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たっくまん  作者: 座布団
7/7

ユーレイ大騒動・完結編


………て。


………きて。


起きて。目を開いて。




「…………う……」


酷い頭痛だった。一体どちらが天井かも分からないような、浮遊感にも似た頭の痺れに呻き声を漏らす。

左側頭部に冷たく硬い感触を感じるので、左を下にして床に寝かされているのだろう。



無意識に顔をしかめながらも、目を開いて辺りを見回す。

首を回しただけで脳の中心がズキズキと痛む。



…何か、酔いつぶれた時みたいだ。



そこは、見た所倉庫だった。薄暗く、棚に囲まれ、辺りにはダンボールが積まれている。

漂う埃の匂いから、それらが相当放置されている物である事は何となく分かった。


よく見るとダンボールにはマッキーペンぽい字で

「十色工業」

と書かれている。

十色工業と言えば…確か、僕等がここに配属された直後に潰れてしまった会社だ。大規模な会社だったのか、ばっとむ町の郊外には倉庫やら工場やらの数多くが今でもそのまま放置されていると聞いた事はあった。



…つまり、居場所を特定する事が出来ないって事だ。


ばっとむ町郊外である事は分かるが…



ふと、今になって両手足を縛られている事に気がついた。

まぁ痺れていたとしてもHーRをそのまま放置するSTなんているわきゃ無い。



「…きっちり装備も外してくれちゃって…」


捕虜にされたソリッドよろしく、服や頭に巻いたバンダナくらいしか装備は無い。

少し手首や足首を動かしてみる。


当然というか何というか…キッチリ締めてあり、ちょっとやそっとじゃほどけそうも無い。


辺りに刃物やらガラスの欠片やら、利用できそうな物も見当たらない。



「……うぅ……」



困った、力も入らないし頭も回らない。とりあえず脱出した方がいいにはいいはずなんだけど。


ああ、誰か捕まえられてる人達が一人でもいればなぁ…話聞けるのに。流石にHーRを同じトコには入れないか。



………ん?



そういや、僕は誰に起こされたんだ?


とか頭の中でぐるぐると思考を巡らせていたが、それは不意に中断させられた。


突然倉庫の扉が開いたからだ。


とりあえず目を瞑る。

いかにもまだ気絶したままです!的なオーラを全身から発するよう念じ、自らの

「動」

の気配を殺す。



要するに死んだフリだ。



「おはよう御座います、よく寝れましたか?」




バレてました。



軽く舌打ちして相手に向き直り、皮肉たっぷりに言ってやった。


「…お陰様で気持ち良く眠れました」


「ははは、それは良かった。それなら目覚めなければ良かったですね?」


朗らかに笑い飛ばされた。どうやらジョディの面の皮は通せなかったみたいだ。


「…ジョディさんの顔じゃあない気がするけど…」


顔の布は取り払っていた。声もそうだが、顔も事務所で会った時のジョディのそれとは食い違う。

今のジョディはつるりとした見た感じ病弱そうな女性だ。少し若返った感もある。



ジョディがふん、と鼻で笑う。



「…これがお望みなのかしら?」


カチリと何かのスイッチが入る音。

と、瞬時に顔、声、体格に至るまでが大人っぽい艶のある女性のそれに切り替わる。



宇宙の闇ルートの技術は日進月歩どころか秒進日歩…してやられました。こんな装置まで開発されてるとは…


「随分と甘い方ね、実は別人である事を期待していたのかしら?」


口調は変わっているが、言葉に含まれた棘は全く変わらない。


「甘い?何言ってんだか…確認だよ確認。ジョディさんが正真正銘STなら、遠慮する必要は皆無だからね」


真顔で下から言い放つ。床に積もった埃が台詞に合わせて舞い上がる。


「…口を開けるのも苦しいだろうに、随分とやせ我慢するのね?……そういうのが嫌いなんですよ、HーRさん」


忌々しそうに顔をしかめて、頭にブーツをゴリゴリと押し付けてくる。



いや痛いから。



「何故、私がこんな手間を…何故、貴方達HーRは…こんなにも邪魔なんでしょう。今回だってそうだ。ちょっとした不注意で正体がバレて始末した女がたまたまああいう都合のいい宗教と職に属していて、上手い具合に仕事の取引が出来そうだと思ったら…」


「あんたの失敗から生まれたタナボタじゃん…っていたたたたっ!」


すっげ力入れられた…頬の骨折る気か。

「話は最後まで聞くべきですね。…順調のはずだった。あの赤マント男がこのジョディ…私がなりすます前の女の知り合いでいなければ…。よりにもよってHーRが友人ではバレるのは時間の問題…だからこんな手を打ちました」

一息にそこまで喋ると、一旦言葉を切る。

ジョディ…いや、厳密には違うか。偽ジョディは饒舌だった。

自分の計画が上手く行ってるとか思って調子に乗ってるのだろう。



「上手い具合に貴方達は分散してくれました、そしてこうして一人確保した…後は貴方を人質なりなんなりに使えば楽にカタがつきます」


そう信じて疑わないのか、実に愉快そうな笑みを浮かべている。



「………プッ」


思わず笑ってしまった。

手が自由なら口を押さえてジャガーさんっぽくプスプス笑ってしまうトコだ。



案の定偽ジョディの機嫌を損ねてしまった。顔を踏みしめるように力を込めながら言ってくる。



いやだから痛いって。



「何ですか?貴方、自分の立場分かってますか?」


…これ言うと怒りそうだけど…


「…まぁ……あんたよりは」


面白いように偽ジョディの顔が歪むのが足の下からでも確認出来る。



「いや、分かってませんね。今この場でジョディさんと同じ場所に送ってあげましょうか?」



分かりやすい事を言ってくる。

確かにこの状況、僕には一方的に不利だ。下手な事を言ってしまえば本当にこんな所であの世に行ってしまいかねない。


だけど。



「…それは無いね。予感がしないから」


それは相手には意味不明の言葉だっただろう。

だが僕には深い意味がある。

大した能力も無い僕がこれまで生き延びてきたタネとも言える、自分でも良く分からない第六感だ。


「…何を言っているのか分かりませんが、貴方の力で今の状況を打開できそうにはありませんね」



ごもっとも。


僕は今きったない床に手足縛られて寝かされてる訳だし。



「…僕の力では、ね。」


ぽつりと、一言。

と同時。




「滅牙、龍殺陣ッ!!」


耳をつんざく轟音と共に吹き飛ぶ扉。

舞い上がる粉塵。


その煙の中を突っ切って現れるのは薄暗くても鮮やかな赤。



もう、キター!って感じだ。

勿論奴はじゅんぺまん。


「ここか!辺りの倉庫片っ端からぶっ飛ばしてきたけど…ってジョディッ!?」

右手に漆黒の長刀を携え、予想通りのリアクションを返してくる。


説明している暇は無い。僕はすかさず叫んだ。


「じゅんぺまん!これはジョディさんの偽者だ!!」

「何ぃ!?似すぎだろ!!」


「いや僕もビビったけどさ!とにかく別じ……っ」



喉元にナイフを突きつけられ、僕は思わず口を閉ざす。


「そこまでよ……じゅんぺまん。このお仲間がどうなってもいいのかしら?」


ジョディの口調に戻った偽ジョディがじゅんぺまんに言い放つ。例の艶っぽい声で。


「う……っ」


たじろぐじゅんぺまん。


僕は躊躇せず言い放つ。


「いいから早く!」



奴も躊躇せず言い放つ。


「分かったァ!滅牙ァ、龍飛槍ッ!!」

言うと同時腰溜めに構えた刀を突き出し、刃物のように鋭い一陣の風を巻き起こして飛ばしてくる。



「ちょっ、待……はえぇよ!!」

「何っ!?」



『ギャアアアアアアアア!!』




見事なまでの直撃。

不意を突かれたのか偽ジョディも何も出来ず、埃と段ボール、そして僕と共に吹き飛ばされていった。



†††



「ーー…ったく、殺す気かッ!!」


「いや、加減してたって。それに加減の為に予備動作小さくしたから隙も無くなった。効率良くね?」



此処は例のキャバクラ事務所。


偽ジョディをふん縛って搬送した後、適当な理由をキャバ嬢もとい信者の皆さんに説明しに来た所で、溜まってた鬱憤を吐き出してしまった。


僕は全身絆創膏だらけ。偽ジョディが創傷塗れだったのを考えれば軽い怪我だけれど…


じゅんぺまんはヘラヘラと笑っている。何気にムカつく。



「いや効率とか言われてもなぁ…」



隣の部屋では今、ひろきまんとレイが事情を説明している。どうやら黒幕はジョディさんで、警察のお縄になったと説明しているようだ。



これだと本物のジョディさんが悪者になってしまうけど、仕方ないかな…あそこまで似ていた偽ジョディを偽者と説明するのはちょっと難しい。宇宙に関して話してしまうとまたややこしい話になってしまう。


この団体、どうなってしまうんだろ…なんて言ったら、ひろきまんなら


「これは各個人の問題だ、これ以上私達が介入すべきでは無いと思う」


とか言うんだろうけど。




隣の部屋ではさっきからどよめきが途絶えない。



リーダー的存在を失ったのだから仕方ない話だろう。


「教祖に何て言ったら…」


「この支部どうなる訳?」




……支部だったのか…。


「そもそも、いきなり逮捕だなんて…私達に話もさせてくれないんですかぁ?」

「そうよ!逆にあんた達の方が怪しくない?!」



「……それは…」


ひろきまんが口ごもる。扉越しに感じる黒いオーラはレイだろう。



その時、これまで静かだった奴が口を開いた。



「うっせェてめぇ等ちったぁ黙れコラァ!!」



こっちに居ないと思ったら、たっくまんもあっちに居たらしい。



一瞬で水を打ったように静かになる。



「さっきから聞いてりゃごちゃごちゃごちゃごちゃと…そんなに慌てる事かァ?わーったわーったよ、言ってやらぁ。お前等のジョディって奴は利用されたあげく殺されちまったんだよ!

こっちが気ぃ遣ってやってりゃどこぞのIT企業みてぇにぐだぐだ喚きやがって、草場の影からあの女も悲しんでんじゃねぇのかコラァ!!」



ズダン、と机を叩いたらしき音。



……なるほど、間違っちゃあいない。

僕は思わず笑みを零していた。


たっくまんは続ける。ひろきまんも止める気は無いようだ。


「お前等にとって奴がどんな女だったかは知らねーがな、奴が居なくても何とかやってくってくらいのノリで行けよ!……ったく、鬱陶しっつの」



そう吐き捨ててこちらの部屋に押し入ってきた。


「ちっ……何で夜中にこんなトコでこんな事やってんだ。オレ先帰ってるわ」



苛々しているのを隠しもせず事務所を出ていく。



「……元はと言えばあいつが今行こうって言ったんだけどな」

隣でじゅんぺまんが口を開く。彼もまた、笑っている。



「……そういう事だ。死んでいるよりは生きていると思わせた方が良いと判断して誤魔化そうとしていた。すまない」


ひろきまんの事だ、素直に頭を下げたのだろう。一呼吸程度の間があった。



「…君達がこれからどうするのかは私達がどうこう言える立場じゃないが、あの男が叫んでいた事も多少は心に留めておいてくれると嬉しいな」



そう言って、彼もまた此方の部屋に来る。



「………行こう。」



異存は無かった。




こうして、今回の事件は幕を閉じた。


先に行ってしまったたっくまん以外のメンバーと、空が白み始めた街を歩いている。



ユーレイ騒動も偽ジョディが起こした事件をユーレイのせいにして誤魔化したものだろう。


皆の他愛ない話を聞きながらそんな事を考えていた。




…待てよ?




僕はユーレイが偽ジョディだと思っていた。だけど僕が窓でユーレイを見た時、偽ジョディは事務所内に居たはずだ。



先に確認するために何らかの方法で窓に移動していたのだろうか?



それに……



「なぁじゅんぺまん。どうして僕の居場所が分かったんだ?」



そうなのだ。通信機の発信源を辿れば分からない事も無いだろうが、そういう機械はアパートに置いたまま。


連絡しない限り、じゅんぺまんが僕の居場所を知る術は無い。



「へ?どうしてってお前が連絡して来たんだろうが」


…は?


「いきなり通信機から遠くで何か鳴ってるような音が聞こえるな〜とか思ったら何かお前戦ってるみたいだったし、暫くしたらお前、郊外の倉庫の何処かに捕まってるみたいって言って来ただろ」



……??



おかしい。おかし過ぎる。



僕は思わず通信機を取り出した。


当然スイッチはOFFだったけど…




刹那、声を聞いた気がした。




「有難う」


という、彼女の声を。

やっとこの話が終わりました…ちょこちょこ書いてたんですが、まだ読んでる方が居たら有難う御座いますです、はい。

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