表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第三章~リングアウトの間奏曲~
40/112

第11話 絶縁空間トレーニング

2021/04/25大規模修正&追加

 本日の行軍が終わり、ようやく夕方休憩に入った。

 日が落ちれば気温も下がるし、獣避けのためにも焚き火は必須。

 荷馬車がたいへん揺れることに対するお手軽かつ簡単な解決策が挙げられた。


「ルゼイアの膝の上に座らせてもらえばいいんじゃね? どうせ狭いんだし、多少はましだろ。」


 犠牲者を一人にする、大変に効率的だ。

 意識の切り替えも終わっている、その案を採用させてもらおう。


「――なんて納得しますか! 男女が密着するのはその、ええと……ぐう。」


 うまく言葉が出てこない。

 合理的ではある、感情的な問題を除いては。

 フォクシ嬢はからかったわけでなく、本心から言っているのだ。

 結局呻くだけで明確な反論はできなかった。

 現在お嬢様はエプロン姿。

 髪の毛も後ろでまとめてしっかり頭巾で止めている。

 お尻や腰に多大な負荷を負ったが、身についた教養は正しい姿勢を崩さない。


「……僕も大分腰痛かったんだけど。」


「では、こちらのクッションなど! 二人分より一人分のほうがお値段もお得! 材質は――。」


「……買うのでしたらルゼイアのお財布からどうぞ。」


 速攻始まる商談は聞き流しておく。

 この辺りに身を隠せるような丘は無い。

 その代わり、ヴィオニカ連邦国が攻めてきた時の名残が残っている。

 飛行船の残骸があちこちに落ちているのだ。

 木の枠組みと金属フレームに布を張り、原始的な術式で補強しただけのものだ。

 これでは竜人達の猛攻に耐えることはできまい。

 一方簡単な術式だからこそ、今でもまだ起動が可能だ。


「こういった所も一種の名物になっていそうですね。」


 感想を漏らすお嬢様。

 現在はキャベツと人参を切り終わり、フライパンを熱している。

 夕食当番として今晩作るのは、焼きそば風パスタだ。

 早速クリムゾングリーズで仕入れた醤の出番。

 先んじて野菜と戻した干し肉切って炒め、少しの水と塩を湯立たせる。

 沸騰してきた所でパスタを投入、水気が飛んだら醤油に豆板醤を少しだけ。

 鰹節や青のりは残念ながら仕入れていない。

 ラッティ氏の鼻がふんふん動いている。

 三人分も四人分も変わらない、これくらいは鉄貨ついでのサービスだ。


「はい、こちらはフォークでどうぞ。ある程度量も作ってありますけど、残ったら明日の朝食にアレンジします。」


「エルエルさん、お料理できたのですね。……これは調理器具の売り込みもしなければ。」


 フォクシ嬢とルゼイアは変わった料理が出てきても覚悟を決めている。

 以外にもラッティ氏は躊躇なく食事に入っている。

 これも商人の目利きだろうか、何気にレシピを見て覚えられた気がする。

 別段、隠すようなものでもないので構わないのだが。


「高いものは買いませんから。この認識阻害の魔道具だけで相当痛手だったんですよ?」


「その節はご贔屓ありがとうございました!」


 にっこにこ笑って悪びれもしない。

 流石商人、次の商機を狙っている。


「ところでこの飛行船の術式、まだ生きてますよね。解析したところ、魔力を防ぐための防壁みたいですけど……。」


「んぐ、そうだな。記念に起動させるやつもちょくちょく居るし、ぶっ壊さね―のなら探っても良いぜ。」


 パスタをすすりながらフォクシ嬢の許可が出る。

 魔力を防ぐ効果がある、それはつまり覚醒の練習が出来るということだ。

 扇子型の魔道具と合わせることでゆっくり慣らしていけば黄金竜も目立たない。

 あとは練習に付き合ってくれるような相手だが――。

 ぴたり、とお嬢様の視線がルゼイアで止まった。

 ちょうどつるんと焼きそば的なパスタをすすり終わった所だ。

 エプロンを脱いで、食事開始前に一言。


「ルゼイア、後でちょっと付き合ってください。」


「あ、デートですか? じゃあボク達はちょっと離れて――。」


「いいよ、僕も久々にエルと遊びたい。」


「オレは術式操作担当してやるよ。護衛もあるからあんまり離れられね―から、ルゼイア、熱中しすぎんなよ。」


「……あれあれ、ついにボクは蚊帳の外ですか?」


 ラッティ氏の茶々は聞き流すのが一番。

 全員の共通認識になったようだ。


 * * *


 落ちた飛行船の中は広い。

 正確には気嚢部分の内部だ。

 今となってはそこに詰められていた気体は抜けている。

 魔力遮断防壁の術式が編まれた木の枠組みと膜材だけの空間。

 外ではフォクシ嬢とラッティ氏が防衛術式を起動させてくれている。

 認識阻害の魔道具は預けておいたため、お嬢様の素顔を遮るものはない。


「それじゃあ、久しぶりに初めましょう。」


 左足を引き、右半身の構え。

 手槍を乗せ、一先ず完了。

 此処から先は魔力撹乱の魔道具と経路を同調させる。

 碧瞳をルゼイアから外すこと無く出力の調整。

 固定魔法が発動し、黄金の竜が翼を広げ始める。

 非常に不本意な位置に浮かんだ刻印へ意識を向け、鎮める呼吸を以て文言と成す。

 気嚢の中を満たすほどに広がりだした黄金のカンバスはお嬢様の内部へ集まる。

 物質界へ影響を及ぼすほどの密度になった魔力の流れが同色の髪を揺らす。

 自らの根底となる種族は竜。


「ぅ……。」


 ずく、と意識を向けた刻印が疼く。

 位置が位置だ、むず痒さが背筋を這い上がって頭の中まで届く。

 少し居心地が悪いが不慣れなためと割り切ろう。


「ふ――う……。」


 碧から金へと代わる瞳、変質を始める体つき。

 ケープの下から押し上げるように小さな翼が広がる。

 硬質化した耳が滑らかな曲線を描き、上向きの白い角へと変質する。

 不思議なことに音が聞こえなくなることはなかった。

 両腕はシルヴィ嬢のような変質はない。

 変わってしまうと無手であれ槍であれ微調整ができなくなる、助かった。

 あの時には起こらなかった変化として尻尾が追加されている。

 スカートに圧迫されること無く、しゅるんと外に飛び出した。

 どうも後ろのフリル部分、これを想定した作りのようだ。

 フィッシュテールのおかげで不馴れな尻尾が足に絡まない。

 出来上がったのは全体的に曲線的な半竜の姿。


「……お母様、準備が良すぎでは?」


 ひとりごちたが、なるほどこれは反復練習が必要だ。

 シルヴィ嬢は一息で変化を完了していた。

 お嬢様がこの姿になるまで、およそ五回の深呼吸。

 その間構えはしていたが隙だらけだ。

 体を巡る魔力の速度と生み出される力は圧縮されて想像以上。

 動きは試したいが、いきなり全開とはいかない。


「引っ張られたけど、これは……。」


 ルゼイアの声が(みみ)に届く。

 狼狽の色は、墓荒らし(グレイヴン)から守ってくれたときにも聞けなかったものだ。

 思わず自身の状態確認もそこそこに視線をルゼイアへと向ける。


「え……?」


 彼も変質していた。

 お父様に指南してもらったのならば覚醒できても不思議ではない。

 それにしても随分と物騒な姿だ。

 真っ黒な翼は刺々しく雄々しい、後ろに伸びた角も随分鋭利。

 瞳の色は変わっていないが、顔の一部まで鱗が広がっている。

 長い尾をゆたりと慣れたように動かしている。

 お嬢様との一番の違いはその両手、ルゼイアは鱗と爪で覆われていた。

 とは言え人の形から大きな差異はない、剣の魔道具は扱える。

 禍々しさを思わせる半竜姿。

 とても困ったような笑みを向けられた。


「ごめん、エル。」


「何が……?」


 唐突にルゼイアが謝ってきた。

 不思議そうに金の目を向けると、青い瞳が困ったように細くなる。

 ぞわ、と背中が薄ら寒くなる。

 あの目はカール氏を始めとする異性が向けてきた苦手な視線(・・・・・)だ。

 今までルゼイアから感じたことのない雰囲気に意識を切り替えていても驚いた。


「予想以上にこれは抑えが効かない。急いで僕を動けなくすることを勧めるよ。」


 さもなければ何をするかわからない。

 予想外の人物から、予想外の言葉。

 表立った激情が伺えないため、真剣さは感じられない。

 宣言をして右前の構え、今回は黒と銀の混じる剣も右手。

 声質も表情も、言葉遣いすらも普段と何ら変わらない。

 見つめてくる眼差しだけが熱い。

 内面に渦巻く諸々の感情を意志の力で強引にねじ伏せている。


「……私みたいなじゃじゃ馬を、簡単にリードできると思いますか?」


「まさか。」


 初めて手合わせした時に伝えた思いを、今度は言葉に乗せる。

 牽制するお嬢様に対してルゼイアは言葉上は平静を努める。

 一歩で剣の射程に入り込んできた。

 予備動作は存在しない。


「君をじゃじゃ馬だと思ったことは、一度もない。」


 会話しているのに鋭い。

 切り込んできた剣は左足を斜め後ろへ移動させることで回避。

 巻き込むように手槍を回し、意識を刈るために側頭部へ石突を振り下ろす。

 同時、重心を左足の方へ移動させて右足を浮かせた。


「ずっと焦がれていた、ずっと見ていたい。でも君はこういう思いを向けられるのが嫌いなようだったから。」


「に、苦手なだけです!」


 会話が邪魔だ、ぶつけられる思いに気圧される。

 ルゼイアは右腕を巻き込まれるまま左手へスイッチ。

 体を捻って石突を避け、そのまま剣で胴を貫こうとしてきた。

 浮かせた右足でルゼイアの膝にブーツの底を密着させ、踏みつける。

 そこを止めれば捻りきれず、切っ先は体へ届かない。

 踏み砕かれる前に右足が後方へ逃げ、左前となれば手にした剣の射程が伸びる。

 切り上げの速度が早い、体を逸らしたがケープのボタンがもっていかれた。

 自由になった右腕が振り上げられ、着物の袖口がお嬢様の視界を奪う。

 ならば手槍を両手で跳ね上げ、着物を巻き込みながら腕を極めにかかる。

 くるんと回る穂先は刃を牽制する。

 が、そのときには刃は消されていた。


「――っ!」


 袖を払ったが、非常に距離が近い。

 腕を極められたままルゼイアは更に踏み込んできた。

 ――硬い、極めきれていない。

 ルゼイアの踏み込みは知っている、動きが今までと少し違う。

 頭の中で警鐘が鳴った。

 気圧されている暇はない、即時息を吸い込む。

 彼の足が降りる。


 ――ズン、と世界が揺れた。


「はっ!」


「ふ――ぐぅっ!」


 ルゼイアの背中が触れ、お嬢様の胸から背中へかけて衝撃が突き抜ける。

 腕を巻き上げていたため、もろに食らった。

 事前に呼気で流れを作ったため、威力は随分散らせている。

 それでも地面に足がついた後、残った勢いで数歩下がった。

 翼を思い切り広げ、抵抗を増すことで気嚢に叩きつけられずに済んだ。

 吹き飛ぶ途中でケープが外れ、白い肩が露わになる。

 牽制に、ひぅんと槍を下段へ回して構え直し。


「……見せた覚えはないのですけど。」


 震脚から力を減衰させること無く体当たりに乗せる技術。

 踏み込み自体はそこそこ用いているが、その運用方法まで開示した覚えはない。

 その技術はこの世界に存在していない。

 しかもあの威力、一朝一夕で身につくようなものではなかった。


「うん、知ってるんだ。」


 心が波打ち、背中がむず痒い。

 お嬢様の事すべてを知っている、と言われている気がした。

 大体最初の距離をつめるのだって縮地ではなかった。

 数歩の距離をわずか一足で詰めて攻撃、歩法ではなく技だ。


「貴方は――。」


 何処まで知っているのですか、と言わせてくれない。

 黒い竜が一気に距離を縮めてくる。

 技を知っているというのならば、注意すべきは剣だけではない。

 お嬢様の魂が知りうる技を、彼も知っていると想定すべきだ。

 伸びる右の拳を槍で外へ弾く。

 弾かれた勢いを利用して左手がしなり、上から剣を振り下ろす。

 お嬢様から前へ出て、槍を縦に構えて回転させることで両腕をまとめて留める。

 両手を揃え、踏み込む力を利用して胴を打つ。


「――は!」


 息を吐く音はそのまま気合になる。

 直撃した、けれどシルヴィ嬢のような手応えはない。

 足から腰、腕へと伝わせた流れは散らされた。

 まるで暴走の時の二の舞だ。

 だが勢いすべては殺せない、後ろに飛んで距離を取られる。

 次の動作に回られる前にお嬢様の体が追いかけ、沈んだ。

 ふわ、と金の髪を残して右足で前脚を刈る、これは足を浮かせて逃げられた。

 この一手で終わらない。

 右足を軸に背を向け、引っ掛けるように左足で奥の足を刈る。


「く……っ!」


 空振りした、やはり動きを知られている。

 刈られる前に、たん、とその場で跳躍回避されていた。

 最初に浮かせた足が、保護を失った右肩へ振ってくる。

 ぐりんと足払いから左肩を地面につけ、汚れも厭わず肩を支点に体を捻る。

 ルゼイアの足がすぐ胸前に落ち、土埃が舞い上がった。

 石突を地面に叩きつけ、浮いた手槍を手の中で滑らせるように顎へ突き上げる。

 直線的すぎる動きのため簡単に避けられるが、立ち上がる時間は稼げた。

 近接武器は総じて手足の延長だ。

 大抵の運用方法がそのまま利用できる。 


「そばに居るだけで満足しようと思っていたけど、駄目みたいだ。」


 困った声に滲む執着心。

 こちらだって、言わせてあげない。

 その先を言わせてしまっては今の関係が崩れてしまう。

 切羽詰まったお嬢様は構え直した槍を上段から振りかぶり、柄を叩きつける。

 杖術の応用だ、このため手槍から徹底的に装飾を排してもらった。

 ルゼイアは剣の柄を逆手に短い刀身を生成、盾に使って受け流される。

 地面に流れた力をそのまま利用して体をひねり、もう一度の上段振りかぶり。

 こちらは両手の甲で挟んで受けられる。

 鱗が硬い、衝撃が通らない、何処かへ抜けていく。


「……うるさい! きちんと戦いなさい!」


 声色に焦りが生まれていることは承知している。

 ルゼイアは甲で柄を挟んで受けたまま踏み込んできた。

 左手の剣が手首を返し、お嬢様の首を右から狙う。

 させじと体を倒して刃の下をくぐり抜ける。

 垂直に立たせることで、槍はルゼイアの甲から抜け出し後ろへ倒れる。

 ぐ、とそのまま両手を地面へ付いて足裏で蹴り上げる。

 読まれていたようにルゼイアの蹴りとぶつかった。

 両者共に覚醒状態、ぶつかり合いはそのまま体内魔力の衝突。

 黄金と黒銀の衝撃が広がり、風が吹き荒れる。

 体勢は横から力を加えられたお嬢様のほうが劣勢。

 押し切られる前に股を開き、接点を押す勢いで離れる。

 場違い甚だしいが、ペチコートを着用していて助かった。

 体を起こす際に手槍を蹴り上げ、掴み直して再度構えに戻る。

 金の竜と黒の竜が再び見つめ合う。

 無駄な事を喋った瞬間に食らいつく殺気を込める金の竜。

 一方その金の竜を組み伏せようとしているのが黒の竜。

 学園時代の手合わせとは程遠い。


「――僕は。」


 ルゼイアからの言葉は戦士のスイッチを入れたお嬢様の心にまで入り込む。

 根本に向けられた言葉に意志が揺らぐが、これに従うようなお転婆ではない。

 その先は絶対に言わせない。

 双方この状態に慣れていない、今日のところは幕を引くべきだ。


「全然楽しくない!」


 言葉を遮るように、お嬢様が癇癪を起こす。

 覚醒の練習だけのはずが、どうして拗れたのだ。

 またルゼイアから踏み込んできた。

 速度は彼の方が早い、基本的な肉体性能の差だ。

 剣で狙うのは左肩から右腰にかけて。

 魔力で作られた刃は調整次第で肉体を切らずとも酷いダメージを与える。

 お嬢様は大きくは動かない、触れる直前に身をかがめるだけで事足りる。

 あとは後ろ手を穂先へ移動させ、手首を返すだけ。

 パン、と硬質なものが角に叩きつけられる。


「ぐ――ぁ……。」


 視覚外から飛んできた柄がルゼイアの顔を強かに打った。

 しなりのお陰で剣が届くより遥かに早く、重い。

 意識を刈られて満足そう(・・・・)に崩れたルゼイアを抱きとめる。

 最初に動けなくしろと言われたとおりになった。

 細い腕には少年の体が重すぎる。


「……ルゼイアは我儘です。」


 思わず不平の声を耳に戻りつつある角に向けた。

 自分の意志だけ伝えて、後は勝手に幕引きしろだなんて。

 楽しめなかったのはお互い様なのに、処理を押し付けられた。

 引き分け以外で終わったのは今回が初めてだが、嬉しさはない。

 黒い翼や鱗が消えていき、お嬢様も引きずられるように覚醒を解除する。

 下腹部の違和感が収まり、広がるのは何とも言えない虚しさ。

 何も考えず、楽しみながら体を動かせると期待していた。

 肉体の変化が落ち着けば認識、解析も行える。

 なるほど、根源に近づくということは秘めた思いにも近づく事なのか。

 互いの言動は心が暴走していたに過ぎない、本格運用するには課題ができた。


「そもそも私が、気づいてないとでも思ったんですか。」


 本気で打ち込んだ、しばらく起きないだろう。

 背丈はルゼイアの方が上だ。

 お嬢様には爆発力ならともかく基本の力が無い。

 運ぶことは難しいので、仕方なくその場に座り込んだ。

 散々落ち着かせた心を乱してくれた仕返し、ふわふわの銀髪を堪能する。

 不本意ながら異性の行動パターンや思考はそこそこ解る方。

 大体魂から経験を引っ張り出し、それを解析した結果だ。

 視線だけが情報ではない、ルゼイアからの好意も知っている。

 その事実に対しての拒絶反応は生まれない。


「どうして知っていたんでしょう。あれはここでは体系立てられてないはず。」


 今回ルゼイアが実践してみせた技は軽く見て三つの系統。

 発勁は除外して、打ち、受け、足さばきが別系列だ。

 お嬢様は体に焼き付いた癖を完全に発揮するために魔法を頼った。

 だがルゼイアの体格であれば、いくつかはそのまま再現できる。

 自分以外にも似た者が居るのであれば、対策を講じられる可能性が高い。

 ああ違う。


「……いえ。」


 思考が大事なところから逃げている。

 考えたいのはこんなどうでもいいことじゃない。

 緩く頭を振って金の髪を揺らした。

 きゅ、と碧に戻った目が釣り上がる。


「あの勢いで告白なんて、私許しませんから。」


 戦いの最中に浮ついた話なんて、ムードもなにもない。

 せめて開始前か開始後にするべきだ。

 ぺちん、と膝の上で気を失っているルゼイアの額を追加で叩いておいた。

 心に強い拒絶反応が生まれないのは当たり前だ。

 散々否定して目を逸らしてきたが、覚醒の際に自分の心を突きつけられる。

 お嬢様だって膝の上で伸びている少年のことを意識していた。

 ただし、幸いにも今更な自覚であることには気づかなかった。

 周りから見ればお嬢様も露骨に解りやすいのだ。

次回閑話を1話はさみます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ