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第30話 推しがいるだけで俺は

「一緒にいる資格がない……って? そうかもね。かなり痛いところをついてるし、実際にかなり効いたよ。普通ならそんな自分を見て落ち込んで! 戦意喪失して! そのままずるずると終焉に向かっていくだろう……でもよぉっ!! 人間っていうのはもっと我儘な生き物なんだ。一緒にいる資格がなくても、許してくれるなら一緒にいたいと願っちゃうんだよ。俺の罪は……もう彼女には話してある」



 ガイアカグラに向かうと道中、俺は過去の全てを素直にユイカちゃんに話した。そして自分が今どう思っているかも。

 凄く怖かった。軽蔑されるかもしれないと不安だった。怖くて、人生で一番逃げ出したくなった。正直、俺のやったことにどこか、後悔のようなものが少しあったから。


 何回も自問自答した。『正しかったのか?』って。


 でも伝え終わった時に、ユイカちゃんは─微笑んでくれた。


『話してくれてありがとうございます。そんなに不安そうにしなくとも大丈夫ですよ。私は夢叶の選択は正しいと思ってますし、私が同じ状況でも同じことをしたはずです。だから嫌いになるとか、マイナスな感情を抱くことはないので安心してください』


 ユイカちゃんはそれを受け入れてくれた。


 誰にも言えることのなかった、影の物語を知る初めての人になってくれた。その言葉と笑顔が見れた瞬間、氷のように心に纏わりついていた不安が消えたんだ。そこから迷いはない。


 俺にとって、彼女の言葉が一番救いだ。

 

 だからそんな言葉を貰った俺は折れない。


「俺は、一緒にいる資格がどうたらで心が折れるほど弱くない。それにな、相手は異能者だぜ。無力化だけもできたかもしれないけど、生きていれば可能性が生まれ……死んだら0。敵を殲滅したって選択を、後悔することは一生ない。今も後悔してない! ただ─背負っていくよ。俺が生き続けている限りは」


 自信を持って言える。数ある選択肢の中でもあの選択は正しかった、と。だから俺は前を向ける。どんな言葉にも決意は揺るがない。傷つかない。


 でも決して忘れることはない。一生、俺が背負っていくべき十字架だ。


「なるほど。面白い答えだ。今までにいないタイプで……心底滾る。人類にもそんな奴がいるのだな」


 そう言いながらトゥルーマンは嬉しそうに笑った。この戦いが始まって一番の笑み。自分の能力を超えてくる存在に喜びを感じているようだ。

 こいつもまたバトルジャンキー。

 

 かくいう俺も、改めて言葉にできてスッキリしているし、なんだか心が晴れやかだ。



「だが残念だ。もうお前の攻撃では我を倒す事は不可能。剣も欠け、我の攻撃は有効。メテオストライクを耐えた防御特化の鎧でも耐えられない。滾る勝負であったが諦めろ。種としての限界。人類も、お前の夢も叶わず……ここまでだ。ダーインスレイヴの錆となれ」


 額から汗が流れ、骨や筋肉が軋んでいる。血管の流れは激しくなり、肺はより多くの空気を求めて活性化。体は苦しい。痛い。もう動きたくなんかない。疲労とダメージが蓄積していっているのは一目瞭然。ずいぶんと血が流れ落ちた。ボロボロだ。絶体絶命。ピンチ。


 でも…その言葉たちが溢れてきても、状況を見た上で、つい笑顔が零れた。


 もう十分、『情報は集まった』。


 夢を叶えに行こう。


「あんた、良い戦士だけど本当に……人間っていうのをわかってないね。俺の演説の最後を聞かせてやる。いいか? 今までの話なんて前座だ。ここからが人間の真骨頂だ!」


 【過去】の話は大切だ。

 でもそれよりも、一番大切なのは─【今】だ。


 これはトゥルーマンにだけじゃない。ルシファー、そしてアルカナに見せる生き様だ。


 チラッとユイカちゃんの方を見る。視線がぶつかった。本当に綺麗で、まっすぐで、どんな光よりも輝いている─最高の推し。



「大好きな人は、俺に生きる力をくれた。命の恩人だ。その人が生かしてくれた今の俺には、夢がある。【好きな人に幸せになってもらって最高の笑顔でいてもらう】。好きな人ならだれでも相手の幸せを願うものだろ。これはごくごく普通の願いだ。そしてもう1つ……【その人を元の世界に戻す】。今、俺はその人と一緒にいれて人生で一番幸せだ。全ての次元において今の俺が一番幸せだ! 好きな人の側にいれる……この上なく最高の時間を生きているんだ! でも勝って夢を叶えて、その時間を…手放さなきゃいけない。嫌だよ…でも!! その使命から逃げるわけにはいかない。この世界に呼ばれて話を聞いた時に、すぐに覚悟を決めた。この夢は絶対に叶えるってね。俺だけじゃなく、大好きで大切な人の未来も背負ってるんだ!! そんな俺が……死んでもないのに諦めるわけないだろっ!!! 命が尽き果てようとも、夢を叶えるために止まらない……それが人間だ!!」



 ユイカちゃんの顔が浮かぶ。一緒に過ごしたこれまでの光景が浮かぶ。今日一日、一緒に過ごした全ての最高の記憶も、出会う前の漫画を通じて見ていた記憶も。ただそれだけで自然と顔はほころんで、体の底からエネルギーがあふれ出す。


 勝てる気しかしない。


「見せてやるよ。魔法なんか使わなくても、好きな人がいてくれるだけで人は、限界もどんな困難も超えてどこまでも強くなれるって事をなっ!!!」


 剣を構え直す。俺の覇気を感じ取ったのか、トゥルーマンの表情から余裕が消え、眼光は鋭さを増す。



「アンタには感謝しているよ。世界や戦う種族が違うから俺の感覚にずれが生じているかもしれないと思った。だけど感覚は狂ってなかった。アンタは俺が戦った中で一番強い。前の世界で戦ったラスボスと比べる事ができないくらいだ。だからこそ、戦ったことで感覚がより研ぎ澄まされた。ありがとう。また一段、高みに登れたよ」


「……どういう意味だ?」


「フフッ……勝つのは俺だってことだ!! いくぞ……決着をつけよう!」



 そう叫ぶと同時に、這わせていた影を全て自分の元に呼び戻し、時雨を再生。

 肩をぶんぶん回して無駄に力が入らないようにする。まぁユイカちゃんに見られているから、いつもよりもかなりドキドキしていて力が入りまくっているけど。ここからフィナーレだ。見ててね、ユイカちゃん。


「見てくれよ……【影纏い】の真髄を」


 警戒心を強め、体勢を低くし剣を上段に構えて臨戦態勢に入るトゥルーマン。俺の言葉と態度でハッタリではないとわかったのだろう。戦闘態勢に入り、瞬き一つせず火花が散ってしまうほどに視線がぶつかる。



「影は俺のフィールドだ……そのルールが適応されるか、試させてもらう」


 この能力がこの世界でも適応されるのかはわからないから、少しだけ緊張している。でもなぜだろうか…成功するだろうな、とは心のどこかで思っている。


 そうでなくてはアルカナが俺をこの世界には呼ばないだろう。


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