第35話 推しと加護を受けし者となる
『そしてもう1つ。君たちは聖剣【レーヴァテイン】に触れる事で能力を得る。聖剣は、領主のシュヴァリエから軽く聞いて、知ってるよね?』
「魔王ルシファーを封じ込めている、というやつだよね。にしても、レーヴァテインってカッコいい名前だね! ゲームでしか聞いたことがないよ!」
「『レーヴァテイン』は北欧神話に登場する武器ですね。主に剣として描かれていますが詳細は記されていないため杖だったり槍だったりしていますが、この世界では剣なんですね。そして……『世界樹』とは関わりが深い武器ですね」
「神話も知っているんだね!スゴイっ!!」
北欧神話にも知識があるなんてカッコイイ!自分でもわかるくらいに、輝いている尊敬の眼差しを向けてしまう。ユイカちゃんは視線に敏感だから気付いていると思う。現に一瞬こちらを見て、得意顔を浮かべてくれたし。
神話か…全然知らん。知識はほとんどない。ゲームでチラッと見たくらい。
「私の予想が正しければ、もしや得られる力は……」
『フフフ、勘がいいね。まぁその答えとレーヴァテインの場所については、じきにわかるよ。それと、軽い説明を。加護を受けていない者が聖剣に触れても何も起きやしない。魔法陣に武器を刺しても回復しない。イメージとしてはこれは“報酬”だ。ゲームでは特定の敵を倒したら特別なアイテムがもらえたりするだろ?特殊な力を得る、伝説の武器がドロップする、次のクエストを出現させるためのキークエストになっている……みたいな』
「ふーん、そういうのがあるんですね。あまりゲームはしたことがなくてそういうのは疎いので、私にはよくわからないシステムですね」
「えっ! ゲームに疎いの!? いつか一緒にやろうよー! 教えるよ~」
「フフッ、ではお言葉に甘えてその時はよろしくお願いします。楽しみにしてますよ」
「俺もだよ~! その時はよろしくね! 約束だよ!」
「えぇ、約束です!」
『一緒にテレビゲームをする』─その夢がいつか叶う時が来るのか、今は誰にもわからない。
これから先、別の次元の住人である俺たちがこの世界以外で交わることができるだろうか。きっとその答えは、神みたいな存在であるアルカナだろうと知ることのできないものだろう。でもそんな叶うかもわからない約束が叶う事を信じて、その夢に思いを馳せる。
そんな夢物語も、今だったら見ても許されるだろう。
『今回の加護は、ガイアカグラの魔法陣及びレーヴァテイン限定。でも他にも加護は存在する。加護を受けるためには、円卓の騎士やその他脅威となる存在を打ち倒す必要がある』
「それがシュヴァリエさんが言ってた言い伝えの意味か。本当にシンプルにそのまんまなんだね」
『シンプル且つ、わかりやすいほうがいいでしょ? 複雑だけが美しいわけじゃない』
「たしかに。でもそう都合よく相手が毎回来るとは限らなくない?」
『パラディンであり、バルバロスとズールを倒した君たちはより有名になる。噂は広がり、これから君たちの動向は人々からは注目され、ディアボロからは警戒される。そんな君たちが動けば、自然と相手の方から動き出すさ』
「成程。それもそうか」
これからは敵味方問わず、注目を集めることになるのか。気が休まるときは来るのだろうか。パパラッチから追われているスターになったような気分だ。
まぁ隠れるのは得意だ。なんたって俺は影使いだ。ユイカちゃんと雲隠れするなんてわけないね。
『さて……僕の今回の役目は終わった。ここからはまた君たちだけの物語だ。素晴らしいスタートを見せてくれて感謝しているよ。君たちの活躍に期待しているよ。世界の【特異点】となれ……これはまだ、始まりに過ぎないからね。じゃあね』
そう少し意味深な事を言ってアルカナは姿を消した。相変わらず自分勝手だ。
その瞬間、そよ風が頬を撫でた。時間が動き出したようだ。
「特異点、か……。いつも言ってたけど、どんな意味が込められてるんだろうね」
「いつも言葉が足りないんですよね。いつか教えてくれるといいのですがね」
アルカナの残した言葉の意味を考えていた瞬間、穏やかで優しいそよ風が頬を撫で、勝利の祝福をしてくれているように陽の光が俺たちを照らしてくれた。アルカナが消えた場所をぼんやり見ていたらその奥にフッと目がいった。
雲一つない蒼穹を背景にガイアカグラが悠然と広がっている。先ほどまでにあった物騒な戦闘音は消え、遠くで鳥のさえずりに交じり水のせせらぎが聞こえる。平穏だ。
「綺麗ですね…いい眺めです」
ガイアカグラを見つめながらユイカちゃんがそう呟く。
達成感と安堵に満ちた表情に、慈愛に溢れ優しい光が宿った煌めくライトグリーンの瞳。しなやかで艶やかな水色の髪の毛が、陽の光に照らされてより輝きを放ちながらそよ風になびく。白とオレンジを基調とした戦闘服からピンと伸びた綺麗な背筋。薄く紅潮している頬っぺた。その全てが見惚れてしまうほどに綺麗で、見ているだけで幸せな気持ちが溢れてきて鼓動が早まる。側にいてくれるだけで感情があふれ出し、幸福感で心が震える。世界がより一層明るさを増した。
「うん……最高に綺麗」
ガイアカグラの事を言っているのだろうが、ついにユイカちゃんに見惚れながら、思ったことが口から自然と零れていた。
(ユイカちゃんが一番綺麗だよ……なんてキザな事を真正面から言えるわけはない)
そっと心の中にしまいながら、前を向く。
大地には陽の光を反射する深緑の葉が生い茂っている。世界樹のはるか遠くの方には島が浮いているという非現実的な光景も広がっているが、その雰囲気すらも調和されているように景色の一部として溶け込んでいて、この世界の雄大さがより強調されている。
これからこの世界で生きていくのだと、改めて実感できた。
まぁそれと同時に、そんな目で見られているガイアカグラに嫉妬してしまっているけど。羨ましい!俺もそんな目で見られたい!!
「フフッ、夢叶君は素直ですね」
「ふぇ?」
「視線には敏感ですから……」
どうやら見惚れながら言ったことは完全にバレていたらしい。流石ユイカちゃん。むしろこれは必然だった。前々から視線には敏感だと言っていたのだから。
その事を理解した瞬間、顔から火が出ているのではないかと錯覚するほどに熱くなった。顔どころから全身が熱い。脈打つ鼓動が加速し、耳をつんざくように自分の心音が響き渡る。
「あ、その……タハハ」
手で顔を覆いながら笑って見せることが限界だった。恥ずかしい!!何時も素直に想いは言ってはいるし、心の声は何度も漏れてはいたけども、やっぱり羞恥心が込み上げてくる。手で覆い隠したところでユイカちゃんの恥ずかしそうで少しうれしそうな表情が瞼に張り付いていて、今も鮮明に見えている。かわいい!!
人を好きになるってこんなにも感情が揺れ動くものなんだ。こんな俺を見てユイカちゃんはどう思っているのか、今どんな表情をしているのか、そして…『そもそもなんでユイカちゃんの俺に対する好感度が高いのか』という前々からの疑問が頭の中を駆け巡る。羞恥心に支配された思考ではその疑問はただループし続けるだけで処理が完了せず、ただひたすらに恥ずかしさが加速度的に増長させていくだけであった。
俺の疑問はいつか教えてくれるその日まで、じっくり待つとしよう。




