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その断罪、すでに三回目です  作者: あめとおと


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最終話



王城の大広間。


すべては、ここに戻る。


「レティシア・フォン・アルヴェイン」


呼ばれる名前。


向けられる視線。


王太子と、その隣に立つ少女。


――“最初と同じ構図”。


「……また、この形なのね」


小さく呟く。


三度目。


いや。


「これが、最後」


一歩、前へ出る。


「貴様の罪は明白である」


王太子が、告げる。


毒の混入。

侍女への命令。

聖女への嫌がらせ。


すべて、聞き覚えのある罪状。


「証人も揃っている」


視線が、セリーヌへ向く。


彼女は――静かに立っている。


「……さて」


私は、ゆっくりと息を吐く。


「どうするの?」


視線を、ほんのわずかに上へ。


誰にも気づかれない角度で。


「これが、あなたの“理想の最終形”?」


沈黙。


けれど。


“いる”。


確かに、そこに。


「いいわ」


微笑む。


「なら――受けて立つ」


顔を上げる。


王太子を、まっすぐに見る。


「証言を」


彼が言う。


セリーヌが、一歩前へ。


――そして。


「……私は」


ほんの一瞬。


彼女の視線が、私に触れる。


「お嬢様の命で、毒を――」


「違うわ」


遮る。


はっきりと。


空気が、止まる。


「その証言は、不要よ」


「……何?」


王太子が、眉を寄せる。


「どういう意味だ」


「言葉通りです」


一歩、進む。


「その断罪、もう必要ありませんわ」


ざわめき。


理解が追いつかない顔。


「罪があるかどうか」


肩をすくめる。


「そんなこと、どうでもいいの」


「ふざけるな」


低い声。


「これは王家の――」


「違う」


静かに、しかし強く遮る。


「これは、“あなたたちの意思”じゃない」


視線を、ゆっくりと巡らせる。


王太子。

リオン。

周囲の貴族たち。


そして――


「“観客”の都合」


空気が、張り詰める。


「何を……」


「もういいでしょう?」


上を、見る。


今度は、隠さない。


「ここまで付き合ってあげたんだから」


その瞬間。


――ザ、と。


空間が、歪む。


誰も気づかない。


けれど。


「……来たわね」


小さく呟く。


「最終調整?」


空気が、重くなる。


時間が、引き伸ばされる。


「でも」


一歩、前へ。


「終わりにするのは、こっちよ」


手を伸ばす。


何もない空間へ。


けれど――


「届く」


確信がある。


三回目で、掴んだ感覚。


「あなたは、“触れられる”」


指先が、震える。


その先に――


“何か”がある。


「だから」


ぐっと、力を込める。


「掴む」


――バチンッ!


空間が、弾ける。


視界が、白く染まる。


「……っ!」


痛み。


圧。


引き裂かれる感覚。


それでも――


「離さない」


歯を食いしばる。


「あなた、退屈だったんでしょう?」


声を絞り出す。


「だったら――」


さらに、力を込める。


「最後くらい、自分で選びなさいよ!」


沈黙。


けれど。


確かに、“何か”が揺れる。


「結末を」


掴んだまま、引き寄せる。


「決めるのは、あなたじゃない」


そして――


「私でもない」


その言葉に。


“それ”は、止まった。


「ここにいる全員よ」


視線を、広間へ向ける。


「この場で、生きている人間」


王太子が、目を見開いている。


リオンが、息を呑む。


セリーヌが、震えている。


「物語じゃない」


静かに、告げる。


「これは、“現実”よ」


――静寂。


すべてが、止まる。


時間も。

音も。

思考も。


そして。


「……そう」


小さく、何かがほどける。


見えない“何か”が。


「理解したのね」


指先の感触が、消える。


圧が、消える。


世界が、戻る。


ざわめきが、蘇る。


「……今のは……」


誰かの声。


「……何が……」


混乱。


当然だ。


「終わったわね」


小さく、呟く。


もう、“視線”はない。


あの圧も、干渉も。


すべて――


「消えた」


セリーヌが、ゆっくりと顔を上げる。


「お嬢様……」


「もう大丈夫よ」


微笑む。


「誰にも、操られない」


王太子が、口を開く。


「……レティシア」


その声は。


これまでと違っていた。


「この件は……」


迷い。


葛藤。


「再調査とする」


はっきりと、言った。


「すべてを、白紙に戻す」


ざわめき。


けれど。


誰も、反論しない。


「……それでいいわ」


頷く。


もう、断罪は起きない。


少なくとも――


「この形では」


踵を返す。


もう、ここに用はない。


「どちらへ」


リオンの声。


「少し、外へ」


振り返らずに答える。


「空気が、変わったから」


扉へ向かう。


その時。


ほんの一瞬。


「……またね」


小さく、呟く。


誰にも聞こえない声で。


「退屈になったら、来なさい」


返事はない。


けれど。


どこかで。


ほんのわずかに――


“笑った気配”がした。



外は、穏やかな風が吹いていた。


空は高く、青い。


「……静かね」


呟く。


何もない。


視線もない。


干渉もない。


ただの、世界。


「これが、本来」


少しだけ、目を細める。


「つまらない?」


自分に問いかける。


そして。


「いいえ」


小さく、笑う。


「悪くないわ」


歩き出す。


誰にも決められない道を。


「さて」


ドレスの裾を整えながら。


「ここからは、本当に自由ね」


その言葉は。


風に溶けて、消えた。






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