スノードロップの約束
ーー墓地 真夜中
男がゆっくり歩いている
真夜中のためあたりは静まり返り
木々のざわめきだけ響いている。
一つの墓地の前で男は足を止めた
墓標に刻まれた名前を、男は静かに指でなぞる。
「ヴィクトリア・レイヴンクロフト」
男は持っていた花を墓標に捧げる。
花は彼女が好きだったスノードロップの花だった。
ルシアン
「お嬢様。
会いに来るのが遅くなり申し訳ございません。」
「ご安心ください。
お嬢様の分まであの方の手足となり
最後までお守りいたします。」
ーー4年前
ルシエドが教会の修繕をしている時だった
ヴィクトリアが帰ってくるのが見えた。
心なしか足取りが軽い。
ルシエドは訝しむ。
最近のお嬢様はあの男をチャリティーで見てからは
焦燥の表情を浮かべることが多くなっていた。
数日前も
ヴィクトリア
「ねえ。ルシエド。
なぜ私たちから幸せを奪ったあいつは
のうのうとしているの?」
「どうして私たちはあいつに罰を与えることができないの。
警察に言っても証拠が不十分だと言われ取り合ってもらえない。。。」
ルシエド
「・・・お嬢様。
仇であるあの男、ジャマル・カレイの素性はわかっています。
必ず、罪を認めさせてやります。
そのためにも奴に近づければよいのですが。。。」
ヴィクトリア
「そうね。
ジャマルに近づく方法がないか考えてみるわ。
明日、ローテリアル大学の学際があって
私も教会の作っている刺繍の小物を売りに行くの
ローテリアル大学は著名人も多いから
知り合いになれないか試してみるつもりよ。」
ルシエド
「そうですか。
あまり無理をなさらないでください。」
ーー教会
嬉しそうなヴィクトリアを見て
ルシエドは何か朗報があると思い
急いでヴィクトリアのもとに行く。
ルシエド
「お嬢様、どうでしたか」
ヴィクトリア
「ルシエド。やったわ。
ある方が私たちに協力してくださることになったのよ。
そして早速、ジャマルに近づけるチャンスを頂けたわ。」
ルシエド
「ほんとうですか。
お嬢様、ジャマルは成り上がりものですが
いまや実業家の1人でなかなか会うことも
できない立場になっています。」
ヴィクトリア
「ジャマルが出席する舞踏会に行けることになったの。
舞踏会まで日がないわ。早速、準備しなくちゃ。
マーガレットにお母さまのドレスを仕立て直しもらうわ。」
ヴィクトリアが急いでマーガレットのところにいこうとする
後ろ姿に向かってルシエドは尋ねる。
「お嬢様。あの方と言うのは?」
ヴィクトリアは振り返って興奮したように告げる。
「ふふ。あなたもきっと知っているわ。」
数日後、
ルシエドはヴィクトリアと共に
エイドリアンが指定したカフェを訪ねた。
ルシエドとヴィクトリアは緊張しながらエイドリアンを待つ。
ヴィクトリア
「ルシアン。どうしましょう。
あれから冷静になって考えたのだけど
なぜ。あの方は私たちに協力してくださるのかしら?
あの方には何も利点がないのに。
悩み過ぎて私が見た都合の良い夢だったん
じゃないかと思うの・・・」
ルシエド
「お嬢様・・・」
ルシエドが何と声をかけて良いか迷っていると
男性の声がした
男性
「ヴィクトリアさん。
安心してください。夢なんかじゃありませんよ。」
ヴィクトリアが男性の顔を見て
安心した表情を浮かべる。
「エイドリアン様。
良かったいらしてくださったんですね。」
エイドリアン
「もちろんです。」
エイドリアンはルシエドの方を見て
「君はルシエドくんだね。
初めまして私はエイドリアン・ヴォルフといいます。
ローテリアル大学で教鞭を取っています。」
エイドリアン
「存じております。。。
エイドリアン様はなぜ私の事を?」
ヴィクトリア
「そうです。私も不思議に思っていたのです。
私のこと、私がしたいことも最初からご存じだった。」
エイドリアンは微笑む
「ヴィクトリアさん。
私にはある叶えたい理想がありましてね。
優秀な人材は何人いても足りないんですよ。」
「お二人は世界は間違った均衡の上に成り立っている
とは思いませんか?」
「等価交換ではありませんが。
あなた方の望みを手助けする代わりに
あなた方の力を私に貸していただけないですか?」
ヴィクトリア
「あの男に復讐できるなら。
何でも協力させていただきます。
エイドリアン様。」
ルシエド
「私も是非、協力させてください。」
エイドリアン
「もちろん。
改めて歓迎るよ。
ようこそ我が組織オルド・アルカナへ。
歓迎するよ。」
それからお嬢様はジャマルの懐に上手く入り込み
計画は順調に進んだ。
そしてついにお嬢様は悲願を達成された。
証拠の隠蔽も問題なくでき、
世間が事件を忘れすまでお嬢様は身を隠す手筈になっていた。
それがあの男が現れたせいで計画が狂った。。。
ルシエドは
アルフレッドとゼノがレイヴンクロフト邸を出るのを確認し
すぐにヴィクトリアの元へ急ぐ。
ルシエド
「お嬢様。」
ヴィクトリア
「ルシエド・・・。」
ルシエド
「警察は何か言っていましたか?」
ヴィクトリア
「ボートから私のドレスの布切れが見つかったと
言っていたわ。
咄嗟に別の日に引っかかてしまったと言ったけど・・・」
ルシエド
「申し訳ありません。
私がボートを細部まで確認していれば
このようなことには」
ヴィクトリアが首を横に振る
「いいえ。ルシエド。
あなたのせいではないわ。
きっと普通の警察官なら見逃していたわ。
相手が悪かったわ。」
ルシエド
「あの二人組の警察官達は
コンビを組んでから間もないのに
何件もの事件を解決しているそうです。」
ヴィクトリア
「ええ。彼らは手ごわいわ。
特に彼、アルフレッドは
私がどうやってジャマルを殺したかまで
もう見当をつけているわ。」
ルシエド
「まさか。証拠は消しました。
ドレスの布切れだけでは
お嬢様を犯人にはできません。」
ヴィクトリア
「・・・」
ルシエド
「お嬢様はしばらく外出を控えてください。」
ヴィクトリア
「わかったわ」
数日後ルシエドはヴィクトリアに呼ばれる。
ルシエド
「お嬢様どうされましたか」
ヴィクトリアは静かに微笑む。
「ルシエド。
あなたには本当に感謝しています。
あなたは今まで私によく尽くしてくれたわ。」
ルシエド
「・・・どうしたのすか
急にそんなことをおっしゃられて
まるで最後みたいじゃないですか。」
ヴィクトリア
「私はあの方のおかげで悲願を達成できた。
私はまだあの方にその恩返しが出来ていないわ。
でもそれはもうできそうにないわ。。。
だからルシエド、私からの最後のお願いを聞いてほしいの。」
「私の代わりにあの方を守り
あの方の夢が叶うように助けて
あげてくれないかしら。」
ルシエド
「お嬢様・・・
もう決められてしまったのですね。」
ヴィクトリア
「ふふ。
そんな顔をしないで
私は家族の元にいくのだから
やっと弟とかくれんぼの続きができるわ。。。」
ーー数時間後
ルシエドは静かに部屋に入る。
サイドテーブルには薬瓶が置かれてる。
ルシエドはヴィクトリアの寝顔を見た。
まるで眠っているようだった。
その顔は安らかでわずかに微笑んでいた。
ルシエドは今にも泣きそうな表情を一瞬する。
ルシエド
「お嬢様。必ず。
お約束は守ってみせます。
どうかご安心ください。」
ルシエドはレイヴンクロフト邸を後にした。
ーー4年後 エイドリアン邸
ルシエド
「お呼びでしょうか。エイドリアン様」
エイドリアン
「・・・近くアルフレッド・櫻塚の弟が
アステリア公国に来るそうだ。」
ルシエド
「アルフレッドの弟?」
エイドリアン
「名前はルシアン・櫻塚
表向きはローテリアル大学への留学だが
本当の目的はアルフレッドの死について
調べるためだろう。」
ルシエド
「どうされますか?」
エイドリアン
「そうだな。。。
まずは実力を見ようじゃないか。
手始めにルシアンが持っていると思われる
アルフレッドの魔導書と手帳を確保しろ。」
ルシエド
「わかりました。
数名に当たらせます。」
ルシエドは一礼すると部屋を出ていく。
ルシエド
「ルシアン・櫻塚か・・・」
そして路地裏の襲撃が決行されたが
カイルに邪魔が入り魔導書と手帳の確保は失敗に終わる。
ーー現代 組織拠点の一つ
男が二人。
魔道具の手入れをしている男
もう一人は腕立て伏せをしている。
ドアが開き
ルシエドが入ってきた。
大柄な男が腕立て伏せを止め、
魔導具を整備していた青年が顔を上げる。
ルシエド
「二人とも集まってくれ。」
ルシエド
「ノア。傷の具合はどうだ?」
魔道具を手に持った男が口を開く
ノア
「はい。完治しています。
いつでも任務に就けます。」
ルシエド
「そうか。
二人とも研究局の件は知っているな。」
腕立てをしていた男
「知ってます。
裏切りもののイザベラ局長を処分した
アーノルド室長まで亡くなったんですよね。」
ルシエド
「ああ。そうだベル。
イザベラの殺人トリックを見破ったのは
ルシアン達だ。」
ベル
「ルシアンってゼノやカイルと
一緒に行動しているガキじゃあないですか。」
ルシエド
「ああ。
ルシアンとカイルはレイモンドの件でも
世話になったが今はゼノも加わり
われらの大きな障害になってきている。」
ベル
「ゼノか。すみません。
あの時、我々が奴を始末できていれば」
ルシエド
「気にするな。
目的であった新魔法式を奪うことだった。
それは達成されたのだから。」
ルシエド
「だがいよいよ我らの脅威になった
彼らをこれ以上自由にしておくにはいかない。」
ベル
「・・・やつらの暗殺の許可が
あの方から出たと思って良いんですね。」
ルシエドが静かにうなづく。
ルシエド
「ただし今回は確実に始末をしたい。
綿密な計画が必要だ。」
ベル
「了解しました。
今度は必ず仕留めます。
なあ、ノア。」
ノア
「ああ。・・・カイル・ローレス。
あの時の仮は必ず返す。」
ルシエドたちは今後の計画を練るため
話し合いを始める。
ーー科学捜査研究所
諜報局員が薬の納品の振りをして
鑑識官に近づく。
諜報局員
「ハンカチと録音魔石の調査はどうなっている」
鑑識官
「・・・。
もう少しでハンカチは解析が終わるようだ。
録音魔石はまだ封印解除には時間がかかるだろう。」
諜報局員
「そうか。
引き続き監視してくれ。
それからあの方から伝言がある
屋敷まで来るようにとのことだ。」
鑑識官
「・・・承知した。」
他の職員が通りかかる。
諜報局員
「納品のご確認ありがとうございました。」
鑑識官
「ええ。確かに受け取りました。
ご苦労様でした。」
鑑識官は手にした荷物を
しばらく眺めていたが
静かに瞬きをしてから歩きはじめる。




