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第31話 推しがくれた生きる意味

「うぅっ……!何回やっても痛いのは慣れないなぁ……」


 この戦いが始まって、初めてのクリーンヒット。


 ぼやいてみるが焼けるような激痛が襲い、全身から汗が噴き出す。玉のような汗が額から流れ、地面へと落ちていく。若干涙が出て、ぼやけた視界の端で時雨が欠けてしまっているのが見えた。歯を食いしばって影を使い、その場から離脱。少し距離を取ろうとするもバルバロスの剣が振られる。


 痛みなど無視して俺も剣を振るう。傷から血がしたたり落ち、影を赤く染める。傷はそこまで深くない。大丈夫だ。しっかり動ける。僅かな隙をついて影に潜り、距離を取る。


(でも……俺の方もいい感じになった。戦いに終止符を打つ準備はできた)


 零れ落ちた血で影も大地も赤く染まっていく。血の気が引いていくのがわかる。あぁ…こんなに血を流すのは久々だ。もう2度と体験しないと思ったのにな…カッコ悪いな。


「お前は確かに強いが時間をかけすぎた」


 余裕綽々な雰囲気でバルバロスが口を開く。


「数秒前までの我とは別者だと、明言したはずだ」


「なるほど……【グラウンド・オブスキュラ】の効果かな?」


「物分かりが良くて助かる。【グラウンド・オブスキュラ】はフィールドが【ファースト・グランド】である場合に真の力を生み出す。『全ての能力が永続的に上昇し続ける』。今この瞬間も我は強くなり続けている」


 その言葉に反応するように一陣の風が吹きつけ、石礫が飛び散る。周りのオーラがより鋭く、鮮明に色濃く映し出され、プレッシャーが重く広がってきていた。


 最初に感じた違和感の正体。動きは落ちていないのに、攻撃が通用しなくなり相手の攻撃は対処しきれなくなっていく。時間経過と共に全ての能力が『永続的に上昇し続ける』。戦いの中で強くなり続けていく。長期戦を仕掛けるにしては厄介極まりない相手だった。


「お前はよく戦った。優れた防御術によって我の攻撃を全て対処して凌ぎきり、そして攻撃を的確に当て、最後には我に切り札を使わせた。数々の人類と戦ってきたが、ここまで拮抗し心躍る勝負まで持ち込めたのは、お前が初めてだ。敬意を表してやろう」


 余裕に見て溢れた表情だが、その口ぶりは今の言葉が心からのものだとわかる。基本的に人類を下に見ているが、それでも1人の戦士として素直に敬意を表してくれるのに胸が熱くなる。敵同士だけど、少しだけ通じるものがあって心が通うなんて、人生で初めてだ。


「だが残念だ。もうお前の攻撃では我を倒す事は不可能。剣も欠け、我の攻撃は有効。メテオストライクを耐えた防御特化の鎧ならば耐えられるが、スピードで負けては意味がない。滾る勝負であったが諦めろ。種としての限界。人類も、お前の夢も叶わず……ここまでだ」


 額から汗が流れ、骨や筋肉が軋んでいる。血管の流れは激しくなり、肺はより多くの空気を求めて活性化している。体は苦しい。痛い。もう動きたくなんかない。疲労とダメージが蓄積していっている。ずいぶんと血が流れ落ちた。ボロボロだ。


 でも…その言葉を聞いて、状況を見た上でつい笑顔が零れた。


 もう十分、『情報は集まった』。

 

 夢を叶えに行こう。


「あんた、良い戦士だけど人間っていうのをわかってないね」


「下級生物の考えなどわからんな」


「なら俺の演説もどきを聞け」


 なんで話そうと思ったのかはわからない。理解してほしいわけではない。でも、言ったことで気が晴れると思った。滾る戦いだったから、その相手に敬意を表して話そうと思った。


「大好きな人は、俺に生きる力をくれた。命の恩人だ。その人が生かしてくれた今の俺には、夢がある。『好きな人に幸せになってもらって最高の笑顔でいてもらう』。好きな人ならだれでも相手の幸せを願うものだろ。これはごくごく普通の願いだ。そしてもう1つ……『その人を元の世界に戻す』だ。今、俺はその人と一緒にいれて人生で一番幸せだ。好きな人の側にいれる……この上なく最高の時間を生きているんだ。でも勝って夢を叶えて、その時間を手放さなきゃいけない。嫌だけど、その使命から逃げるわけにはいかない。この世界に呼ばれて話を聞いた時に、すぐに覚悟を決めた。この夢は絶対に叶えるってね。俺だけじゃなく、大好きで大切な人の未来も背負ってるんだ。そんな俺が……死んでもないのに諦めるわけないだろっ!!! 命が尽き果てようとも、夢を叶えるために止まらない──それが人間だ」


 ユイカちゃんの顔が浮かぶ。一緒に過ごしたこれまでの光景が浮かぶ。今日1日、一緒に過ごした全ての最高の記憶も、出会う前の漫画を通じて見ていた記憶も。ただそれだけで自然と顔はほころんで、体の底からエネルギーがあふれ出す。勝てる気しかしない。


「見せてやるよ。魔法なんか使わなくても、好きな人がいてくれるだけで人は限界も、どんな困難も超えてどこまでも強くなれるって事をな!! そして……今、お前の目の前にいるのは、そんな好きな人が見ていてくれる世界で2番目に強い人間だ」


 最強は彼女だ。俺の推しは、最強だ。


 剣を構え直す。俺の覇気を感じ取ったのか、バルバロスの表情から余裕が消え、眼光は鋭さを増す。


「アンタには感謝しているよ。世界や戦う種族が違うから俺の感覚にずれが生じているかもしれないと思った。だけど感覚は狂ってなかった。アンタは俺が戦った中で1番強い。前の世界で戦ったラスボスと比べる事ができないくらいだ。だからこそ、戦ったことで感覚がより研ぎ澄まされた。ありがとう。また一段、高みに登れたよ」


「……どういう意味だ?」


「フフッ……勝つのは俺だってことだ!! いくぞ……決着をつけよう!」


 そう叫ぶと同時に、這わせていた影を全て自分の元に呼び戻し、時雨を再生。


 無駄に力が入らないように意識するけど、まぁユイカちゃんに見られているから、いつもよりもかなりドキドキしていて力が入りまくってしまっている。ここからフィナーレだ。見ててね、ユイカちゃん。


「見てくれよ……【影纏い】の真髄を」


 警戒心を強め、体勢を低くし剣を上段に構えて臨戦態勢に入るバルバロス。俺の言葉と態度でハッタリではないとわかったのだろう。戦闘態勢に入り、瞬き一つせず火花が散ってしまうほどに視線がぶつかる。


「影は俺のフィールドだ……そのルールが適応されるか、試させてもらう」


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