#02 協力することになってる
しばらくは毎日投稿しようと思ってます
「いっやーまさか、聖女役が君だとは思わなかったよ………ふ、ふくっ」
まだ収まらないのか、腹を抱えて目の端の涙を拭う先輩にイラッとくる。
「もお、笑い事じゃないっすよ!マジで怖かったんですからね、あのアレスティとサシとか。本当に殺されるかと思いました」
じとっとした目で睨みつけると、何故か更に笑われた。なんでだ。
「ごめんて、でも皆の前で話すわけにはいかないだろう?私はさっき君に言われて初めて気が付いたんだ、あの場ではああするしか………ふふっ………い、今までのシャノンが全部、荒木………」
顔を背けても肩が震えてますよぉ?
発作が再発した先輩はもう無視だ無視。オレもぷいっと顔を背けたのに、何故か先輩にぷるぷる震えながら生暖かい笑みを向けられた。なんでだ!
「はぁ………やっと落ち着いた」
少ししてようやく収まったらしい、まったく。そして、よしと気合いを入れる先輩の様子にオレは首を傾げる。
「どうしてそんなに精神統一する必要が?」
「え?そりゃもちろん、生徒会室に戻った時思い出し笑いしないように。そんなのアレスティらしくないからね」
可笑しそうに言われると何だか無性に腹が立ってくるが、後の言葉に引っ掛かりを覚える。
「………聖女が俺だって分かったんなら、もう演技とか必要ないんじゃないすか。アレスティも攻略対象の1人ですけど、ルートでは戦闘多くてハイリスクなので俺は選びませんし」
やっぱり恋愛じゃなくて安全優先なんだね、という言葉は聞かなかったことにしてやる。どこの世界に自分の生存と国の存続より色恋を取るあんぽんたんがいるか。
お察しの通り、ここは乙女ゲームの世界だ。それも、バッドエンドで主人公の死亡や国の滅亡がある類いの、だ。
俺が転生を自覚したのは約10年前、当時7歳だった。自分の名前や容姿からここがゲームの世界だと気づいた俺は、その日からそれはもう頑張った。自らの生存率を上げるために、できることは全てやった。その結果現在ここにパーフェクトな聖女がいる。そう、俺。
逃げるなどして安易に行動を変えると本筋をねじ曲げてしまう可能性がある。その懸念から、できるだけ元のストーリーに忠実に毎日を過ごし、かつゲーム知識と10年間で培った力を活用し堅実に攻略を進めているのである。
「その考えには賛成だね」
転生した俺………俺達が変に動くと、ゲームの本筋が変わって将来にどんな影響があるか分からない。それを防ぐために、先輩も孤高の黒騎士様(馬鹿にしてるよな?ーーーいやいやしてないっす)の仮面をそこらのライダー並みに厳重に被って(夢を壊すといけないっすからねーーー今すぐ永遠に眠らせてあげようか?)ひぇっ………被っているんだそう。そっちもそっちで大変そうだなあ………ん?
というか、これはもしや。
「俺が先輩攻略すりゃ良いのでは………?」
相手がそれを了承済みならば面倒な好感度上げともおさらばできるし、ストーリーが分かっている上で協力すればハラハラドキドキの展開も予定調和でしかなくなる。
つまり『やらせ』なのだが、案外良い案なのではなかろうか。特に、相手を騙して恋愛する必要がないのが良い。嫌だったんだよな、本気で好きではない相手との恋愛とか。王子は顔は………かっ、顔だけはイケメンなんだけどさ。
「確かにその手もあるね………」
顎に手を当てて考え込む先輩。そんな仕草の1つすら様になる。
………なんか、こうしてると本当に男に見えてくるな。
そう。今までの態度が男前過ぎて忘れそうになるのだが、先輩の前世は女性である。一応言っとくけど俺は男ね。
まあ、なんだ。2人揃ってTSした事になる。
前世でも今と同じような性格で仕事もでき、面倒見も良くて頼れる先輩は、他の女性社員にとてもモテていた。俺は興味なかったんだけど。
「でも、もうかなり王子の攻略を進めちゃってるよね?ここにきての鞍替えは少ーし、周りへの印象が悪いんじゃないかなあ………」
先輩は難しい顔をしている。ガチ恋しようとかいう考えが全くもって浮かんでいないらしいのを見て、俺は少しだけほっとしてしまう。
市井で暮らしていた間、俺はこの美少女フェイスのせいで、何人、何十人もの男にナンパされ、言い寄られ、果ては襲われそうになったという苦い記憶がある。そして聖女だと判明しこうして学園にやって来てからも、身分を笠に着て俺に近付いてくる、気持ち悪く、おかしな目をした男を山程見てきた。
ゲームのヒロインだからか聖女の力なのかは分からないが、どうやら俺には魅了の力があるらしい。それもデフォルトで。この世界で暮らしている内に、周りが盲目的に俺を好いてくる事から気が付いた。
なので、自意識過剰ではあるが少し身構えてしまった。相手は先輩、あり得ないとは分かっていても、この10年の経験から恐れずにはいられなかったんだ。
ま、攻略対象にはこの力も効いてなさそうな感じだから大丈夫だとは思ってたんだけど。
「やっぱ駄目っすか」
「そうだねえ………でもほら、私が王子と君の仲を取り持てば多少やりやすくなるでしょ?」
自信ありげに言うけど、大事な事を忘れているのではなかろうか。
「アレスティって仲人キャラじゃないんすよ先輩………むしろ仲人されるキャラっす」
冷徹な騎士様が王子の粋な計らいで聖女と過ごす、なーんて描写はゲームにあった。でも騎士様が王子と聖女の橋渡し………うんないな、100%ない。アレスティは恋愛うんぬんが得意なキャラじゃない、そんな彼が不器用ながら聖女と心を通わせていくのが良いんだ。
「大丈夫だって、私に任せといてよ」
本当だろうか。妙に疑わしい。この人シゴデキハイスペ人間だけど、以外と抜けてるとこあるんだよな~………。
そういやあ、先輩が乙女ゲーするとか意外だ。人の趣味に口出しする気はないけれども(ブーメランなので)、少し不思議に思う。
「………さて、そろそろ戻らなければ。あまり長く不在にすると、君の王子様に嫉妬されてしまうからな」
一瞬でアレスティの化けの皮を被り、軽口を叩いてくる先輩を視線で黙らせ………なんでっ!笑うんだよおっ!
「もお~!」
いかにも可愛らしい女の子がやりそうなぽかぽかという効果音付きで殴るフリしつつ、その実かなりの力を込める。
「痛たっ、いたいいたい………アハハッ、私が悪かったって………ふ、ふふっ」
2人横に並んで歩き出す。
はぁ………今後は、愉快な学園生活になりそうだ。
2人は中堅企業の経理企画部で働いてました。ちなみに神原は課長で、経理課から異動してきた叩き上げです。姉御肌・コミュ強・優秀と三拍子揃っていて部長からの信頼も厚く、周りからそれはもう慕われていました。それに対し荒木は合理主義、元は内気で物静かな性格………だったのですが、入社して彼女の下についてから、普段は隠れている先輩のヤバさ加減に目ざとく気付きストッパーになっていたようです。つくづく苦労性。
前世の2人はなかなか良いバディだったのでは?




