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第37話 聖剣に宿りし特異点

「まずはお二人とも、民を代表して、一人の人類として、お礼を申し上げます。ガイアカグラを救ってくださり、ありがとうございました!」


「こちらこそ救えたようで光栄です! これで少し、みんなが前を向いてくれたら嬉しい」


 あまりにも深々と頭を下げられるから、逆に申し訳なくなってしまった。でも…自分の愛した土地と民が救われたと思えば、ここまでしてくれる理由は理解できる。それだけこの場所と、人に対する思いが強いという事だからね。


「また希望を抱くには十分な出来事でした。そしてお礼の一環として、レーヴァテインを顕現させました。聖剣にまつわる言い伝え、『人類を脅威から救う勇者が聖剣に触れる事で真の力を呼び覚ます』……我が家に受け継がれている守護者アルカナからの言葉だそうです。はるか昔は全てのパラディンが触れてから旅に出たそうだが特に変化はなく、祖父の代からの取り決めで脅威を退け成果を上げた者にのみ触れる事を許可している。お二人は『円卓の騎士』を退け、結界を守り、ガイアカグラを救ってくれた。この聖剣に触れる権利があります。さぁ……触れてください」


「ありがとうございます! ユイカさん、先にどう? レールガンで結界守ってくれたし、ガイアカグラを救った功績は大きいし、相応しいしカッコよかったし」


「フフッ、心の声が駄々洩れじゃないですか。自分の成果を謙遜して譲ってくれなくてもいいですよ。大切な初戦で頑張ってくれた夢叶君が相応しいと思うので、どうぞ」


「ありがとう! では僭越ながら失礼します!」


 ユイカちゃんに褒められるとは、俺はこの日を一生忘れない。心は有頂天だ。正直レーヴァテインに触れる嬉しさを軽く凌駕してしまっている。スッと手を伸ばし、柄を握る─が。


「えっ……!?」


 刹那、鼓動が激しく脈を打つ。鼓動が耳をつんざき、全身を揺らすように打ち鳴らす。心までもが、マナとも違う、何か得体の知れない力に包まれていく感覚が全身を飲み込んだ。心地が良いものではないが、決して不快ではない。俺はこれに近い感覚を知っている。


【影纏い】が発現した時だ。


 アルカナが言っていた、新たな力を得るとはこのことだ。

 

 すぐにその感覚は収まった。驚いて変な汗が出たくらいで体や能力にも変化はない。


「夢叶君、大丈夫ですか!」


「うん、大丈夫! ちょっと慣れない感覚がして驚いちゃった。ユイカさんも気を付けて」


 頷くと何の躊躇いもなくすぐに柄を握った。その瞬間、青白いオーラがユイカちゃんの全身を包み込んだ。そよ風が体に纏わりつくように、服と綺麗な水色髪のベリショが靡く。


 軽く眉間にしわを寄せて、ライトグリーンの瞳は瞬きせずレーヴァテインを見つめている。おそらく俺も同じ事になっていたのだろう。端から見てわかった。


 数秒後には収まり、剣から手を離す。


「確かに慣れない感覚でしたね。雰囲気としてはOREDRに目覚めた時と同じような感じですね。異能の覚醒、とでもいうべきものか」


「やっぱり。新しい力に目覚めた時と同じなんだね。でも特に変化はないね」


 あれだけ力が漲るような感覚はしたのだが、変化はなし。むしろそれが不気味ではある。


「シュヴァリエさん、レーヴァテインに触れる事で宿る力って何か知らない?」


 視線を向ければ嬉しそうに笑いつつも、覚悟が決まったように意志の強い瞳をしていた。


「レーヴァテインに触れる事で得る真の力…名を【アーク・オブ・シンギュラポイント】。その力が宿っている者のみが、魔王ルシファーを──




─【完全に殺す事ができる】」




「……おぉー! なるほどね。これに触れないと魔王が倒せない、か。本当に勇者の剣みたい。めっちゃカッコいいじゃん!」


「だから人類は狙われているわけなんですね。他種族からも」


 勇者の剣みたいだと浮かれている間に、ユイカちゃんが核心を突く。数時間前に聞いて、濁された答えはもしやこれか。


「その通り。レーヴァテインに触れなくちゃ魔王は倒せない。この世界には様々な種族が存在しますけど、人類は弱い部類です。魔法が強いわけでも、高度な技術を持っているわけでも、体が頑丈なわけでもない。特別な力を一切持っていない非力な人類が聖剣を持っていても『宝の持ち腐れ』だと評された。ディアブロからすれば他の種族の聖剣も大切だが、レーヴァテインさえ抹消できれば負ける事はなく安泰。その他からしてみれば、ルシファーを倒すならば必須。各方面から狙われて当然の立ち位置ね」


「協力してくれればいいのに…」


「そう簡単にはいかないものよ。今まで協力要請に応じてくれた種族はいない。というか最初から『力づくで聖剣を奪いに来た』ってスタンスだった。話し合いのテーブルにすらつけない。聖剣以外のメリットが少ない上、種族に誇りを持っているという種が多いから、そもそも他種族と共闘するという概念すらなかったようだけど。魔王を封印した時だって偶然だったらしいし」


「魔王を倒すなら他の種族の聖剣も必要ですか?」


「わからないわ。他の聖剣がどういう力を秘めているかは、こちらにあまり情報が入ってきてないから。でも、【最果て】の場所が記録してある聖剣も存在すると、耳にしたことがある。おそらくは必要となってくるでしょうね」


「なるほど……なら尚更、俺たちが頑張らないといけませんね!」


 そう言ってみせると、深刻そうに浮かない表情のシュヴァリエさんが少し微笑んでくれた。これはパラディンの役割というよりも、異世界から来て何の事情も先入観もない俺たちにしかできない役割な気がする。


 燦々と降り注いでいた日の光は陰りを見せ始め、遠くの方は宵闇が支配し始めてきていた。まだこの世界に来て半日。もう一日が終わりそうだ。長い旅になりそうな予感がしてきたよ。


「夢叶君ならそう言ってくれると思っていました。過去に誰もできなかったことなら、自分たちがその先駆者になるまでです」


「ユイカさん……! 一緒に頑張ろうね!」


 誰も成し遂げる事のできなかった事なんて、夢の前には関係ない。夢を叶えるために成し遂げなくてはいけないのだから。誰もしたことがないなら自分たちが『最初』になればいい。そんな険しい道でも彼女と一緒なら絶対に乗り越えられる。そう確信が持てた。


「全てを背負わせてしまって申し訳ないわね」


「大丈夫ですよ。重圧とも思ってませんから。言ったでしょ。勝手に救うって。だから全然気は重くない。僕たちには絶対に叶えたい夢があります。その夢はこの上なく重くて、息をするのも苦しいくらいに全身に纏わりついてきます。でもそれを背負っているからこそ、希望や期待はいくらでも背負えます。俺たちが魔王ルシファーを倒す! このガイアカグラから、人類の反撃が始まる!!」


 そう力強く宣言し天に向かって拳を突き上げると、民衆の大歓声が蒼穹にこだまする。割れんばかりの歓声が雷鳴の様に大きくなり声の波となって押し寄せて一瞬で俺たちを包み込んだ。びりびりと肌が震える。何度もこぶしを突き上げてその声援に応えた。

 大地を揺らし、空気を震わせ、熱気が辺りを包み込む。


(こういうヒーローみたいなことを一度はやってみたかったんだ。……満足した)


 自分たちの夢を叶える事が、結果としてこの世界を救う。この上なく重い夢を背負っているのだ。今更これくらいで重圧なんて感じないさ。全てを背負い、救ってみせるという英雄的な考えにはなれない俺は、ヒーローとしての素質はないのかもしれない。そんな俺でも結果を出せば幻想を抱いてもらって、夢と希望を与える事はできる。それでいいんだ。無理に大きく見せようとしなくてもいい。自分にできる事をすればそれで十分だ。


 でももう一つ、全く重く感じない理由がある。


『好きな人が側にいてくれる』。


 これほどまでに心強い事はない。ユイカちゃんと一緒なら必ず叶えられる。そう信じているから。


 チラッとユイカちゃんを見れば視線がばっちり合った。この場にいるすべての人の思いが一体となった空間で、見あいながら互いに笑みがこぼれていた。


「そういえば」


「ん?」


「バリアの中での会話は全部聞こえていましたよ。『最高の時間』……そう言ってもらえて嬉しかったです!」


「……ふぇっーー!!?」

 

 歓声に包み込まれる中で俺の驚きの声は空に木霊し、はち切ればかりの勢いの心臓の高鳴りを感じた。満足げな表情のユイカちゃんから少しの間、目を離すことができなかった。



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