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レンから依頼を受けて数日、リオウは<ブルー=ムーン>について調査を進めていた。レンも手伝うとは言ったが、リオウにはリオウのスタイルがある。全て調査され、暗殺のみに出ていた十二年前とは違う。
「やっぱりあの人は変わった」
リオウがいない部屋でレンはそっと呟く。わざわざ本家を離れたリオウを訪ねてきた理由を、彼は解っているのだろうかと思うが二十四年も死と隣り合わせの世界で生きているリオウの感覚が常人とは違うことを思い、レンは自嘲した。
それでも十七年前に初めて会ってからの五年間、少なくともリオウの心は自分となんら変わらない子どものものであったようにレンは思う。
父親だと言う<ブルー=ムーン>に捨てられた母と自分は住む家さえなかったのだろう。乳飲み子を抱えた母が苦労して探した職は暗殺を生業とする名家のハウスキーパーだ。住み込みで働いていた母を見ながら、いずれは自分も母のように働くのだと育っていったレンは五歳の時に初めてリオウと会った。
殺し屋というには幾分か幼く、だが雰囲気はそれそのものの少年は、レンにとって初めて見る自分以外の子どもだった。リオウも同様に、暗殺対象ではない年齢が近い子どもに会うのは初めてだとレンに明かし、二人は当然のように一緒にいることが多くなった。
齢七で既に暗殺した人数を優に三桁を超えていたリオウは精神的に参っていたようで、常に無表情だった。それは今も同じか、とレンは思い直す。ただ殺した人間の数があれより増えただけ。もう数えることさえやめるくらいの人数だろう。
しかし暗殺の意味もよく理解していなかったレンはリオウとは正反対に明るかった。血と腐臭は常に傍にあって当然と思っていたレンは、リオウが返り血まみれで帰ってこようが、何も関係なく笑顔で迎えていた。
「無知ほど……愚かで恐ろしいことはないわね」
幼い自分を思い出し、レンは苦笑を漏らす。リオウの部屋は広く、レンひとりでは寂しすぎる。リオウも同じことを思うだろうか。広すぎることは本家でも同じだから、むしろ狭いとさえ思っているかもしれないなとレンは思い直した。
静かな部屋には時計の針が進む音と、レンのついた息の音しか聞こえない。レンは母が死んで親戚に預けられてからの六年を思い出し、その場にうずくまった。
閉めたカーテンの僅かな隙間から陽射しが入り込み、レンの目の前のカーペットを細い三角形に照らしていた。
その眩しさが目にいたくて、レンはカーテンの隙間をぴったりと閉じる。知らない間に息が乱れており、冷や汗が伝っていてレンは目を閉じて落ち着こうとした。
だがそれは逆効果であったことをレンは知る。先ほど思い出してしまった六年がレンの頭に浮かんでは消えていく。血の臭いが染みついてしまっていると眉根を寄せられ、怯えるような目を向けられたあの六年間を。
屋敷のことを他言しないようにとレンは記憶を操作された。だが預けられた先の家ではレンが何処から来たかを家の者は知っていた。記憶は操作されたが消されたわけではない。リオウと過ごした日々はレンの中に確かに残っていた。
あんな家に十年も住んでいたお前は異常だと、自分も、母親も、リオウでさえ馬鹿にされた。レンにとってはその親戚の方が異常そのものだったのだが、多勢に無勢、レンは病院に押し込められ苦痛の六年を強いられた。
毎日毎日、あれは悪い夢だったのだと言われ、あの過去をなかったことにされようとしていた。それが耐えられず、レンは暴れた。
あれが夢だったならお母さんは何処にいるの。
あれが夢だったならリオウは何処にもいないと言うの。
あれが夢だったなら此処にいる私は誰なの。
暴れるレンに薬を打ち、医師たちはレンの記憶を換えようとする。レンは薬による浮遊感と戦いながら、演じることを覚え、誓った。
どれだけの人が夢と言おうが、病院から出てしまえばそれが真実かどうかは判る。本当にリオウがいなかったなら諦めるしかないと。
そして六年が過ぎ、レンはようやく解放された。しかし自分を殺すのに六年という時間は長すぎて、レンの顔からは表情が失われていた。リオウも自分を殺し続けて表情を失っていたなら……と気づき、レンはどうしようもなく悲しくなったのを今でも覚えている。けれど涙は――流れなかった。
それから三年はレンが記憶を取り戻さないかと心配して病院側の監視が絶えず、レンはリオウを探すことができずにいた。しかし病院側も三年経てば安心したのかレンの前に姿を現すことはなくなり、レンは行動を始めた。




