第39話 その気持ちは、もう彼女は知っている
「そういう意味なら、私の方が多く話せるかもしれませんね。少し“刺激的”な事になりましたからね」
「ほぉ! 刺激的!! 大好きな言葉ですわ!」
なぜか誇らしげな表情なユイカちゃんと、その言葉を聞いて一気に目に輝きを取り戻したシュヴァリエさん。もしかしてユイカちゃん、今の状況を楽しんでらっしゃる?わざと刺激的とか言ってるし。確かにくすぐり拷問をしたから、ある意味で濃厚な時間を過ごしていたけど、それにしてもわざと興味を刺激するような言い方…もしかして、恋バナとか好きなのかな。全然イメージがないけど…気になる!
「何から聞きたいですか?」
「では……少し耳は拝借」
頬を赤らめながら耳を近づけてほしいと手招き。182センチの高身長のユイカちゃんと、小柄なシュヴァリエさんではかなりの身長差がある。おそらく150台。普通に話していては周りにも聞こえてしまう。流石に聞かれると恥ずかしいと思ったのだろうか。いやそれならもっと前からしても良かったのでは?と思わざるを得ない。
腰を屈めシュヴァリエさんの身長に合わせてあげた。ちらちらと周りを見た後、耳に口を近づけて何かを聞いている。全く俺には聞こえないので話の内容はわからない。気になるけど聞いたらいけないような気がしている。いいなぁ恋バナ。俺もしたい。
数秒後、ユイカちゃんに異変が。一瞬体をびくっと反応させたかと思えば、目を閉じ眉間に軽くしわを寄せて少し呆れたような表情をしつつも、少し頬を赤く染めている。そして一通り聞き終わるといつものようにスッと背筋を伸ばす。軽く咳払いをした後に目を開いて、シュヴァリエさんを少し睨むように見る。
「わたくしの気持ちは、今のユイカさんになら共感してもらえるのでは?」
そういうとなぜか俺をチラッと見た後に視線をユイカに戻す。なになに?話が見えてこないんだけど。すごく気になるんだけど!!いったいどんなことを聞かれているのか。
「まったく……。夢叶君、少し席を外してくれませんか?」
「うん、わかった! じゃあ俺はちょっとベネットさんと話してくるね」
「えぇ、そうしておいてください。後で合流します」
軽く手を振ってその場から離れて、豪華な料理をほおばっているベネットさんの方へと向かった。どういう話になっているのかはわからないけどあの反応を見るに、俺には聞かれたくない話みたいだ。まぁ恋バナにおいてそういう事はよくあることで、気になるけど聞いちゃいけない。色々な事情、知ろうとしてはいけないこともあるのだ。たぶん。なので好奇心はあるもののそれは忘れるにかぎる。
近づいていく俺に気付いてベネットさんが軽く手を振る。
「どうベネットさん、楽しんでる?」
「ぼちぼちな。こういう雰囲気は得意じゃないけど、飯は美味いしこんなにいい酒を飲んだのは久しぶりだ」
そう言いながらステーキを食べて、グラスに入ったワインをグイッと飲み、満足げに口元を緩ませる。言われてみれば褐色肌の頬がほんのりと赤いし、かすかにアルコールの匂いが漂ってくる。でも何よりも─。
「よかった」
「ん?なにがだ」
「顔も明るくなったから。前を向いてくれたみたいで嬉しくて」
何もかもを諦めてハイライトがないような目で盗賊になりかけていた─というかほぼなっていた。だが今は、目には光が宿り、人生を前向きに考えているように見える。
言葉だけで人の心を動かすのは難しい。
実際、俺とバルバロスの戦いを見るまでは希望は薄れ、諦めムードで空気は恐ろしいほどに重かった。でもこうやって結果を残せれば心は少しずつでも動いてくれて、前を向いてくれる。この会場を見渡せば自分たちの行動は無駄ではなかった、誰かにとって立ち上がれる力となって希望になれたという実感湧いた。
俺の言葉に一瞬驚いたように目を丸くさせて固まった後、こそばゆそうに頬を掻いて視線を逸らす。
「お前らのあの戦いを見てたら、なんか……希望が持てたような気がしたんだ。まだあきらめるのは早いかもしれないって……でも! 少しだけだ! まだ円卓の騎士を1人倒したくらいだからな! 私はそう簡単には絆されないからな!」
グラスに残っていたワインを一気に飲み干すとプイっと顔を逸らす。
言葉ではそう言っているが、どう見ても本心ではかなり絆されているように見える。『希望を持てた』という言葉もなかっただろう。素直ではないけど、前を向いてくれているのだからいいんだ。それを聞けただけでついつい顔がほころんだ。
「でも……ありがとうな」
「エヘヘ、その言葉を聞けただけで満足ですよ。本当に良かった」
「……フンッ。そういえばお前ら半端じゃなく強いじゃねえか。アタシの時に手抜いてたのか?」
「ううん、本気だったよ。バルバロスよりも、ベネットさんの方が剣術と体術は上だったってだけ。俺の攻撃はいなされたり力を逃がされたり、絶妙に軸をずらされたりして上手く攻撃に切り替えられなかった。バルバロスは俺よりも遥かにパワーやフィジカルも上で、しかも魔法もバンバン撃ってきたけど、対処できて攻撃に繋げられた。ベネットさんは強いよ。円卓の騎士にも勝るくらいの技術がある。断言するよ」
パワーで劣っていたけども、バルバロスとの剣戟の方がはるかに戦いやすかった。決してバルバロスの技術が未熟であったわけではない。俺と同等クラスではあったと思う。だからこそ戦っている最中にはベネットさんの凄みを改めて感じていた。
でもそれと同時に、これだけの実力者が世間の移ろいによって力を発揮できず、志半ばで全てを諦めざるを得ない状況になっていたのが恐ろしく感じた。こういう境遇の人はきっと、ベネットさんだけではなくこの世界にはたくさんいるのだろう。そう思うと、この世界の業は意外と深いのかもしれない。
「そりゃどうも。お前の言った通り剣術や体術には優れているかもしれねぇけど、アタシは火力とパワー不足だ。お前みたいに影は操れないし、ホシモリみたいに光線はぶっ放せない。特にあの最後の光線はえぐかった」
「オーバードライブ・レイだね!確かに凄かったよ~!間近で見てたけど綺麗だったし、肌がピリピリしてきて威力が伝わってきたよ!それに颯爽と前に出てきた瞬間から見惚れてて……エヘヘ、流石ユイカさんだよ~」
あの時の事を思い出して、鮮明に浮かんできたユイカちゃんの惚れ惚れとするカッコいい姿についにやけてしまった。颯爽と俺の前に出てきてただ一言『私に任せてください』。カッコいい!あれこそヒーローの振る舞いだよ。
「……お前、やっぱりホシモリの事がメチャクチャ好きなんだな」
「……ハバァッ!?」
そんな突拍子もない事を唐突に言ってきたので、危うくむせそうになった。
やっぱり俺の反応ってわかりやすいんだな。まぁ客観的に俺の反応を見れば、わかりやすいだろうねー。ユイカちゃんの側にいると幸せな気持ちが溢れてきているから、自分でもわかるくらいにいつもニコニコの笑顔になっているし。ユイカちゃんの話題になった途端に明らかに声の張りが違っているし。思い返してみれば、俺ってめっちゃわかりやすい。
だからこそ─。
「─はい! 同じ世界に入れるだけで幸せなくらいに」
一瞬面食らったような表情をした後に、少しだけベネットさんが満足げに微笑んだ。
人から自分の恋心を指摘されるのは初めての事だけど、意外と照れないものだ。漫画やアニメ、現実世界でもそうだが、自覚のある恋心を面と向かって人から言われると恥ずかしがる光景はよく見る。けど俺には該当しなかった。ただただ驚いていしまっただけ。でもそんな心境になる理由もなんとなくわかる。
だって俺の好意を本人が知っているのだから。人から指摘されたとて恥ずかしくはならない。でも多分、本人を目の前にするとめっちゃ照れると思う。




