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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第三章~リングアウトの間奏曲~
39/112

第10話 絶好機会のレストタイム3

2021/04/24大規模修正&追加

 その後は昼食を経て軽く商店を巡った。

 二人の内心はフォクシ嬢が戻ってくる前に切り替えたため読まれずにすんだ。

 買い揃えるのはお嬢様の使う調理道具と香辛料だ。

 食事当番を任された以上、目利きは任される。

 とは言えパンも大分残っている。

 補充したのは人参、じゃがいもといった根菜類、レタス等の葉物。

 この辺りはフォクシ嬢の保冷箱のスペースを借りる。

 乳製品や卵を補充の後、深手の片手鍋、フライパンと飯盒。

 ナイフのセット、お玉に木べら。

 香辛料はお嬢様の小物入れに調味料スペースを作り、砂糖、塩、胡椒。

 レフス帝国から醤油を含めた醤数種類。

 香草は道中採取出来ればそれでいい、屋敷に居た頃図鑑で読んでいる。

 フォクシ嬢から講義も受けて覚え直しもできた。

 ――昼も過ぎた頃、再び冒険者ギルドへ向かう。

 魔法貨物(シェイプレター)の確認と、ラッティ氏からの指名依頼を受ける算段だ。

 まだ依頼に来ていなくとも、口頭での約束はしている。

 姉弟子がギルドへ続く重い扉を開けると、最早慣れた大きな鐘音が響く。

 たむろっている冒険者の視線が集まる。

 朝方に比べて随分多い、丁度夕一番の依頼発注を行う時間帯らしい。

 それに合わせて目的の仕事を探す冒険者たちも集う。


「おっと、護衛依頼ならオレが受けようか。」


 入るなり朝と同じような洗礼。

 フォクシ嬢は帯に太刀を佩いているし、お嬢様は右肩に手槍を掛けている。

 依頼を受ける側であることは一見して解る。

 朝に絡んできた冒険者達は居ない、朝一番の仕事に出た後なのだろう。

 速攻顔を覚えるのは貴族科の礼儀作法講義で散々やらされた、朝飯前だ。


「はっ、六ツ葉を護衛できんのかよ?」


 今回は人数が多い。

 お嬢様が動かれては国外逃亡の依頼に支障が出る。

 牽制の意味も込めてフォクシ嬢が自身の冒険者証をひらつかせて応酬。


「六ツ葉に太刀に狐人……!?『万能』の娘じゃねーか、何でこんな平和なとこに居るんだよ!」


「冒険者は何処にいたって不思議じゃねーよ、阿呆。きちんと相手見ねーと足元すくわれんぞ。」


 万能の娘、その認識にはフォクシ嬢の眉が寄る。

 だが軽い助言だけ残し、平常を取り戻した席を通り受付へ。

 相変わらず制服をぴしっと身につけた兎人の所だ。


「あ、フォクシさんー、魔法貨物(シェイプレター)届いてますよー。王国新聞と、手紙が一通ですー。あと、指名依頼が一件ー、報酬が随分と低いですけど、構いませんー?」


「ありがとな。ああ、仕事に関しちゃ問題ねぇ。ちょいと妹弟子が酷い根切りしたお詫びってやつだ。」


「あらー。」


 フォクシ嬢が差し出された紙束を受け取った。

 報告を受けて受付嬢の視線がフォクシ嬢からお嬢様へと移動する。

 認識阻害を掛けているにも関わらず視線がそれない、居心地が悪い。

 先に吹っかけてきたのはラッティ氏、こちらは悪くないはずだ。

 とは言え確かに、二年も前の出来事であることも確か。

 そう考えればちょっと酷かったかもしれない、だが後悔はしていない。


「あまり商会の方といざこざは起こさないでくださいねー、うちとしましては相互に良好な関係を築いておりますのでー。」


「ご、ごめんなさい。」


 後悔はしていない、だが責められれば非は認める。

 一ツ葉のしたことだ、駆け出しならばそういった繋がりを知らぬこともままある。

 そのフォローとして六ツ葉が動いたのであればこの報酬も納得が行く。

 奇しくも別個の歯車が上手く噛み合い、よくある背景が出来上がった。


「さて、そんじゃあ夕食買って一旦宿に戻るか。今日は早めに休んどこうぜ。」


 荷物は受け取った、依頼も受けた。

 本日の目的はこれで全て。

 あとはさっさと出発し、距離を稼ぐ。

 そのための休憩日に半日をあてる。


「……あの、その前にフォクシさん。」


「あ? ……あー。」


 王国周辺の冒険者は、最大でも三ツ葉級。

 葉の数が上がるに従い、当然だが増えにくくなっていく。

 この周辺で六ツ葉と言えば滅多に見れない殿上人。

 おまけに『万能』という生ける伝説の娘で凛々しい少女。

 となればその人気は容易に想像できる。

 どの世でも憧れの存在に会うと人の取る行動は同じらしい。


「握手だけでも!」


「記念に一枚!」


「くそ、インクが切れてやがった!」


 こちらの用事が終わったと知るや否や、筋骨隆々な男性陣による列が作られた。

 ぺちん、とフォクシ嬢が手で顔を覆う。

 最初の牽制が強すぎたと後悔していることだろう。

 それにしても全く列が乱れていないのが凄い。


「はい、最後尾はこちらです。横入りはしないようにー。」


 と思ったら列を誘導している人が居た。

 騒ぎがあった際に呼ばれるギルドの警備員だ。

 受付嬢、間延びした喋りに反してしっかり仕事をしていた。


「じゃあフォクシさん、僕達は先に戻っておくから。」


「夕食は買っておきますので、頑張ってくださいね!」


 お嬢様はこんな目立つ場所に残るわけにはいかない。

 そして移動するには念の為護衛が必要だ。

 フォクシ嬢もそれが解っている。

 二人を咎めることはしないし、止めることもしなかった。

 ただ一言。


「……何でこうなるんだよ!」


 似たような経験をした身としては、助言が一つ。

 冒険者道具の必須には挙げられなかったが、認識阻害をお勧めしておきたい。


 * * *


 いくら高い宿とは言っても、大分奮発すれば庶民でも部屋が取れる。

 貴族たちに向けられた宿泊施設ではない。

 つまり、男女こそ分かれているものの共有浴場。

 再び心と魂の戦いだ。

 普段ならば短くとも半刻は争うところだが、今回ばかりはそうはいかない。


「やっとお風呂ですね……!」


 目を輝かせるお嬢様。

 数日だが湯船で手足を伸ばしていない。

 肌の手入れや髪の手入れは魔道具でしっかり行っているため、目立った損傷はない。

 シルヴィ嬢に痛めつけられた手足も綺麗な白肌に戻っている。

 ならば思い切り手足を伸ばし、筋を伸ばし、あちこちの微調整を行いたい。

 その決意が即座に魂をねじ伏せた。


「随分と我慢してたんだなぁ。」


 フォクシ嬢が戻ってくるまで待っていたのは認識阻害ができないため。

 フォローをお願いしたかったからだ。

 夕食は平らげた。

 木の実を練り込んだパンにローストビーフと葉物をたっぷり挟んだサンドだった。

 既に湯着やバスタオル、着替えも準備済み。

 一人用の湯船ならば湯着も気にしない。

 だが流石に人が多ければ着用しなければ落ち着かない。

 それが魂の断末魔だった、意志は引き継いであげよう。

 準備しているのを見てフォクシ嬢も湯着を用意してくれた。

 一人より二人のほうがまだ目立たない。


「ま、オレも疲れてたし丁度いいか……。ルゼイア、お前もきちんと入っとけ。小綺麗にしとかねーとモテねーぜ。」


「確かにタオルも何も持ってきていなかったけど、僕は不衛生を好むわけじゃあないからね?」


 適当に刈られているだけに見える銀髪は、その実ふわふわで大変手触りが良い。

 肌の質も傷一つなく、小綺麗にされている。

 だがきちんと筋肉がついている。

 お嬢様と違って馬鹿にされることは少ないだろう。


「きちんと髪の手入れもしてくださいね、生乾きのまま出てきちゃ駄目ですからね。」


「エル、そこまで念を押さなくても……。」


 念を押したら若干困った笑みを浮かべられた。


「お前は母親かよ。」


 フォクシ嬢からも呆れ声。

 ともあれ脱衣所前で二手に分かれる。

 急ぎ足で脱衣場に入り、待ちわびた入浴の時間。

 ケープと長いグローブは先んじて部屋に置いてきた。

 ガーターリングとニーソックスも脱いで脱衣籠へ。

 スカートをたたんでオフショルダーのシャツを脱ぐ。

 ホルターネックのインナーを解いて下着と共に収納。

 湯着を纏い、認識阻害の魔道具を乗せてから収納ロッカーに入れて鍵をかける。

 あとは髪を高めにまとめて結い上げ完了。

 固定魔法が発動しないように髪留めには扇子を挿している、実に多機能だ。

 なお、脱衣中に下腹部の刻印が嫌でも目に入るが見なかったことにした。


「……それだけ着込んでるのに何でそんなに早いのかね?」


 呆れ声を向けてくるフォクシ嬢も、革の補強防具は部屋に置いてきてある。

 帯を解いて着物を脱ぎ、内着の代わりに湯着を着用。

 手間の差は彼女の方が少ないはずだが、入浴準備はお嬢様の方が先に整っている。


「慣れです……けど……。」


 姉弟子の言葉に振り返ったお嬢様が言いよどむ。

 フォクシ嬢の体つきは着物や革防具を身に着けていた。

 そのせいで比較的細身だと思いこんでいた。

 ところが装備を外した今。

 湯着を押し上げる膨らみはレオン嬢ほどではないが、明らかにお嬢様よりもある。

 自身の体型を評価できたと思ったら、新たな比較対象が生まれてしまった。

 肩下程度の長さであるため、ポニーテールも解くだけでいい。

 白銀の髪に赤い瞳が増した肌色面積と相まって妙に艶っぽい。

 肌には多少の傷が浮かぶが、しなやかな筋肉とそれを巻く脂肪が色香に変える。


「……むむ、これは。」


「あん? なんか忘れたか?」


 お嬢様は毎日頑張って訓練しているが、ほとんど筋肉がついてくれない。

 こういう硬さと柔らかさを兼ね備えた肉体には憧れる。

 女性らしく育った体つき、無駄と言える肉はついていない。

 締まってくれてはいるが、力強さは見られない華奢な身体。

 とは言え動けなさそうかと言われればそうではない、ベクトルの違いだ。

 フォクシ嬢の身体は戦場に、お嬢様の身体は競技に適している印象。

 色香や艶っぽさは……考えないでおこう。

 少なくとも貴族の意識を入れれば可憐には擬態できる。

 儀式で心の荒ぶりを鎮めていた頃は――。

 思い出したら自爆する、止めておこう。


「……羨ましいです。」


 羨望の声を留めることができなかった。

 思わず腕を伸ばし、ぺたりと触れる。

 荒事にも飛び込む姉弟子の肌は少し荒れ気味だが、職と経歴を感じさせる。


「きゃんっ!」


「痛いっ!?」


 姉弟子から実に可愛いらしい悲鳴が上がった。

 声を抑えようとしたが間に合わなかったようだ。

 ほとんど同時に拳骨が降ってくる。


「お、おおおお、おまっ、お前、いきなり触んな! 心臓飛び出るかと思ったわ!」


 ここまで狼狽える姉弟子は出会ってから初めて見た。

 別に変な触り方をしたわけではない。

 肉の付き具合を確かめるために手のひらを当ててちょっと撫でたくらい。

 場所も着替えた所なので背中だ、誓って変な場所へ触れたわけではない。


「え、ええと。私そんな変な触り方してないはずなんですけど……。」


 顔が真っ赤になっている。

 知っている、この染まり方は怒りではなく羞恥心だ。

 反射的に拳を落としたのだってその延長に過ぎない。

 何故解るのか、散々お嬢様が似たような目に合ってきたからだ。

 見る側になって、初めて周りの反応を理解できた。

 これは破壊力が高い。


「う、うっさい、驚く時はオレも驚くんだよ!」


 牙を剥いてがるがる威嚇してくるが、ちょっと瞼を落として目元を抑える。

 他人を見ることで自分がどれだけしでかしてきたのか、本日また知った。

 あまり嬉しくない発見だ。


「フォクシさん、女性相手でもその反応は……。」


 からかわれたりするだろう。

 どの口が言うと言われればそれまでだが、言わざるを得なかった。

 やはり返ってきたのは頬を摘む両手だった。


「ふぐう!」


「ばーかばーか! さっさと入んぞ!」


 肝に命じておこう、羞恥は全力で抑え込まなければいじる対象にされる。

 頭から湯気を立てながら浴場へ入っていく姉弟子、頬を抑えながら続く妹弟子。

 幸いにも宿泊費が高めなお陰か人は少ない。

 浴室自体は大変広く、数十人は収まりそうな規模だが入浴者は十人に満たない。

 フォクシ嬢の影に隠れ、湯気もあって視線が集まることはなかった。

 催事などがあればここも埋まるのだろうが、この時期は特に行事もなかったはず。

 石床はきっちり隙間なく敷き詰められている。

 一方で壁は補強と湯気への香り付けのための木材。

 湯船も木材で組み上げられており、これは中々リラックス効果が望めそうだ。

 ――と、考えていたらがしっと肩に腕を回された。


「ふ……フォクシさん?」


 からかってはいない、諫言をしただけだ。

 なのに姉弟子の赤瞳が復讐心の炎を宿していた。

 体格差は十五センチほど、練り上げられた筋肉から逃れることは難しい。

 下手に動けば湯着が破れかねないし、うっかりすれば変な所を触られる。


「なあ、裸の付き合いって大事だと思わねえ?」


 至近距離から大変良い笑顔だが、一切笑わぬ目。

 ひっとお嬢様の喉が鳴る、口は災いの元だった。

 『万能』の二つ名を持つセラはお風呂でのマッサージ技術も一流だ。

 果たしてその娘にはその技術が継承されているのだろうか。

 手付きを見るに、疑うまでもない。


「私別に敏感な事が悪いとは――。」


「あ゛?」


 つい思っていた事が口から漏れる。

 地雷を踏み抜いた。

 懺悔の言葉は一切聞き入れられない。


「た、助け……!」


「彼氏はあっちだ、諦めろ。見たときから思ってたけどなんだこの肌、羨ましいのはこっちだっつーの。」


 未成熟な身体を余す所無く、徹底的にマッサージ込みで洗われた。

 極楽という地獄を味わった。

 シルヴィ嬢との戦闘とは別の意味で死ぬかと思った。

 自然体でいるとうっかり余計な一言が漏れてしまう。

 ――余談ではあるが、女湯の横は男湯である。

 壁は設けられているが湯気の流れを作るため、天井部分は空いている。


「もう少し、声抑えてくれないかな……。」


 寛ぐつもりだったルゼイアを始め男湯の数名。

 響き渡る艶めいた声に居心地が悪い空気が漂っている。

 そんな惨劇に気を配る余裕など、女湯ではしゃぐ二人にはなかった。


 * * *


 極上のマッサージを受けて蕩けるように眠ったお嬢様。

 結局翌朝の鍛錬を忘れるくらいに眠りこけていた。

 贅沢に慣れていた体は予想以上に疲弊していた、もっと鍛えねば。

 新聞の情報と、セラからの情報をまとめるのはフォクシ嬢が一晩でやってくれた。

 該当箇所の切り抜きと、まとめられた情報を比べるだけなので短時間で終わる。


「案の定、王都のほうじゃあ治安維持の頭が大暴れしたことが面白おかしく書かれてたぜ。」


 ゴシップなどは庶民の楽しみだ。

 如何に面白おかしく記すかが記者の腕となる。

 一方、娯楽ではあるがきちんとした裏付けも取られている。

 下手に書きすぎては隠される(・・・・)可能性があるのだ、でたらめを書くわけにはいかない。


「フォールンベルト家令嬢に対しての沙汰に激怒したため、王を殴りつけに向かう。これを食い止めたのは『巨壁』……、たしか重盾守備部隊の隊長でしたよね。」


 『黒狼』と『巨壁』の仲がたいへん悪いことは周知の事実だったりする。

 それでも各々担当箇所が違うため、ぶつかり合うことは殆どない。

 各々が記事を回し読みしながらラッティ氏との待ち合わせ場所へ向かっている。

 新聞の内容自体は既に出回っている、声を出して話していても目立つことはない。


「その後脱走するも、同じく『巨壁』によって確保、だ。ざまあみろってんだ。」


 妹弟子を目の前でボコボコにされた一件、相当根に持っているらしい。

 いや、これは自分に対する不甲斐なさの八つ当たりも込められていそうだ。

 しかし別れ際、シルヴィ嬢は随分と余裕を残していた。

 十中八九これは仕組んでおいたことだろう。

 記事の殆どがフォールンベルト家令嬢の身分剥奪経緯、その罪状。

 王城内にシルヴィ嬢という爆弾を抱え込んだための緊張といったところ。


「……不自然なほど書かれていませんね。」


 魔災を引き起こそうとしたのは王室所属の学生だ。

 学園街が表面上独立しているとは言え、あの事件が乗らないのは不自然。

 おまけにお嬢様への罪状が増えている。

 魔物すら憎しみを忘れてとらわれるほどの『魔性の娘』。

 言葉だけで魔物を操る『淫艶の娘』。

 数々の邪法と外観で人の心を容易に惑わす『傾国の魔女』。

 新聞を引き裂きたくなったのは言うまでもない。

 ルゼイアがちょっと目を逸らした。

 ……解る部分でもあるのですか、この裏切り者!


「ま、こういう解りやすい見出しのお陰で霞ませてるんだろうよ。お袋から学んでるだろ?」


「……情報は、力になります。」


「そういうこった。奴さんら、情報に手ぇ伸ばせるくらいには落ち着いてきた見てーだな。想定より早ぇ。」


 そう言って眉根を寄せるフォクシ嬢。

 出発を早めなければならない。

 幸いにもラッティ氏の行商馬車は幌つきだ、最悪隠れさせてもらおう。


「フォクシさーん、こちらですこちらー。」


 小柄な影がぴょんぴょん飛び跳ねる中性的な人物、チア姿とか似合いそうだ。

 学友の名を呼ばないのは状況を知っているからだろう。

 此処からは街道を使って一気に進めるのがありがたい。

 だから今回、依頼をしたのはフォクシ嬢に対してのみだ。

 お嬢様とルゼイアは、あくまで先輩に面倒を見てもらっている駆け出しでしかない。


「商人ってぇのは忙しないねえ。今回ばかりはありがてえ。……幌の中でこいつは読んどきな。」


 新聞に挟まれた手紙を押し付けられる。

 情報の本命はこちらだ。

 連絡用の魔道具を使えばより円滑に連絡を行えるが、両親の状況から考えて難しい。

 そこで魔法貨物を用いたのだろう。

 中身にざっと目を通した所、セラがまとめた学友や仲間の奮闘が書かれている。

 カール氏、フュースト氏が卒業処理を終えたこと。

 その際に在学生へ夜会での顛末をあらかた伝え終えた。

 勢力拡大には大打撃だろう、王室に対する疑惑の目も増す。

 彼らが帰領した際に更に噂が流れる、人の口に戸は立てられない。

 ミズール嬢、ハルト氏、カリスト嬢も卒業処理を終わらせた。

 レオン嬢も無事自分を取り戻したらしい、胸のつかえが取れた。

 後は裏方で王室がどれだけ新聞記載の情報を握りつぶしているか。

 お嬢様に対する悪評を広めようとしているか。

 諦めきれないらしく『必ず無傷で捕らえろ』という条件で手配書を広めるとか。

 傷をつければ愛玩動物としての格が落ちる、久しぶりに背中に嫌な寒気が走った。


「では、御者はボクがしますので。フォクシさんは御者台横へ。エルエルさんとルゼイアさんは、幌の中に隠れておいてください。」


 てきぱきと指示を出すラッティ氏、移動は慣れたものらしい。

 昨日は見当たらなかった馬は宿に預けてあったのだろう。

 防犯用に仮証書を見える位置に掛け、商業組合傘下にあることをアピール。

 幌の中へ積み込まれたのは娯楽品が多い。

 此処から東に向かうに従い、かつてのヴィオニカ連邦国との前線だ。

 平和になった今、王都からのこういった品がよく売れるようになるらしい。


「とは言え、流石にラッティさん、仕入れ過ぎでは……。」


「か、かなりきついね。」


 面積としては決して狭くはない荷馬車だ。

 だが積み上げられた木箱が非常に多い。

 二人は相当近い距離で移動の半日過ごすことになった。

 嫌な予感がして、お尻の下に鞄を置いてタオルを複数枚敷いておいた。

 整備された街道とはいえ、石畳の上を木の車輪が通るのだ。

 サスペンションなんて高級な品は学生の行商で手に入らない。

 がたがた揺れればそれだけお尻に負担がかかる、大変柔らかい部位には少々辛い。


「ひゃ!」


「わっ!」


 おまけに馬車が跳ねる度にどちらかがくっつく。

 夕方休憩を迎えることにはお尻が大変痛いことに。

 早急にクッションを手に入れるべきだっただろうか。

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