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その断罪、すでに三回目です  作者: あめとおと


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4



騒ぎは、意図した通りに広がった。


「毒が見つかったらしい」

「犯人は内部だとか」

「誰がやったんだ……」


囁きが、廊下を満たしていく。


恐怖と疑心。


――いい傾向だ。


「お嬢様」


背後から、控えめな声。


振り返ると、一人の少女が立っていた。


「セリーヌ……」


私の専属侍女。


一度目では、最後まで傍にいた存在。

そして――断罪の場にも、“証人”として立っていた。


二度目も同じ。


変わらなかった。


「少し、お時間をいただけますか」


「ええ、構わないわ」


部屋へ戻る。


扉を閉めた瞬間、外のざわめきが遠くなる。


「それで?」


ソファに腰を下ろし、視線を向ける。


セリーヌは一歩進み――


深く頭を下げた。


「お詫び申し上げます」


「……何についてかしら」


あえて、聞く。


「本日の件です」


顔を上げる。


その表情は、いつも通り穏やかで。


――だからこそ、分からない。


「お嬢様に届いた菓子、私が一度、保管庫へ運びました」


静かに、告げる。


心臓が、わずかに跳ねた。


「理由は?」


「他の荷と一緒に管理するためです」


「記録は?」


「……残しておりません」


やはり、そこだ。


「なぜ?」


「急ぎだったため、後で記入するつもりでした」


――嘘。


少なくとも、“全部”ではない。


「そう」


軽く頷く。


責めない。


ここで圧をかけても、意味はない。


「では、質問を変えるわ」


セリーヌの目を見る。


「その後、“誰かが触れた可能性”は?」


一瞬だけ。


ほんのわずかに、視線が揺れた。


「……否定はできません」


「名前は?」


「分かりません」


即答。


速すぎる。


用意された答え。


「そう」


背もたれに身体を預ける。


沈黙が落ちる。


「お嬢様」


セリーヌが、静かに言う。


「どうか、私をお疑いください」


その言葉に、思わず目を細めた。


「……随分と、正直ね」


「疑われるべき立場です」


淡々としている。


感情の揺れが、見えない。


「一度目では、信じたわ」


ぽつりと、零す。


「最後まで」


セリーヌの瞳が、わずかに揺れる。


「二度目でも、同じだった」


逃げることを選んだ時でさえ。


彼女は、ついてきた。


――そして。


「断罪の場で、あなたは“証言した”」


空気が、凍る。


「……何を、ですか」


「私がやった、と」


静かに告げる。


セリーヌは、黙る。


否定しない。


「面白いのよね」


ゆっくりと立ち上がる。


「裏切ったのか、利用されたのか、それとも――」


一歩、近づく。


「最初から、そちら側だったのか」


「……お嬢様」


彼女は、初めて。


ほんの少しだけ、苦しそうな顔をした。


「答えは、どれでも構いません」


視線を外さない。


「ただ一つだけ、確認したいの」


息を整える。


そして――


「今回は、どちらに立つの?」


沈黙。


長い、長い沈黙。


やがて。


「……お嬢様の側に」


小さく、しかしはっきりと答えた。


「そう」


それ以上は、何も言わない。


信じない。


けれど――


「使えるかどうかは、別問題ね」


心の中で、線を引く。


その時だった。


コンコン、とノック。


「お嬢様、よろしいでしょうか」


聞き慣れた声。


「入って」


扉が開く。


現れたのは――


「リオン」


彼は、いつも通りの礼をする。


「少々、お耳に入れたいことが」


「奇遇ね」


微笑む。


「こちらも、ちょうど話題にしていたところよ」


セリーヌの肩が、わずかに強張る。


見逃さない。


「それで?」


「保管庫の件ですが」


淡々と続ける。


「出入り記録の一部が、意図的に改ざんされている可能性が高い」


「でしょうね」


予想通り。


けれど――


「誰がやったの?」


「現時点では不明です」


即答。


だが、その次の言葉で。


「ただし」


わずかに、間。


「“一人だけ”、記録に不自然な点がある人物がいます」


空気が、張り詰める。


「誰?」


リオンは、静かに視線を動かす。


そして――


「……セリーヌ嬢です」


部屋の温度が、一気に下がる。


「理由は?」


私は、あくまで冷静に聞く。


「本来存在しないはずの時間帯に、保管庫付近で目撃されています」


「へえ」


横目で、セリーヌを見る。


彼女は、何も言わない。


否定もしない。


「偶然では?」


「可能性は低いかと」


リオンは、私を見ている。


試すように。


「なるほど」


ゆっくりと頷く。


そして――


「報告、ご苦労様」


それだけ言った。


「……以上です」


リオンは一礼し、去っていく。


扉が閉まる。


静寂。


「お嬢様」


セリーヌが、口を開く。


けれど。


「いいの」


遮る。


「説明は不要よ」


すべて、分かっているわけではない。


でも――


「一つだけ、確定した」


窓の外を見る。


夕暮れが、近づいている。


「“ズレている”のは、事件だけじゃない」


リオンの動き。


タイミング。


言葉の選び方。


すべてが――


「前とは違う」


そして。


「あなたも、ね」


セリーヌに視線を戻す。


「三度目は、全員が“同じ動き”をするわけじゃない」


それはつまり――


「誰かが、書き換えている」


未来を。


役割を。


この物語そのものを。


「……いいわ」


小さく笑う。


「なら、そのつもりでやるだけ」


駒は揃い始めた。


疑わしい味方。

読めない側近。

そして見えない黒幕。


「楽しくなってきたじゃない」


これはもう、“回避”の話ではない。


「勝ちにいく」


三度目。


その意味を、ここで初めて――


私は理解した。





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