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第34話 一瞬の決着と推しうちわ

 ユイカちゃんが放ったライトグリーンのレーザー光線【オーバードライブ・レイ】が全てを飲み込み、かき消した。勢いそのままに、哀れな敵へと向かっていく。


 でも驚きはない。こうなることは“わかっていた”。


 長年の戦闘経験で無理やり培われた能力か、もともと備わっていた才能か、理由はわからないがユイカちゃんも俺もある能力が備わっている。


『自分と相手の実力がわかる』。


 少し見たり触れたりすれば、実力が自然とわかる。いわば自己認識能力の派生ともいえるもの。世界が違うからこの感覚にずれが生じているかもしれないと思ったけど、戦っていく内にその感覚はずれていないどころか、より研ぎ澄まされていたことがわかった。


 互いにこの感覚が備わっているのを知ったのは、ガイアカグラまでの道中。何気ない会話からフッと話題になり、この話で盛り上がった。嬉しかった…この感覚っていまいち誰にも共感されなかったから。初めて共感してくれた相手がユイカちゃんなのが、さらに嬉しい。


 俺達ほどではないが、バルバロスもある程度はわかっていたと思う。俺を相手にして一切油断せず、強固な防御力を誇っていて今まで傷一つつかなかった攻撃にも変化が見られ、ダメージを受けるであろうと判断すれば明確にしっかりと反応してディフェンスしていた。言葉一つ一つを聞き逃さずに、その真意を知ろうとし続けた。敵ながら天晴。


 そういうわけで、これほどまでの実力差があることがわかっていないのはズールだけ。それもわからずにただ喚いているズールの姿は、ユイカちゃんの言葉を借りれば。


「お気の毒に」


 そう言葉を呟いた瞬間、ライトグリーンの眩い光がズールを飲み込み、一瞬の静寂の後に強烈な光が轟音と共に周囲に広がり爆発。強烈な衝撃波が襲ってきた。


 一瞬で衝撃波は過ぎ去り、強烈な光も薄れていく。爆発が起きた場所もはっきりと見えるようになっていく。クレーターのような凹みの中央、石化した一つの屍。


 勝負は、僅か数秒で推しの勝利によって幕を閉じた。


「ユイカちゃんの勝ち! 圧勝だよぉ~!! カッコいいよ~!! うおおおおおぉぉぉ!!!」


 軽く様子を確認した後、右手のレールガンが見て満足そうに小さく頷くユイカちゃん。かわいいしカッコいい!一仕事終えた仕事人みたいに充実感が背中から伝わってくる。頼もしくて魅力的でカッコいい背中から目が離せない。全ての仕草がカッコいい!テンションが上がりすぎて、気持ちのままに泣きながら高速でうちわを振りまくる。


「フフンッ……いえいえ」


 言葉では否定しているが得意顔になっているし、なんなら腰に手を当てて胸を張っている。かわいい!言葉と行動のギャップに胸が高鳴る。これが胸キュンと言うやつだろう。世界を越えて、ユイカちゃんから何度も胸キュンさせられるとは、夢にも思っていなかった。


「一緒にいれて幸せです~エヘヘ」


 戦いが終わって緊張の糸が切れたせいか、同じ戦場で別々とはいえユイカちゃんと一緒に戦えたのは初でテンションも上がりまくっているせいか、心の声が漏れまくる。きっと今、鏡で顔を見たらへにゃへにゃの腑抜けた顔をしている。


「それが……例のうちわですね」


 俺が腑抜けている間、ライトグリーンの瞳でジッと推しうちわを見つめるユイカちゃん。決して恥ずかしいものではないけど、流石に本人に見られると恥ずかしくてドキッとする。


 これはアルカナがわざわざ言及してくれた、あちらの世界から持ってこれた数少ない宝物である、例のうちわ─『推しうちわ』。ついに発見されてしまった。


 恥ずかしくてうちわで顔の半分を隠すけど、がっつり視線を感じる。チラッと見れば少しだけ頬がピンク色に染まっている気がしなくもない。でもこれは戦った後だから体温が高くなって顔が赤くなっているだけという可能性もあるから何とも言えない。


「えっと……あの……ど、どう、ですかね……?」


「誰にも見られない場所で使ってくださいね。少しだけ……恥かしい……ので……」


 そう言い終わるとクルっと後ろを向いて、前髪を触る。後ろから見たら耳が赤くなっているし、少ししか見えない頬っぺたもほんのり赤い。


(か…かわいいぃぃぃぃっっ!!!! あああああぁぁぁぁぁ~…)


 可愛らしい反応と言葉に完膚なきまでに打ちのめされた。もう心の中ですらも言葉にならない。なんて最高な空間なんだ。傷の痛み?そんなものはない。これが最高の治癒だ。



『やぁ。そろそろいいかな?』


 悶えていたら、アルカナが急に目の前に出現。優雅に足を組みながら光の椅子に座っている。はぁ…せっかくいい雰囲気だったのに全くアルカナときたら。意外と出番多いし。


 うちわをしまい、ユイカちゃんとの二人きりの時間が終わってしまったことに名残惜しくて、ついため息が出てしまった。


「……なんでしょう?」


 軽く眉間にしわが寄っているし、目つきが鋭い。味方であり、神と言う上位存在にもかかわらず、ユイカちゃんも俺も揃って少しだけアルカナに冷たい。いや、アルカナの出てくるタイミングが悪いせいだ。俺たちは悪くない!特にユイカちゃんは悪くない!


『まぁまぁそんなに落ち込ま─』


「落ち込んでなどいません! で、用は何ですか?あなたが出てきたという事は、何かしら進展があるのでしょう」


『御名答。でもまずは勝利を祝いたい。おめでとう! 滑り出しは上々。見事第一関門は突破という感じかな』


 そう上機嫌に言いながら拍手を送ってくれる。


「こちらこそ、どうもありがとうございました。死ぬかと思ったよ! いきなり幹部みたいのが相手ってもう少し敵の強さを徐々に上げていってほしかったな! それと重要なルール説明を敵から受けるってどういうことだよ! もう少し人類側には寛容になってほしいね!」


『僕に言われてもね。まぁ愚痴はおいおい聞く、かもしない。本題に入ろう』


 文句に意にも返さず強制的に話題に終わらせると、指を鳴らした。


 するとユイカちゃんと俺の体が優しい青白い光りに包まれ、数秒光ったらすぐに消えた。特に変化はない。影も変わりなく操れるし、力が漲ってパワーアップしたとか、それもない。


『円卓の騎士を倒したという事で僕からのプレゼント……人呼んで【アルカナの加護】を付与した。これで君たちはガイアカグラの魔法陣を回復させることができるようになった』


「魔法陣回復できるの!? よかった……心配してたんだ。このままじゃ意味ないしとか思ってたし。どうやって回復できるの?」


『メチャクチャ簡単。自分の武器を魔法陣に突き刺せば回復する。結界能力も隠匿魔法も元通り……いや、今まで以上のものになる。この地が再び襲われる心配はほとんどないと言える。これで脅威は過ぎ去り、ガイアカグラは救われる』


 救われる─そう改めて宣言された時、無意識に口元はついにやけてしまった。よかった……これで一安心だ。久々に肩の荷が下りた気分を味わえている。


「やったね、ユイカちゃん!」


「フフッ、まだ刺していませんから少し気が早いですがね。でも……2人で様々なものを救えました」


 そう微笑みかけてくれた。かわいい!ユイカちゃんと協力して目的を達成できたのは格別の喜びだ。一人で戦っていても味わうことのなかった感情だろう。誰かと一緒に戦うのがこんなにも楽しくて、心強くて、生きていてよかったと思えるものだと想像すらできなかった。そして、勝ててこんなにも達成感に溢れるとも思ってなかった。


 ただ単に自分たちの道を突き進んでいく途中で、たまたま救える存在があるとどこか他人事のように思っていた。けど今になっては、救えたことの喜びと達成感、安堵が胸の中にじわりじわりと少しずつ広がっていっている。


 嬉しいな……本当に嬉しい。


「早く刺して魔法陣を回復させねばいけませんね」


「アルカナ、手短に頼むよ!」


『僕たち以外の時間は止めてあるから心配しなくてもいいよ』


「「え?」」


 さも当然のようにけろっとした様子で“時間を止めている”と言い放ったアルカナに驚きすぎて、声が重なった。


「時間……止められるの?」


『うん、そうだよ。説明する時だけだから大したことではないさ。わざわざ止める時間をくれるなんてルーラーも優しいね。そういう事でゆっくりと説明ができるというわけさ』


 時間停止という文字通り神の所業を本当に大したことではないと思っているらしく、あっけらかんとした様子で答える。


 神基準、恐るべし。なんでもありかよ。



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