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その断罪、すでに三回目です  作者: あめとおと


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5/9

5



夜は、静かだった。


昼間の騒ぎが嘘のように、城は落ち着きを取り戻している。


けれど――


「静かすぎるのよね」


窓辺に立ち、外を眺めながら呟く。


灯りは点いている。

人も動いている。


それでもどこか、“気配が薄い”。


まるで――


「舞台の幕が下りた後みたい」


誰もが役を終えて、引っ込んだ後のような。


そんな違和感。


「お嬢様、夜風は冷えます」


セリーヌが、そっと肩にショールを掛ける。


「ありがとう」


素直に受け取る。


彼女の動きは、完璧だ。


――だからこそ、怖い。


「セリーヌ」


「はい」


「今日一日で、何か気づいたことは?」


少しだけ、間。


「……いくつか」


「聞かせて」


彼女は視線を伏せ、言葉を選ぶように口を開く。


「使用人たちの動きが、揃いすぎています」


「揃いすぎている?」


「はい。本来なら混乱し、判断が遅れる場面で……」


顔を上げる。


「まるで“次に何が起こるかを知っている”かのように動いています」


――同じ結論。


「あなたも、そう思うのね」


「はい」


静かに頷く。


「ただ」


言葉が続く。


「それが“経験によるもの”なのか、それとも――」


「別の理由か」


「……判断がつきません」


十分だ。


そこまで見えているなら。


「ねえ、セリーヌ」


ゆっくりと振り返る。


「もし、“誰かが物語を見ている”としたら」


彼女の瞳が、わずかに揺れる。


「どう思う?」


「……物語、ですか」


「ええ」


一歩、近づく。


「登場人物がいて、筋書きがあって、結末が決まっているもの」


沈黙。


「そして」


さらに、言葉を重ねる。


「それを“外から眺めている存在”がいるとしたら?」


セリーヌは、答えない。


ただ、静かに私を見る。


「荒唐無稽かしら」


「……いいえ」


小さく、首を振った。


「お嬢様がそう仰るなら、意味のある仮定かと」


「そう」


微笑む。


「なら、もう一つ」


声を落とす。


「“その存在が、介入している”としたら?」


――空気が、変わる。


その瞬間だった。


カタン。


小さな音。


ほんのわずか。


けれど、確かに。


「……今の、聞こえた?」


「はい」


セリーヌが即答する。


音のした方へ視線を向ける。


――何もない。


窓は閉まっている。

カーテンも揺れていない。


「妙ね」


ゆっくりと歩み寄る。


そして。


手を伸ばし――


止めた。


「お嬢様?」


「……いる」


小さく、呟く。


「何かが」


見えない。


触れられない。


けれど確かに、“そこにある”。


「誰かいるの?」


声をかける。


返事はない。


当然だ。


――普通なら。


「聞こえているのでしょう?」


続ける。


「ずっと、見ているのよね」


静寂。


けれど。


「分かるのよ」


胸の奥が、ざわつく。


これは恐怖じゃない。


確信に近い感覚。


「三回目に入ってから」


指先が、わずかに震える。


「“視線”が増えた」


一度目にはなかった。

二度目にも、なかった。


「あなたでしょう?」


問いかける。


その時――


「……っ!」


セリーヌが、息を呑んだ。


「どうしたの?」


「いえ……今、一瞬……」


顔色が変わっている。


「何を見たの?」


「“影”が……」


影。


「どこに?」


「窓の、外に……」


振り返る。


外は、夜。


庭が広がっているだけ。


「……いないわよ」


「はい……ですが、確かに……」


セリーヌの声が、わずかに震えている。


彼女がここまで動揺するのは珍しい。


「ふふ」


思わず、笑みがこぼれた。


「やっぱり、いるのね」


確信した。


これは偶然じゃない。


「ねえ」


もう一度、窓の外へ向かって言う。


「見ているだけで満足?」


風が、わずかに揺れる。


「それとも」


目を細める。


「少しは、触れてみたくなったのかしら」


沈黙。


けれど。


――その瞬間。


“何か”が、確かに動いた。


見えない糸が、引かれるような感覚。


空気が、歪む。


「……そう」


小さく頷く。


「やっと、反応した」


胸の奥が、静かに熱を帯びる。


恐怖ではない。


これは――


「交渉成立、かしら」


ゲームが、変わった。


駒同士のやり取りではない。


「盤の外にいるあなた」


静かに、告げる。


「今度は、“私が見ている側”に回るわ」


風が止む。


すべてが、静止する。


その中で。


私は、はっきりと理解していた。


この世界には。


「“観測者”がいる」


そして――


「私は、もう気づいてしまった」


だから。


もう以前のようには進まない。


決められた結末も。


用意された断罪も。


すべて――


「壊してみせる」


窓の向こう。


見えない何かへ向けて、微笑む。


「覚悟はいい?」


返事はない。


けれど。


確かに、“視線”だけが残っていた。






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