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その断罪、すでに三回目です  作者: あめとおと


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3/10

3



厨房の前は、すでに人だかりになっていた。


使用人たちのざわめき。

責任者の怒号。

そして――張り詰めた空気。


「お嬢様……!」


私の姿に気づいた料理長が、顔色を変えて駆け寄ってくる。


「これは、一体どういうことかしら」


静かに問う。


声を荒げる必要はない。


今は“見る”方が先だ。


「それが……本日納品された菓子の一部に、異物が混入しておりまして……!」


「異物、ね」


視線を落とす。


問題の菓子が、銀の盆に乗せられていた。


見た目は美しいまま。


けれど、その一つ。


――わずかに、色が違う。


「触れても?」


「は、はい……!」


手袋を受け取り、指先でそっと割る。


中身を確認する。


そして――


「……やはり」


小さく呟いた。


一度目で“毒”とされたもの。


二度目で“証拠”になったもの。


間違いない。


「同じね」


だが。


「タイミングだけが違う」


視線を上げる。


「この菓子、どこから入ったの?」


「それが……正規の納品とは別に、保管庫へ置かれていたものがありまして……」


「置かれていた?」


「はい。記録がなく……誰が運び込んだのかも……」


――不自然すぎる。


一度目は“配送”。

二度目も同じ。


けれど今回は――“侵入”。


「なるほど」


ゆっくりと息を吐く。


やはり、変わっている。


「保管庫に出入りした者の記録は?」


「確認中ですが……」


言い淀む。


その反応で、分かる。


「“抜け”があるのね」


「……申し訳ございません」


謝罪はどうでもいい。


問題は、そこではない。


「誰かが、わざと記録を消している」


ぽつりと落とした言葉に、周囲の空気が凍る。


「お嬢様、それは……」


「内部よ」


即答した。


外部の人間が、ここまで自然に入り込めるはずがない。


つまり――


「この中にいる」


視線を、ゆっくりと巡らせる。


誰もが息を呑む。


その時だった。


「――さすがですね」


背後から、穏やかな声。


振り返る。


そこにいたのは――


「リオン……」


王太子付きの側近。


常に冷静で、無駄のない男。


一度目では、私を“切り捨てた側”。

二度目でも、同じだった。


「この状況で、そこまで見抜かれるとは」


軽く頭を下げる。


礼儀正しい。


完璧な振る舞い。


――だからこそ。


「あなた、ここに来る予定だったかしら」


問いかける。


空気が、わずかに揺れた。


「……予定、ですか?」


「ええ」


視線を逸らさない。


「王太子殿下の側近が、厨房の騒ぎに“こんなに早く”来る理由を聞いているの」


一拍。


ほんのわずかな、沈黙。


「報告を受けたためですが」


「誰から?」


「使用人からです」


「名前は?」


間を置かずに重ねる。


すると――


「……確認しておりません」


ほんの一瞬。


言葉が遅れた。


「そう」


微笑む。


「優秀なあなたが、それは珍しいわね」


リオンは何も言わない。


ただ、静かにこちらを見ている。


「ねえ」


一歩、近づく。


「あなた、“知っていた”のではなくて?」


「何を、でしょう」


とぼける声。


完璧だ。


けれど――


「この騒ぎが起きることを」


空気が、止まる。


周囲の誰もが動けない。


「……面白いことをおっしゃる」


リオンは、わずかに口元を緩めた。


「ですが、それではまるで」


一歩、こちらへ。


距離が縮まる。


「私が“仕掛けた側”のように聞こえます」


「違うの?」


静かに返す。


すると――


彼は、ほんの一瞬だけ。


“考えた”。


その間。


それだけで、十分だった。


「……いいえ」


いつもの表情に戻る。


「そのような事実はありません」


「そう」


頷く。


それ以上は追わない。


今、ここで崩す必要はない。


「お嬢様」


料理長が不安そうに声をかける。


「この件、どのように……」


「広げなさい」


即答した。


「え?」


「隠す必要はないわ。むしろ逆」


視線を上げる。


「“全員に知らせる”の」


ざわめきが起こる。


「毒が見つかったと。誰がやったか分からないと」


「それは……危険では……」


「ええ。危険ね」


にっこりと笑う。


「だからこそ、いいのよ」


――炙り出す。


「犯人は、必ず“動く”」


隠せば、潜る。


晒せば、焦る。


「そして私は」


リオンの方へ、ちらりと視線を流す。


「その“動き”を見逃さない」


彼は何も言わない。


ただ、静かにこちらを見ている。


――読めない。


でも。


「構わないわ」


心の中で、呟く。


一度目では、何も分からなかった。

二度目でも、掴めなかった。


けれど今は違う。


「ようやく、盤面が見えてきた」


誰が駒で。

誰が動かしているのか。


そして――


「誰が、“予定にない存在”なのか」


私は、はっきりと理解し始めていた。


この物語には。


“決められた役”の他に。


――“観ている側”がいる。





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