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青い月  作者: 江藤樹里
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3



「今回の依頼は、あくまでレンの父親である<ブルー=ムーン>の暗殺のみで、組織の<ブルー=ムーン>はつぶさなくて良いの?」


 再会した日のようにソファに座り、リオウが口を開く。リオウは先ほど見たレンの様子が気になって仕方がなかったが、キッチンから戻ってきたレンは別段おかしな様子も見せなかったため尋ねるタイミングを失ってしまっていた。


「そうね。優先させるべきはあの男の息の根を止めることだけ。向かってくる結社の人間はリオウの好きに対処して。逃げる奴らは放っておいて構わないわ」


 リオウの確認に冷静に頷いたレンを確認し、リオウは文字がびっしりと事細かに書かれた紙をテーブルの上に広げた。それは数日リオウが調べた秘密結社が活動している建築物の見取り図だった。


「こんなに近くまで行って大丈夫だったの?」


 驚いてリオウを見るレンに、リオウはこともなげに頷いた。近づく度に性別も年齢も変えていた。今夜リオウが忍び込んでも周囲に近づいた人物と繋がる者はひとりもいないだろう。


「外に<ブルー=ムーン>本人がいるなら問題ないけど、今回は建物の中だからね。出入り口や非常口の場所、其処にいる見張りの人数。他に出入りできそうな箇所やいざという時に壊せそうな脆い壁を調べておかないと脱出に困ることもあるから。全部外から調べただけだからあまり信用できないけどね」


 数日張り込み続けた結果、ほぼ毎晩活動は行われているようだとリオウは言った。だがその活動は主に上層部のみのごく小規模なもののようだ。だからこそ内容が危険だということでもあるとリオウは踏んでいる。


「でも、中の間取りも描かれてるわ」


 レンが指差す箇所を見て、リオウは少し頭を傾けた。


「一階の部分だけだよ、それは。活動は全部、地下で行っているんだ」


 地下、とレンが眉根を寄せる。何か考え込んでいるようだ。それには構わずにリオウは続けた。


「今夜はこのナイフで仕留める予定だよ。これには神経毒と劇毒が塗ってある。神経毒は余計なことをさせないために動けなくする毒。俺は拷問の趣味はないからすぐ息の根を止められるように劇毒を使ってる。ナイフだけで仕留めるのが一番だけど掠るだけでも相当な効果があると思う。俺は当たったことないから判らないけど」


 刃を布で覆ったナイフを実際にレンの目の前に出し、リオウは説明した。


「暗殺完了の時点で俺とレンの取引は成立。その時に俺が見つかっていれば向かってくる相手は殺して、見つかってなければ隠れて侵入したのと同じとこから脱出。そのまま此処に戻ってくる。

 何か質問はある?」


 レンはかぶりを振った。リオウはナイフをしまいながら、それじゃあ、と続ける。


「今夜決行する。暗殺確認のために必要なものはある? 大抵はターゲットの躰の一部だったりするけど」


 リオウの言葉にレンは顔をしかめて、必要ないと拒んだ。


「リオウについていくから私がこの目で確認するわ」


「え? 来るの?」


 驚くリオウにレンはさも当然だと言うように頷いた。リオウは困惑した目でレンを見つめるが、レンの意志は変わらないようだ。仕方ない、とリオウは息をついた。侵入経路をざっと図面上で説明し、最後に一言付け加える。


「自分の身は自分で守ってよ。他のことまで気を遣ってられないからさ」


「ええ」


 その時、レンが今まで見せたことのないような笑みを浮かべるのをリオウは見た。冷たい氷のようなその微笑は、リオウが覚えているどのレンのものでもなく、今のレンのものだった。リオウが知らない、レンの。


 ふ、とレンの顔から眼をそらし、リオウは見取り図が書かれている紙を燃やしてしまった。全て頭の中に叩き込んである。明日の今頃までは忘れないだろう。


 灰皿の中で形を失っていくそれを見ながらリオウは息をついた。




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