけど、こっちじゃ十八歳してる。

 君、かなり年下みたいだけど、向こうじゃいくつだったの?」

 和也くんが尋ねると、武史さんも続きます。

「僕は、向こうでは三十八歳のサラリーマンだったんだ。あのまま向こうにいれば、二つ年をとったから四十になってるはずだ。君はいくつで、何をしてたの?」


 二十三歳と四十歳。どちらも七歳の玲奈ちゃんからすれば、とんでもない大人です。二十三歳はおじさんで、四十歳はおじいさんです。

 こんなに年の差があると、友だちというには年が離れ過ぎています。和也くんは、大人びて見えましたし、武史さんに至っては別世界の人――エイリアン――に見えました。目に見える姿がどうこういうより、雰囲気が全然違うのです。


 怜奈ちゃんは、公子さんも年上だということをしっかり忘れていました。

 だから、本当の年齢を言いたくありませんでした。

 言わなきゃならない局面に来たら言うにしても、最初から白状する気はなかったからです。白状したら、せっかくこっちへ来たのに、ここでも子供扱いされるような気がしたからです。

 でも、こうまでストレートに訊かれたら、答えないわけにはいきません。


「七歳なの」


 武史さんと和也くんの目が丸くなりました。

 井田屋食堂で会ったとき、もの慣れない様子から、かなり若いとは思っていました。でも、ここまで幼いとは……。

 

 玲奈ちゃんに穴が開くんじゃないかと思うほど、マジマジと見つめます。

 

 見てくれは、和也くんも武史さんも、そして公子さんも、みんな高校卒業してすぐぐらいで青春真っ盛りという感じです。玲奈ちゃんだって、そうです。

 でも中身は、それぞれ違います。

 六十一歳の公子さん(ただし、武史さんや和也くんは四十九歳だと思っています)、四十歳の武史さん、二十三歳の和也くん、そして七歳の玲奈ちゃんです。

 それぞれ、年相応の感性で、年相応の夢があります。問題は、各人の夢が食い違っていることです。

 

 利害関係が一致するのは、ただ一つ。さっさとあのネコの兄弟を探して、元の世界へ帰ることです。


 でも、四人にとって、それで十分です。それ以上、一致する必要はないからです。


 しばらくして、武史さんがつぶやきました。

「なるほど……公子さんが放っておけないわけだ」


「そうや。それでな、二人に確認しときたいことがあるんや」

「何です?」


 何気なく促した武史さんは、公子さんの破天荒な性格を忘れていたことを思い知らされました。


「武史さんも和也くんもロリコンやないやろな?」


 二人は、この爆弾発言にギョっとしました。

 このおばさんは、何をまた言い出すことやら。でも、言ってる口は、十九の娘のそれです。頭が痛くなる展開でした。


「大丈夫です。僕は、子供は相手にしません」

「俺も大丈夫だって。でも、向こうで七つでもこっちじゃ十八なんだから、十八としての経験積むのは悪くねえんじゃねえ?」

「あかん。二人とも光源氏みたいにこの子を自分好みに育てるならともかく、そうじゃないならウチが許さへん」

「光源氏みたいに自分好みに育てるって、どういうことっすか?」

「これだから、教養のない人間は……」

 武史さんがげんなりしながら説明します。

「いいか、源氏物語の中で、光源氏は、愛する藤壺とよく似た少女を見つけて、自分好みの理想の女性に育てあげるんだ。それが紫の上だ」

「そういうこと。

 自分好みに育てて結婚して、最愛のカップルになるんや。そこまで責任とれるなら、付き合うても良いわ。何せ、見てくれは十八なんや。ウチよりよっぽど大人っぽいくらいや」

 

 公子さんの説明で、和也くんは納得しました。

 なるほど、目の前に七歳の子供がいても気にも留めないでしょう。でも、十八歳の姿をした玲奈ちゃんの場合は、別です。

 公子さんより少し背が高い程度ですが、何より足の長さが違います。腰の位置が高いのです。しかも、胸も大きく、公子さんが気の毒になるほどです。ウエストもすらりとくびれて、女らしさ満開です。顔も、目鼻立ちがはっきりしていてアイドルみたいに可愛いと来ています。


 誰でも、付き合いたいと思うでしょう。

 でも、玲奈ちゃんが恋をするには無理があります。小学生がするようなプラトニックラブならともかく、いくら体が十八歳だとしても、心は恋ができるほど育ってないからです。

 だから、公子さんは、最初に二人に釘を刺したのです。怜奈ちゃんを恋愛対象にしてはいけないと。


「それでな。頼みがあるん」

「何ですか?」


 武史さんも和也さんもご馳走を前にしてお預けを食わされたイヌのような気分です。

 公子さんの無茶には慣れていたはずですが、今度のは今までで最悪のものでした。


「こっちの世界の男の子、つまり、肉屋のトオルくんや魚屋のケイジくんたちのことや。

 あの子らが玲奈ちゃんに熱上げんよう気ぃつけて見張ってて欲しいんや」

 

 武史さんも和也くんも絶句しました。


「何でそこまでするんですか?」

「信じらんねえ。俺たちボディーガードじゃねえっす」

「いくらなんでも七歳の子に恋愛は早すぎるわ。下手すると、玲奈ちゃんが傷つく」

 公子さんが一刀両断すると、玲奈ちゃん自身がおずおずと口を挟みました。

「公子さん。玲奈、恋、したい。せっかくこっち来たのに、恋もできないなんて嫌」

「玲奈ちゃん、恋ってものすごく素敵だけど、ものすごくドロドロしてて傷つくことがあるん。 あんたには、まだ無理や」

「お父さんもお母さんも、あれもダメ、これもダメって、何にもさせてくれなかった。だから、玲奈、こっちに来たのに」

 知らないということは、強いものです。

 玲奈ちゃんにそう言われたら、公子さんも引っ込むしかありませんでした。




見かけは大人、中身は子供の里奈ちゃんを迎えて、三人は大変です。

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