王都のスラムの人々
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こちらの作品はカクヨムさんでも投稿させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
side ある王都のスラムの元締???
明日は回復の儀が広場である。まぁ、いつも通り俺たちには関係ないことだ。街の奴らの考えなんてわかっている。俺たちが邪魔者だということは。
だが俺たちだって好きでここにいるわけじゃねぇ。行き場がなくて流れて流れて辿りついただけ。
本当ならまともな領主の治めるまともな領地で、真っ当に仕事をして家族と暮らせたらどんなにいいか。
まともな暮らし。それがとても遠くて、2度と元の場所には戻れそうにない絶望感にたまに飲み込まれそうになる。しかしたとえ堕ちぶれても、誇りを失った生き方はしたくねぇ。
若い奴らの中には、どんなに諌めてもきかねぇのもいる。誇りなんか何なる?と、誰も自分たちを人間扱いしねぇのにって。
つらいのは分かるし、たしかに誰も俺らも同じ人間だって思わねぇかもな。俺たちが誇りに拘っても意味はねぇのかもとも思う。誇りを持ってはいても、泥水をすする毎日だ。盗みも脅しもやる。
だが、こんな底辺でも棲み分けるようにはしている。まだ変われる、ここを出たいと思う奴らはいるから。なんとか守りたい、きっとそれが残された俺たちの最後の希望なんだ。
この場所でしか守れないモノのため、ギリギリを見極めて。まだ戻れる奴らが踏みとどまれる場所を守ること。なんとか深みに引き摺り込まれるのをとどめること。
でもそこまでだ。いつもそこまでしかできねぇ。こんな時思う。誰か俺たちを助けてくれ、と。
まさか本当に助けが来るとは思わなかったが。
それは子供の姿をしていた。辺境伯のところのスラムの奴らが挨拶に来た、という。何しに来たんだ?ただの挨拶だなんて誰も思わねぇよ。だが、辺境伯は評判のいい領主だ。あそこのスラムの奴らは恵まれている。
目つきの鋭いいかにも訳ありな雰囲気の男が子供とやって来た。子供絡みか?
たまに子供を預かってほしいという頼みは持ち込まれる。逃げて来たとか、追われているとかもある。他にも売りにくることもある。
会ってくれてありがとうと礼を言われた。話す機会を作ってくれて、本当にありがとうと。
なんだか?スラムの奴なのに?何か違う?
今日の用事はこの子供だ、というから厄介事かと警戒した。この場には俺が信用している近しい奴らしか入れてねぇが、皆に緊張が走る。
子供は挨拶がすむと大人しく席について様子を見ていたようで、辺境伯のスラムの奴が話しをむけると居住いを正し話し始めた。
明日の回復の儀に何人くらいくるか?みたいなことを聞いてきたので、俺たちは出られねぇと話した。お布施なんて払えねえし。受けさせてやりたかった奴らは姿を消しちまったからな。
俺の話を唖然として聞いていた子供は、頭を押さえてため息を吐くと少し何か考えてすぐに男に何か指示した。子供は魔法を使いますと俺に許可をとり男を転移させた。
えっ、転移?
子供は、男はすぐ戻ること。ちょっと聞きたいと言ってこの街のことを聞いてきた。
スラムの奴らが主にどんな仕事をしているのかとか、まともな働き口に興味はあるかとか?
回復の儀をこれからスラムでやるから驚かないようにという。俺は何言ってやがる。できるわけねぇ、と言ってもきかない。
そもそも宝珠を持つ者はいつでも回復を受けられるのだから、本当は儀式など必要ないのだという。それがなぜ回復巡行などをしているかといえば、宝珠を持たない者にはその恩恵が受けられないかららしい?
よくわからねぇ、というと。
宝珠を与えたのは自分で、自分が治したいと思う基準があり、当然治したくない奴らもいる。しかし、それを治したくない者が納得するだろうか?
また宝珠を奪えば治せるとか勘違いされたくない。だからスケルトンナイトを召喚したという。宝珠の存在を誤魔化すとともに、宝珠を持つ者を守る。あるいは宝珠を持たない者を遠ざけるために。
スケルトンナイトってそのために出てきたのか!
つまり回復の儀を受けることができないから治らないと、そう宝珠を持たない者たちに思わせるため?なんてこった!
いや、じゃあはじめから治してもらえる者は決まっているのか!子供はこの場にもいますね、と笑う。
俺は後ろを振り返り、側近の片目の男を見る。やつは!下向いてやがる。おい、宝珠を持っているのか?ときくと黙っている。
子供が使う使わないは、本人の自由だという。使うタイミングも本人が決めればいいと。
こっそり使う場合は、回復したことを知られたくない場合が多そうだから姿を消せるような仕組みにしているので、姿を消したくない場合は使うのを躊躇うのだろうという。
側近の男は話を聞いていたのか、子供に質問してもいいかときいてきた。許可を出すと、回復してもここにいることはできるか?と子供にきく。子供は笑って頷き、早速どうぞと勧める。
すると、ほかの側近の奴らからも質問がされた。
回復されるのに、どのくらい時間がかかるのか?とかどのくらい治るのか?とかお金は本当にかからないのか?とか。
子供はすぐ治るし、お金はかからないこと、どのくらいかについては自分で経験するようにいう。なにしろどの人にとってどのくらいかなんて、その人の感覚?基準なのだからと。
たしかに俺の側近には、片腕の奴や耳が片方ない奴もいる。まさか皆宝珠を持っているのか?
光がその場を満たしたと思ったらもうおさまった。なんでぇ、こけおどしか!と思ったが違った。腕がある!耳がある!じゃあ目も?
皆呆然としていた。本当にあっという間のことだ。おい、腕は動くのか!ときくと側近の男は握ったり開いたりして確かめている、それから信じられないと、まったく違和感がないと。夢でも見ているようだと。
とりあえず子供に礼をいい、つまり子供がどうしたいのか聞くことにする。
子供は回復のことはさて置き、実はスラムでやりたいことがあるという。
国のあちこちにスラムのような場所はどうしてもできてしまう。そういった場所にしか居場所がない人もいるだろう。しかし、いわゆる普通の生活?がもう一度送りたい人もいるだろう。
口減らしで街に来たばかりの貧しい子供や若者たち、家族で夜逃げしたり、仕事がなくなってやっていけなくなった人たち。
そんなまた働きたい人たちに機会をあげたいというのだ。
どうやって?
もとがスラムの人間とわかれば、先入観を持たれて敬遠されてしまう。ならばスラムの出身だとわからなければいい。
例えば、他の町でやり直すとか。顔が知られていなければ、ただよその町から来たばかりだと誤魔化すのも容易だろう。
とりあえず、他の街に行っても困らないように手に職をつけたり、字の読み書きを覚えたりを辺境伯のスラムで試していて、また何人かは、住み込みの働き口が見つかった者もいるという。
つまり、ここにもスラムを抜けたい者がいれば支援したいこと。また今後、この街に流れて来た者たちの受け皿をしつつ、仕事を探す手助けをしていかないと。
もちろん、残されたスラムの人たちをクズ扱いするわけではない。例えば冒険者になれば、自分で獲物を狩り稼ぐこともできる。盗賊とかになっていなければ、まだ更生することは可能だろう。
なぜ、スラムの人が浮き上がれないか?それは身体の欠損が理由で、まともな働き口への邪魔になっていると思うと。
そうなのだ。働けるなら皆働いていたはずだ。ただもうどこも雇ってくれなかったり、1人前の働きが期待できない身体だったからだ。
つまり回復は、また働けるようにするため?
確かに身体を損なう理由の中に村で魔獣に襲われたとか、冒険者になったばかりで怪我が原因とかはよく聞く。
もっと経験があれば、闘えれば、武器を買う金があればとか、誰かに闘い方を教えてもらえたなら、逃げ方を教えてもらえたなら、そもそも闘うにしろ、逃げるにしろ判断できる知識があればとか。
もう一度、今度はちゃんと経験を生かして、用心して用意して、勉強して。そうすれば今度は違う道が拓けるかもしれない。
あっ、戻ったみたい!と子供が言う。どうやら男が戻ったらしい。転移陣が光り、何人もの人間が出てくる。皆警戒して見つめた。
子供がその人たちなの!と笑いながらこちらを見てくる。
俺は何人かの顔を見て、とても信じられなかった。まさか生きていたなんて。死んだと思っていた。
そいつらは、ずっと寝たきりだった。病気や魔獣の被害でボロボロで、とても人間の医者には手の施しようがなかったのだ。光や聖属性の高位の魔法なら少しは効果があるかも知れないが、それも確かではない。
第一治療を受けられる金がなかった。今回の都の回復の儀のことを聞いて1番にこいつらのことを考えた。でもお布施がいるとかぬかしやがるし。俺たちは出る資格もないと言われて、どんなに悔しかったか!
でも元気そうだ。服もボロじゃねぇ。つぎは当たっているが、しっかりした服を着ている。顔色もいい。きっとちゃんと食べているのだろう。
顔役、すみませんでした。と、皆頭を下げて謝ってくる。なんで謝るんだ。
何も言わずに、今まで見捨てず世話してもらったのに、こんな不義理をしてすみませんと。
子供が俺をみながら、彼らはこれ以上、あなたたちのお荷物になりたくなかっただけ。回復すれば食い扶持が増えてしまう。ただでさえ皆の食べ物を自分たちのせいで減らしてしまっているのに。
だから、自分たちが消えれば食い扶持が減るし、世話をかけることもないと。
彼らは今ある場所にいる。あなたたちも来ませんか?と子供が言う。
ただ、全員一度には無理、段階的に、あとしっかり人選しないといけない。ここで子供はアイテムボックスからドーンとどでかい獲物をいきなり出して、これ食べてください。と言ってきた。
えっ、どう言う流れで?
転移陣をしいたから、いつでもわたしはここに来られます。明日回復の儀を行ったら、島に戻りますがまたすぐこちらに来ます。
王都のギルドにも、仕事口を探してもらっているらしい。なんだか、王都がバタバタしていてたぶん人手が足りないところもあるはずと感じたそうだ。
そこで、島に来ていた王都のスラムの出身者に王都で働くことについて打診してみたのだそうだ。
するとまず顔役に謝りたいと言うので、こちらに戻りしっかり互いに話すことを勧め、転移陣を使っていいから、島も見学をしてはどうかと破格の申し出をしてくれた。
先程の獲物は、スラムの食糧事情に配慮し手持ちの肉しかなくて悪いが、どうか遠慮せず皆で食べてほしいとのこと。
正直、食べ物はありがたい。こんなにデカければ皆に十分食べさせてやれる。
子供はまた来るまで、ゆっくり話し合い決めてくれればいい。と、結界石を置いて行った。こんなに?
島で何日かすでに過ごしている者たちが説明してくれる。これは顔役たちが持っていてほしいこと。通信機能もあるから、何か助けが必要な場合リーダーに連絡できること。
結界石は最長1日、何ものからも守ってくれるから信じて助けを待てばいいと。
なんだかずいぶん頼もしくなった。
なんでも島では、採取について教えてもらったり、武器の扱いを習ったり、夜には字の読み書きを教えてもらったりしているという。
古着だが服ももらい、料理の仕方も習っているらしい。島では、農作業をする者もいれば、狩りにいくグループについていき闘い方を学んでいる者もいて、本当にやればできるんだと思えるようになったという。
自分で決めて考えて、その当たり前を今島で練習しているという。
よかった。
俺たちもまだ間に合うだろうか?あの子供ならいつでも間に合うと言ってくれそうな気がする。
皆と肉をたっぷり食べながら、嬉しそうに頬張っている皆を見て、間に合うかもしれないとそう思えてくる。
たくさんの作品がある中で
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