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第36話 世界の秘密と夢への決意

「その通り。レーヴァテインに触れなくちゃ魔王は倒せない。この世界には様々な種族が存在しますけど、人類はそれはそれは弱い部類です。魔法が強いわけでも、高度な技術を持っているわけでも、体が頑丈なわけでもない。特別な力を一切持っていない非力な人類が聖剣を持っていても……『宝の持ち腐れ』だと評された。ディアブロからすれば他の種族の聖剣も大切でも、レーヴァテインさえ抹消できれば負ける事はなく安泰。その他からしてみれば、ルシファーを倒すならば必須。各方面から狙われて当然の立ち位置ね」


「協力してくれればいいのに……」


「そう簡単にはいかないものよ。今まで協力要請に応じてくれた種族はいない。というか最初から『力づくで聖剣を奪いに来た』ってスタンスだった。話し合いのテーブルにすらつけていない。聖剣以外のメリットが少ない上、種族に誇りを持っているという種が多いから、そもそも他種族と共闘するという概念すらなかったようだけど。魔王を封印した時だって偶然だったらしいし」


「魔王を倒すなら他の種族の聖剣も必要ですか?」


「わからないわ……でも、おそらくは必要になるでしょうね。シュヴァリエ家の当主に代々受け継がれてきた言い伝え…『聖剣』に関するもう1つの効果」


 あぁーそういえば、アルカナがさっきそんなことを言ってたね。さて…お次は何かな。いまさら何が来ても受け入れる覚悟はできているさ。


「数時間前に話した通り、魔王ルシファーは最果てにいて、七つの聖剣の力を使った結界によって封じられている。覚えているかしら?」


「魔王ルシファー専用にすることで超強力にしてるってやつですよね?覚えてますよ! それに関係しているんですか? その秘密ってやつは」


「えぇ。あの結界、魔王ルシファーのみを対象にしているって言ったけど……正確にはその条件は中から出る場合の限定の話。外から入る時にはその対象は─【アークに住む全種族】。ディアブロを除いてね」


「えっ?! じゃあ最果ては誰も入れないって事!? じゃあルシファー倒せなくない!? ていうかディアブロだけ対象外になってるのはズルくない!?」


「ルシファーが作り出した新しい種族になるわけだから、致し方なしよ。その辺はまんまとルシファーに出し抜かれた形。本来であれば、その封印だけで魔王ルシファーの脅威からは解放されるはずだった。でもそれはディアブロを生み出されたことでいとも簡単に破られた」


 確かにそう言われればそうだけど、あいつらだけ中に入るも、出ることも自由ってズルい。


 まぁでも…そんな都合がよかったら、俺達はこの世界に送り込まれてないか。


「『七つの聖剣の力が集いし時、最果ては開かれる』……まぁ言ってしまえば、封印に使った聖剣の力を全部集めると結界を解除できるってこと。自分たちで封印したものを自分たちで解除しなくちゃ、平和が訪れない。しかも私たちは封印する術を知らない。結界の張り方も不明。一説では存在しないとも。すなわち……現時点で1度解除してしまえば、2度と結界は張れない」


「チャンスは一度きり。それを逃せばアークはルシファーの手に落ちる。……リスク高いねぇ~そりゃ人類やパラディンを信じてくれって言う方が無理がある話だわな。でも……」


 何もしなければ、少なくとも現時点では超絶不安定ながら普通に暮らせる。


 一度そこに真の平和を求めて行動しまえば、後戻りができない。

 

 待っているのは真の平和か─破滅か─。


 長年実績がない信頼と信用から遠い存在であるパラディンに、そりゃ…そんな希望を持てるわけがない。ましてや他の種族からしてみれば、弱者の人類に任せるなんてありえない。


 でも─。


「俺たちはやるよ。何があろうとも止まらない」


 前を向けば険しい道のりで、そのゴールは果てしなく遠くて。でもそれで諦めるほど、俺達の夢は軽くない。迷いも不安もない。


 あるのは希望のみだ。


 満面の笑みでそう答えれば、ユイカちゃんは微笑んでくれた。胸を張って、決意に満ちた瞳で小さく頷いてくれた。


 そんな俺たちを見て、シュヴァリエさんは微笑む。


 集めてやるよ。全部の聖剣の力を。


「フフッ……期待していますよ。この世界の特異点になってくれることを」


「なってやりますよ。自分の救いたいものを救うためにね」


 相変わらずプレッシャーはない。でも…トゥルーマンみたいなやつがまだ控えていると思うと、少しだけ不安にはなるけどね。


 一発目の敵は『罪』を使ってきた。


 俺みたいに吹っ切れた人間じゃなかったら、あのままペースを持っていかれて敗北していた…なんて世界線もあったかもしれない。嫌な配置にしてくれたもんだ。次はどんな敵が待っているのか…まぁ、ユイカちゃんと俺ならどんな敵でも倒せるさ。



「他の聖剣が、どういう力を持っているのかは知っています?」


「こちらにあまり情報が入ってきてないから、ほとんど知らない。けど、【最果て】の場所が記録してある聖剣を他種族が保有している、とは耳にしたことがある」


「他種族か……」


 300年。戦い以外で交わってこなかった種族が、異世界から来た人間によって交わるかもしれない。どちらにとっても、未知との遭遇。ファンタジー作品でしか名前を聞いたことのない種族と会えるかもしれないなんて、面白いじゃん。


「なら尚更、俺たちが頑張らないといけませんね!」


 人類と他種族を繋ぐ。その役目は異世界から来て、何の事情も先入観もない俺たちにしかできない役割な気がする。


 燦々と降り注いでいた日の光は陰りを見せ始め、遠くの方は宵闇が支配し始めてきていた。まだこの世界に来て半日。もう一日が終わりそうだ。


 長い旅になりそうな予感がしてきたよ。


「夢叶君ならそう言ってくれると思っていました。過去に誰もできなかったことなら、自分たちがその先駆者になるまでです」


「ユイカさん…! 一緒に頑張ろうね!」


 誰も成し遂げる事の出来なかった事なんて夢の前には関係ない。夢を叶えるために成し遂げなくてはいけないのだから。誰もしたことがないなら自分たちが『最初』になればいい。そんな険しい道でも彼女と一緒なら絶対に乗り越えられる。そう確信が持てた。


「全てを背負わせてしまって、申し訳ないわね」


「大丈夫ですよ。言ったでしょ? 重圧とも思ってませんから。勝手に救うって。だから全然気は重くないです」


 とはいうけど、こんな静かな喋りじゃ盛り上がらないよね。

 この場には、戦いを見ていてくれたガイアカグラのみんなもいる。一度やってみたかったことをするには、絶好の機会だ。


 影でステージを作り、その上に上る。見ている全員から俺が見えるように。


 見渡せば、数えきれない人の波。その視線が全部俺に集中している。こんな経験、歌手とかスポーツ選手とかでないとないだろうね。自分から言ったはいいけど、少し緊張しちゃう。


「ここで聞いてくれている全員に告げる!!! 俺たちには、絶対に叶えたい夢がある! その夢はこの上なく重くて、息をするのも苦しいくらいに全身に纏わりつく。でもそれを背負っているからこそ、希望や期待はいくらでも背負えます!! 俺たちが!! 魔王ルシファーを倒すっ!!! このガイアカグラから、人類の反撃が始まる!!!」


 そう力強く宣言し天に向かって拳を突き上げると、民衆の大歓声が蒼穹にこだまする。割れんばかりの歓声が、雷鳴の様に大きくなり声の波となって押し寄せて一瞬で全身を包み込んだ。びりびりと肌が震える。何度もこぶしを突き上げてその声援に応えた。


 大地を揺らし、空気を震わせ、熱気が辺りを包み込む。


(こういうヒーローみたいなことを一度はやってみたかったんだ。……満足した)


 自分たちの夢を叶える事が、結果としてこの世界を救う。この上なく重い夢を背負っているのだ。今更これくらいで重圧なんて感じないさ。全てを背負い、救ってみせるという英雄的な考えにはなれない俺は、ヒーローとしての素質はないのかもしれない。そんな俺でも結果を出せば幻想を抱いてもらって、夢と希望を与える事はできる。それでいいんだ。無理に大きく見せようとしなくてもいい。自分にできる事をすればそれで十分だ。


 でももう一つ、全く重く感じない理由がある。


 『好きな人が側にいてくれる』。これほどまでに心強い事はない。ユイカちゃんと一緒なら必ず叶えられる。そう信じているから。


 ステージから降りてユイカちゃんを見れば、視線がばっちり合った。この場にいるすべての人の思いが一体となった空間で、見あいながら互いに笑みがこぼれていた。



「そういえば」


「ん?」


「バリアの中での会話は全部聞こえていましたよ。『最高の時間』……そう言ってもらえて嬉しかったです!」


「…ふぇっーー!!?」


 歓声に包み込まれる中で俺の驚きの声は空に木霊し、はち切ればかりの勢いの心臓の高鳴りを感じた。満足げな表情のユイカちゃんから少しの間、目を離すことができなかった。


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