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しんと静まり返っている。否応なしに緊張が昂り、動悸の音が耳に大きく聴こえる。ちょっとした音も響いてしまいそうな石造りの地下二階にも、人の気配が感じられない。リオウは眉間に皺を寄せ、訝しんだ。
警戒に警戒を重ねて地上に近いところで会合をしていないのは理解できる。だが同じ階にいないとしても、人がいれば気配くらいあるはずだ。一体どれだけ地下に下りていると言うのだろうか。
「また階段があるわ」
レンの言葉通り、進んだ先には階段がある。また進み、二人は深い深い、逃げ場のない地下へ下りていく。地下七階に下りた瞬間、リオウはレンの前に片腕を出して止まるよう制止した。レンもその意味を知り、立ち止まる。
昏く何の音もしない地下七階に下りた二人の視線の先には、緑に光るLEDランプがまるで地獄の門だと示唆するようにあったからだ。
リオウは目を閉じて神経を集中させる。だが人の気配はしなかった。
「他に何か見える?」
リオウが尋ねるとレンはかぶりを振った。
「扉と取っ手とあの光くらい」
ようやく動きがあり、二人は音を立てずに進んでいく。万が一にでも罠がないとは限らない。失敗は許されないのだ。
しかし危惧していた罠はなく、リオウとレンは扉の前まで辿り着いた。取っ手を掴んでリオウはレンを見る。レンは覚悟を決めたような表情で頷いた。
再会したばかりの時は何の感情の色もその瞳には浮かべなかったことを思い、リオウは目を細める。本来のレンに戻りつつあるならそれで良い。明るく笑うレンがリオウは好きなのだから。
開かれる扉の先はLEDランプ同様に緑の光で包まれていた。中に入り、扉を閉めて二人は先へ進む。そしてレンが声をあげ、リオウは息を呑んだ。
「何だこれは……」
大きな強化硝子でできた筒状の物の中に見たこともない生物が浮いていた。体の至るところにケーブルが繋がれている。筒の中は怪しげな液体で満たされており、時折コポ……ッと空気の音がした。
「……あそこにもある……」
レンが見ている方をリオウも目で追い、瞠目した。筒はずらりと並べられ、展示会でも催しているかのようだ。そしてその硝子の筒の中には必ず何かが入っている。リオウは吐き気がした。
途端、レンがリオウにしがみつく。どうしたのかと問えばレンは黙って一点を指差した。リオウは嫌な予感を覚えながらレンの指の先にあるものを見た。
瞬間。
<ブルー=ムーン>の活動内容をレンから聴いたことをリオウは思い出した。
――最近では人間と魚の遺伝子を組み合わせて人魚を作ろうとしたみたい。
「悪い趣味だよ」
リオウの瞳に映ったのは目を閉じ、生きているのか死んでいるのかも判らない人間の少女の姿。しかし彼女の下半身に脚はなく、代わりにイルカの尾が縫い付けられていた。痛々しい縫い目が、元からそうではなかったことを如実に伝えてくる。
「……遺伝子なんて嘘だったんだわ……本物の女の子を……」
気持ち悪さにレンは涙を零しながらも胃の中の物を吐瀉しないよう耐える。それよりももっとグロテスクなものを長年見続けたリオウは黙ったまま少女の頬を見つめた。
人魚、と呼んでも違和感はないであろう姿の少女はだが、不自然に尾を縫い付けられている。それはあまりに残酷で、残虐で、残忍で、胸を締め付けられるほどに苦しい姿だった。しかし残酷であるが故に併せ持つ美しさも、確かに其処にはあるのだ。もっとも、リオウには理解できないが。
「……許せないわ……お母さん以外にも殺していたのね……」
ぐっ、と拳で涙を拭い、レンはリオウから離れた。
「行きましょう。あの子のためにも、あの男は生かしておいちゃいけない」
強い、とリオウは思い、頷いた。レンでなければ動けなくなるほどの衝撃だったに違いない。けれどレンは前を向く。挫けない。
「俺がちゃんと依頼を遂行するから」
レンも無言でうなずき、二人は足を出した。




