消された真実の魔導書
兄の遺品である魔導書を受け取ったあの日から、
ルシアンは何度もページをめくり続けていた。
兄の生きた痕跡が刻まれたその本を、今日も震える指で開く。
兄の残した論理を知りたくて
留学先の大学では本来の法学部の座学よりも多く
魔法の講座を受けている。
現象再定義理論
魔法の原理
古代術式解読学
古代魔法文字
だが兄の論理は難解で書かれていて
理論の半分も理解できない。
それでも知りたかった。
兄は最後に何を見つけたのか。
何を追い、何故死ななければならなかったのか。
そして最終ページには、
兄からの最後のメッセージが残されていた。
ルシアンへ。
まず先に謝罪しておく。君を巻き込みたくなかった
君がこれを読んだとき、私はもう生きていないだろう。
そして、その死が事故であると発表されたなら
それは偽装だと思ってほしい。
私は現在進行中の調査において、不自然な事象を複数確認している。
これまでの仮説と観測結果が一致しないのだ。
誰かが意図的に証拠を書き換えている可能性がある。
それは....
そこで文章は終わっていた。
魔導書の最後のページは破かれていたのだ。
誰かが持ち去ったのか。
それとも兄自身が隠したのか。
膨大な遺品の資料を調べていると
兄の手帳を見つけた。
ルシアンは兄の手帳を握り締めた。
そこには見慣れた几帳面な文字が並んでいる。
子供の頃から変わらない筆跡だった。
あるページを開く。
〇月×日
午後11:13分
現場到着
仮説検証を開始する。
仮説Bを検証中
土属性魔法反応を確認
ゼノとは別行動、後で合流予定
事故報告書には
死亡推定時刻:午後10時前後とある。
「……違う」
兄は事故で死亡したとされる時刻から、
一時間以上後も現場で行動していたことになる。
「兄は事故死から1時間以上生きていた・・・?」
事故報告書と手帳。
どちらかが間違っている。
この矛盾は何を意味するのだろう。
この矛盾こそが、兄の死の真相へ繋がる最初の手掛かりかもしれない。
さらに兄の遺品を調べていくと
一枚の紙片が見つかった。
魔導書の最後のページと同じ紙質だった。
切れ端は断片的なもので他にも切れ端があるようだ。
その切れ端には
私はまだ犯人を特定できていない。
だが、私の死後に事故という結論が発表された場合、その結論は偽装である可能性が高い。
なぜなら――
遺品から切れ端が見つかったことで
兄が意図的に隠した可能性が高くなった・・・
兄は、自分が殺される可能性を予測していたのだ。
ルシアンは事故報告書を静かに握り締める。
事故報告書
〇月×日
場所:旧市街地 〇番地
被害者:アルフレッド・櫻塚 (Alfred Sakurazuka)
職業:警察官(留学・研修中)
所属:アシュフォード警視庁 特別捜査協力係
死亡推定時刻:午後10時前後
死因:出血性ショック
第一発見者:ゼノ・ハリントン
鑑定担当者:ジェイミー・エリオット
特記事項
魔法発動形跡あり
その一行一行が、今では疑わしく見えた。
「死亡時刻の記録は改ざんされていた可能性がある」
「……兄さん。」
「あなたは何を追っていた?」
「兄さんは事故死なんかじゃない。」
ルシアンは兄の手帳を胸に抱きしめた。
この瞬間、兄が追っていた最後の事件は、弟の事件になった。




