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ブラックなネコ  作者: 椿 雅香
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筒井和也くんの場合(2)

 この世界で就職するにしても、一体、ここがどんな世界で、就職先にどんな会社があるのか調べなければなりません。

 図書館でもあれば簡単なのでしょうが、辺りにはそういう建物はありません。

 商店街の端から端まで歩いて、小さな本屋を見つけました。

 

 しかし、なんて野暮ったい商店街でしょう。

 

 和也くんのいた平成の時代の商店街は、歩いている人こそ少なかったものの、もっとおしゃれでスマートでした。

 これじゃあ、まるで昭和です。

 とにかく、本屋で情報収集することにしました。何しろ、ここでは、スマホは使えないのです。ネットが使えない以上、本屋のお世話になるしかないじゃないですか。


「いらっしゃい」

 店員に声をかけられました。

 

 二十歳ぐらい銀縁メガネをかけた青年です。見るからにイケメンのインテリという感じで、和也くんの嫌いなタイプですが、今は、本屋の店員相手に喧嘩するほど暇じゃありません。 

 スルーして店内を見渡しました。

 店員は、入り口脇のレジの前にいて、さっきから和也さんの方を見ています。万引き防止のためというより、何かわけがありそうで、背中がむずがゆくなりました。

 もちろん、和也さんは万引きしようと思っているわけじゃありませんし、やましいことは何もありません。立ち読みは犯罪じゃありませんから、無視することにしました。

 とりあえず、その辺の本を手に取ってパラパラと眺めました。

「本年度のベストセラー小説」と冠した本がうず高く積み上げられています。

 聞いたこともない表題の本です。

 確か、本というのは、一番最後に出版社名とともに発行した年月日が書かれていたはずです。

 パラパラとめくって、それを探します。昭和四十七年六月三日と書いてあるのを見て、納得しました。


 この商店街がいかにも野暮ったいのは、昭和だからなのです。

 昭和なら、就職も平成ほど難しくないでしょう。

 ちょうど、リクルートスタイルのままです。このまま、社員を募集している会社に行けば良いのです。


 視線を感じて目を上げると、店員が意味深に見つめていました。


 アルバイトの店員に興味はありません。ハローワークを探して、そこで就職先を探すべく、書店を後にしました。

 でも、この小さな町にはハローワークなんてありませんでした。

 端から端まで歩いても三十分もかからないような小さな町です。市役所のような建物は、かろうじて見つけましたが、ハローワークなんか影も形もありません。


 ハローワークがなかったら、どうやって就職先を探せば良いのでしょう。


 大問題でした。


 しかも、町自体も小さくて、町工場のようなものが数軒あるだけで、テレビのCMで見るような会社なんかありません。


 ネコは、こっちは人手不足だから簡単に就職できると言ってました。

 でも、和也くんにとって、就職先は、ほどほどの規模の会社の正社員であることが大前提なのです。

 商店街のあちこちで見かけるアルバイトもどきの店員募集なんか論外です。

 ネコは嘘をついたのでしょうか。いえ、嘘をついたわけではありません。ただ、本当のことを言わなかったのです。

 こっちの世界で就職するということは、アルバイトか家内企業のような零細企業の社員しかないのです。


 騙された。


 和也くんは、ガックリと肩を落としました。



 美味い話にゃ、裏がある。

 ネコの舌先三寸に騙されたのです。


 こんなところにいる意味がない。さっさと帰ろう。

 向こうで就活頑張るっきゃないか。


 そう思って、こっちへ来たとき立っていた路地へ戻ろうとしたときです。

 

 悄然と歩き出した和也くんの肩をたたく人がいました。

 さっき本屋の店員です。銀縁メガネの奥で切れ長の目がキラリと光りました。



「間違っていたら申し訳ないんだけど……。

 君、もしかして、ネコに誘われて平成から来たんじゃない?」


 え?そんなこと、どうして知ってるんだろう?

 もしかして、この人もそうなんだろうか?

 だとすれば、こっちの世界へ紛れ込んだ先輩ってことになる。


「ああ、やっぱり、何となくそうじゃないかと思ったんだ。リクルートスーツなんか着てるから、あっちじゃ、大学の四回生だったりする?」


 やけに馴れ馴れしいと感じるのは、思い過ごしでしょうか。

 警戒する和也くんに店員がさらりと告げました。

「元の世界へ戻ろうとしてるみたいだけど、ここへ来たときの場所へ行っても戻れないよ」

「どうして?」

「ネコに言われなかったかい?こっちのネコに頼めって」

「そういえば……。

 もし、戻りたくなったら、あのネコとそっくりのネコに戻りたいって言えって言われた」

「そういうこと。そのそっくりさんは、あのネコの兄弟らしい。

 で、僕は、ここ一年以上あのネコのそっくりさん探しているんだけど、見つからないんだ。ある意味、ブラックな話だ。あのネコは、ブラックなネコだったけど、別の意味でもブラックだった。

 まあ、立ち話もなんだし、昼時だから、食べながら話さないか?おごるよ」

 

 道理でお腹がすくはずです。

 

 でも、知らない人におごってもらうというのも……。和也くんが遠慮すると、店員は平然と言いました。

「どうせ、こっちのお金持ってないんだろ?食べ物買うことなんかできないよ」

 

 ここでは、ポケットに入っている平成のお札や貨幣は使えないのでしょうか。

 そうです。和也くんも、ようやく気が付きました。

 確か、昭和の時代では、福沢諭吉や樋口一葉、野口英世といったお札じゃなく、聖徳太子、伊藤博文や岩倉具視や板垣退助といったお札が使われていたと聞いたことがあります。

 貨幣だって、平成○○年という貨幣は存在しないのです。いえ、存在してはいけないのです。

 ここは、素直にご馳走になるしかないようです。

 ついでに、この世界で就職するには、どうすれば良いのかも教えてもらわなければなりません。何しろ、元の世界へ戻してくれるネコが見つからないというのです。ネコを探す間、ここで生活しなければなりません。

 生活するということは、仕事と住む場所が必要だということです。

 店員が和也くんを連れて行ったのは、いかにも野暮ったい食堂でした。

 





和也くんは、武史さんと遭遇します。ある意味、頼りない和也くんにとって、武史さんからいろいろ教えてもらえるので、ラッキーだと言えるでしょう。

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