15.のじゃロリ魔王
俺は洞窟の中に椅子を並べた。
若干デコボコしている地面だが、置けないことはない。
「ワォ! イカス椅子デスネ!」
「言うな。ちょっと後悔してる」
同じ椅子ばかり描くのもつまらなかったので、途中で装飾を付けたり形を変えたりした。
後半の方は、どこの高級家具屋に置いてある椅子だよ、と思うような、無駄に凝った装飾が施されている。
ヴァイスがその高級椅子に座る。
「魔王サマニナッタヨウナ気分ニナリマス!」
「魔王? 魔王が居るのか?」
「イマスヨー。人間ト、ドンパチシテイルミタイデス。
尖モ、気ヲ付ケテクダサイヨ」
君子危うきに近寄らず、だ。
危ないモンスターに近づくような自殺行為はしていない。
異世界転移の小説やマンガだと、何でか主人公がモンスターを当然のように殺すよな。
自分が殺されるかもしれない、なんて微塵も考えずにモンスターに突っ込む。
あの絶対的な自信はどこから来るのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇
・魔王城
空には暗黒の雲が浮かび、止まない雷鳴が鳴り響く。
黒レンガで作られた、山より大きな壮大な城。
この世界で最強の魔王ディストピアが住む、魔王城である。
その城の一室で、魔王ディストピアはマンガを読んでいた。
たまーに日本へ転移し、人知れず購入し持ち帰っているらしい。
本屋で帽子を被り角を隠したゴスロリ少女を見かけたら、もしかすると彼女かもしれない。
「はぁー、至福の時なのじゃー。しかし残念なのじゃ。
新泉尖先生はくも膜下出血で死んでしもうたのじゃ。
あー、続きが読みたい、読みたいのじゃー」
「原作の小説家が在命なら、他の漫画家が続きを担当されるのでは?」
「セバスチョン! お主は何も分かっておらぬ!
この画風! この魅せ方! このテンポ!
新泉尖先生でなければ描けぬのじゃ!」
「は、はぁ」
執事服に身を包んだ、ダークエルフの青年セバスチョンは、主のマンガ愛について全く理解する事ができなかった。
ちなみにディストピアは原作は読んでいない。
文字ばかりだと眠くなるので。
「俺っチ、帰宅! ディストピア様、帰リやしタぜー」
「おお、フリスタ。よく戻ったのじゃ」
ネクロバットのフリスタが、パタパタ飛んで天井に逆さに停まった。
「まずハ報告。都市ダークフレイムは降伏勧告を拒否。
俺っチを殺そウとしタ。俺っチじゃなけれバ死んデたぜ!」
「使節1匹殺したところで、わらわが気づくのが遅れるだけで、何も変わらぬというのに。
人間の何と狭量なことよ」
「だヨなァ! せっかク、ディストピア様が平和的ニ降伏勧告しタのニなァ!」
「して、敵戦力は推定と比べ?」
「推定通り! ディストピア様の計算との誤差1%以下だゼ!」
ディストピアは、宙に浮かぶ報告画像を見て、一つ気になった物を見つけた。
「この人間は……!」
「あァー、こレは軍事にゃ関係ネぇ画像だゼ。
俺っチが個人的ニ親しくしタ人間の一人。
名前は……聞き忘れたゼ!」
「今すぐ、この者を保護するのじゃー!」
ディストピアはピンときた。
この男、新泉尖先生に違いないと。
作者のブログに顔写真が載っていたから、見間違いではないはず。
おそらく神が、異世界転移させたのだろう。
この男を捕えるまで、都市ダークフレイムへの攻撃を中止とする、とディストピアは配下へ伝えた。
せっかく攻撃する気満々だった配下達だったのだが、魔王の命令は絶対。
きっと何か理由があるのだろう。
そう思い、都市ダークフレイムにこっそり潜入し、情報収集を試みることにした。
新泉尖が魔王軍に見つかるまでの3ヶ月間、都市ダークフレイムは新泉尖のおかげで、人知れず平和が保たれたのだった。




