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「レン!?」
リオウは慌てて駆け寄り、レンを抱き起こすとレンの顔を覗き込んだ。まるで長い距離を全力疾走した直後のように浅く速い呼吸を繰り返し、蒼白な顔色をしたレンは苦しげにリオウを見上げる。
「……リオ……っ」
「レン……!」
何が起きていると言うのだろう。何故レンが突然こんな風に?
リオウは辺りを見回した。そしてある一点で動きを止める。
「……」
レンを床に横たえ、リオウはゆっくりと立ち上がった。視線は移さぬまま、ただ一点を、ジャンの背後にあるコンピュータを、見つめて。
動かす者のいないはずのコンピュータは自我でも持っているかのように勝手にプログラムを進めていく。画面に次々と現れる文面に目を通し、リオウは目の色を変えた。
この男は、ジャンは、自分が死ねばレンも死ぬよう遺伝子の他にチップを埋め込みプログラムしていたのだ。本気でレンを片腕として置くつもりだったのか、ジャンの心臓が止まってから数分後にチップが作動するように二十二年も前から設定している。
リオウは何とかして止めようとキーボードを叩き始めた。どんなプログラムであろうと二十二年も前に作られたシステムだ。何とか止めることが可能ではないだろうか。
しかし不吉にもコンピュータの画面上でカウントダウンが始められた。リオウが渾身の力を込めてコンピュータを壊しても、レンのチップは作動したままのようで依然としてレンは苦しんでいる。打つ手がないと知り、リオウは体が竦むのを感じた。
レンが……死ぬ?
リオウはレンの元へ戻り、何処にチップが埋め込まれているのかを調べようとした。チップさえ取り除けばレンは死なずに済むのではないだろうか。そう思ったからだ。
しかしチップの摘出はできなかった。二十二年前、赤ん坊のレンに埋め込まれたその特異なチップはレンが成長するにつれ体内へと侵入していったのだろう。
「……」
レンの細い指が腕に触れ、リオウはレンを見つめた。レンは先刻よりも苦しそうに呼吸をしながらも、笑んでいる。苦しさのあまり目尻に溜まった涙が今にも溢れ出しそうだ。
「あのね、言いたかったことが……あるの……」
恐らくレンの最期の言葉になるであろうそれを聴くために、リオウはレンの口に耳を近づける。レンの震える唇が開き、リオウに何事かを囁いた。リオウは目を見開き、レンを見つめ、レンはただ、笑んだ。
十二年前と、何も変わらぬ笑顔で。
そして、永遠のような時間をかけて、レンは目を閉じた。もう二度と、その目が開かれることはない。もう二度と、その唇が言葉を紡ぐことはない。もう二度と。
彼女は笑わない。




