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その断罪、すでに三回目です  作者: あめとおと


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6/10

6



朝は、いつも通りに訪れた。


けれど。


「……違うわね」


カーテン越しの光を見ながら、呟く。


同じ時間。

同じ景色。


――なのに、“何かがずれている”。


「お嬢様、お目覚めでいらっしゃいますか?」


セリーヌの声。


「ええ、入って」


扉が開く。


彼女はいつも通り、完璧な礼をする。


けれど。


「……セリーヌ」


「はい」


「今、何時?」


「午前七時でございます」


「そう」


時計を見る。


針は――


七時を指していない。


「六時五十八分、ね」


「……え?」


セリーヌが、時計を見る。


「……本当、ですね」


一瞬の沈黙。


「さっきまで、七時でした」


彼女の声が、わずかに低くなる。


「でしょうね」


私は、静かに頷く。


「“戻された”のよ」


空気が、ぴたりと止まる。


「……誰に、でしょう」


「決まっているわ」


視線を、ゆっくりと窓へ向ける。


「“観ている側”に」


――反応。


ほんの一瞬。


カーテンが、揺れた。


風はない。


「ねえ」


ベッドから降りる。


足音を殺して、窓へ近づく。


「今の、聞いていたでしょう?」


返事はない。


けれど。


「時間を戻すなんて、ずいぶんと強引ね」


指先で、カーテンに触れる。


「そんなことをしたら、“ズレ”が目立つでしょうに」


わざと、ため息をつく。


「それとも」


振り返る。


「もう隠す気はないのかしら」


沈黙。


しかし。


「……面白い」


口元が、わずかに歪む。


「いいわ」


ベッドの脇に置かれた書類に手を伸ばす。


本日の予定。


――昨日と同じ。


けれど。


「ここ」


一箇所だけ、違っていた。


「謁見の時間が、変更されている……?」


「そのようです」


セリーヌが、覗き込む。


「本来は午前十時でしたが、九時半に前倒しされています」


「誰の指示?」


「王太子殿下かと」


――違う。


直感が告げる。


「……これは、“誘導”ね」


ぽつりと呟く。


「お嬢様?」


「観測者は、“見ているだけじゃない”」


紙を、軽く叩く。


「動かしている」


時間を戻し、予定をずらし、流れを変える。


それはつまり――


「“望む展開”がある」


胸の奥が、静かに冷えていく。


「なら、こちらも――」


思考を巡らせる。


その時だった。


「お嬢様」


セリーヌが、低い声で言う。


「……来ます」


「ええ」


感じていた。


廊下の向こう。


複数の足音。


そして。


「レティシア」


扉の向こうから、聞き慣れた声。


王太子。


「入ってもよろしいか」


「どうぞ」


答える。


扉が開く。


彼は、いつも通りの威厳をまとっている。


――けれど。


「珍しいわね、朝から」


微笑む。


「予定が変わった」


短く言う。


「急ぎ、確認したいことがある」


「奇遇ね」


視線を合わせる。


「こちらもよ」


彼の後ろには――リオン。


やはり、いる。


「昨夜の件だ」


王太子が続ける。


「毒の混入について、いくつか新しい証言が出た」


「そう」


頷く。


「誰から?」


「侍女の一人だ」


一瞬。


セリーヌの肩が、わずかに動く。


見逃さない。


「名前は?」


「……セリーヌだ」


空気が、凍る。


やはり、そこに来る。


――でも。


「いいえ」


私は、即座に否定した。


全員の視線が、こちらに集まる。


「それはありえないわ」


「なぜ言い切れる」


王太子の眉が寄る。


「簡単よ」


一歩、前へ。


「その証言、“まだ出ていないもの”だから」


沈黙。


「……何を言っている?」


「あなたは今、“言わされた”のよ」


静かに告げる。


王太子の顔が、わずかに歪む。


「誰に?」


その問いに――


私は、笑った。


「決まっているでしょう?」


ゆっくりと、天井を見上げる。


「そこにいる、“あなた”よ」


空気が、張り詰める。


誰も、動けない。


「さあ」


視線を戻す。


「どうするの?」


これは、賭けだ。


けれど。


「次の“台詞”は、もう決まっているはずよ」


王太子を見る。


彼は――


「……ふざけるな」


一瞬だけ、遅れた。


ほんのわずか。


けれど確実に。


「そんな話があるか」


“選んだ”。


自分の意思で。


「……やっぱり」


小さく、息を吐く。


「完全な操り人形じゃないのね」


なら。


「まだ、崩せる」


リオンが、静かに口を開く。


「殿下、いかがなさいますか」


その声は、いつも通り。


けれど――


「……証言は保留とする」


王太子が言う。


「再調査だ」


流れが、変わった。


「承知しました」


リオンが頷く。


その瞬間。


ほんの一瞬だけ。


彼の視線が――


“上”を見た。


「……あなたも、なのね」


小さく呟く。


「何か言ったか」


「いいえ」


微笑む。


すべてが、繋がり始めている。


駒だけじゃない。


動かしているもの。


そして――


「干渉してくる存在」


私は、ゆっくりと息を吐く。


「なら、遠慮はいらないわね」


見えない相手に向けて。


はっきりと、宣言する。


「あなたが動かすなら」


微笑む。


「私は、それ以上に動くだけよ」


静寂。


けれど。


確かに。


“何か”が、こちらを見ていた。





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