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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第二章~ルール無用のオヴェーション~
22/112

第4話 閑話ファーストマッチに備えて・学友

2021/03/30追加

 模擬戦訓練別講枠。

 こちらはハルト氏、ラッティ氏、レオン嬢、ミズール嬢が参加している。

 礼儀作法の座学が早くに終わったため、滑り込みで参加したのだ。

 そのため単位としては認められない。

 その上、時間的に各々一戦ずつしか出来ない。

 だが目的は少しでも多く経験を積むことであるため問題はない。

 お嬢様の模擬戦様子を聞いてハルト氏とミズール嬢に火がついたらしい。

 ラッティ氏とレオン嬢は無理やりつきあわされている。


「それじゃあ、いっくよー。」


 そんなわけもあってか、試合場に上がるレオン嬢の声は緊張感の欠片もない。

 対戦相手からため息が漏れる。

 立っているのは赤と白の騎士服を着て、突撃用の騎槍を構えるハルト氏。

 既に本日の対戦を終えた騎士科の学生たちは見学に回っている。


「……君はもう少し緊張感というものが持てないのか。」


 実地研修に向けて模擬戦訓練を何度も受ける生徒は多い。

 今回のような途中参加もしばしば見られる。

 騎士科最難関と言われる実地訓練は、時間内に目標の魔獣を討伐することだ。

 衛生班が常に居るとは限らない、下手をすれば命を落とす。

 受講人数から班分けされるが、見知らぬ者と組めば動きのすり合わせで時間がかかる。

 おまけに技量が解らなければ背中を預けることもままならない。

 だからこそ模擬戦で安全に力を磨き、班員になるかもしれない者の動きを知っておく。


「うーん、でも模擬戦だし? あ、軽んじてるわけじゃないよー。ハルト君だって、普段ならルードに乗るんでしょう?」


 この対戦となったのは、ハルト氏が模擬戦ルールでは圧倒的に不利と判断されたからだ。

 そもそも騎兵として訓練を積んできた彼にとって、地に足を付けての戦いは想定外。

 だからこそリーチに大きく差のあるレオン嬢が組手相手に選ばれた。

 彼女はシルヴィ嬢と同じく徒手空拳、騎槍の射程とは比べるまでもない。


「何、それを見せるための模擬戦だ。伊達に打倒フォールンベルトを志していない。」


「そんなことよりハルトさん? 貴方その……大丈夫です?」


 外野から心配そうな声が上がる。

 次の試合に控えているミズール嬢だ。

 心配するのも仕方はない、何せレオン嬢の姿が姿だ。

 目のやりどころに困るほど体にぴっちり張り付いた黒い上着、足のラインが出るズボンにケープ。

 とりあえず動きやすい服装に適当な装飾をくっつけただけのようにも見える。

 これが彼女の家系の騎士礼服というのだから驚きだ。

 女性に免疫のないハルト氏にとっては刺激が強すぎではなかろうか。


「騎士服ならば問題はない。」


 ケープの肩部分に獅子の横顔の紋章が入っている。

 ならこれは騎士服だ。

 ハルト氏はそういう事で納得したのだろう。


「……とことん拗らせてますね。」


 ちなみにミズール嬢の姿も騎士礼服には見えない。

 彼女の両親はよほど娘を飾り立てたいらしい。

 ローズベルト家に充てがわれた色は黒紫。

 お嬢様以上にフリルやレース細工で彩られており、最早ドレスだ。

 家紋はジャボットにはめ込まれたブローチに竜の翼と尾。

 暗い色の装束は、彼女の艶やかな銀髪により落ち着いた印象を強くする。

 一方で両手剣の切っ先を大地に突き刺し、直立不動の様は威風堂々。

 何処かの将校と言われても納得できる。


「準備いい? ハルト君、不慣れなら先手譲るよ?」


 雑談の合間に不意をつくつもりはない。

 よ、ほ、と声を上げながら会話が終わるのをストレッチして待っているレオン嬢。

 その揺れは凶悪なのだが、ハルト氏は宣言通り視線に動揺はない。

 だが周りはそうでもないので、じろりとミズール嬢が牽制の視線を送る。

 きちんと各々の動きを見るようにという指令だ。


「馬鹿にするな、同時でいい。」


「なら遠慮なくぅー!」


 横槍から訓練場へ会話が戻り、双方口上は完了。

 ぬるんとした歩法でレオン嬢が間合いを一気に詰める。

 騎槍相手ならば突撃するだけの距離を消してしまえば優位に立てる。

 人の機動力には限界があるのだ。


「典型的な対応、ありがとう!」


 ――普通ならば。


「うえぇ!?」


 声は上から落ちてきた。

 レオン嬢が踏み出した瞬間、ハルト氏もまた大地を蹴っていた。

 直線の突撃ではなく、上空へ。

 高い、高いが単独での跳躍には限界がある。

 そのため途中、笠状の鍔(ヴァンプレイト)を足場にしてもう一段階空へと飛んだ。

 上空およそ十メートル、突進距離としては充分だ。

 レオン嬢が即時サイドステップを踏むと、先程まで居た場へ騎槍の切っ先が刺さる。

 ほんの少し斜めなのは狙いが甘かったわけではない。

 怪我をさせぬよう、そして何より武器を壊さぬよう配慮したからだ。


「そんな方法を使いますか。確かに、騎兵して居なくともある程度の突進力は出ますが……。」


 二段跳びは騎士科に入ってから初めて見せる手法だ。

 騎槍を使って高跳躍。

 言ってしまえばそれだけだが、蹴る際に少しでも力がずれると折れてしまう。

 金属ならともかく木製の騎槍で行うとは、どれほどの練習を繰り返したのか。


「おっどろいたあ。曲芸師でもやっていけるよ、ハルト君!」


 ようし、と両拳を打ち付けるレオン嬢。

 跳躍の速度とタイミングは見た、ならばそれに対応して速度を上げればいい。

 騎槍の攻撃はどうしても直線攻撃に陥る、飛ばれたとしてもカウンターで合わせればいい。


「僕は騎士しか見えていないのでね!」


 レオン嬢の予想通り、距離を詰められる前に自ら跳ぶ。

 だが落下する場所さえわかれば――。


「立体駆動開式――、この空は僕が征した。」


 魔法の展開。

 これも初めての手札だ。

 青く澄んだ魔術式が魂に刻まれたとおりに展開される。

 その効果は任意箇所における空気の圧縮と圧迫。

 カリスト嬢のような省略呪文ではない。

 呪文定型文に該当するものは存在しない、ハルト氏の自作魔法。

 だがその解析の行えるお嬢様はこの場に居ない。


「え、なにそれ!?」


 わっと周りから声が上がり、レオン嬢も驚愕の声をあげる。

 ハルト氏が落下してくるのかと思えば、なにもない空中を蹴って側面へ回られる。

 ならばと向き直れば次は後方へ、振り向いたら右へ、左へ、後ろへ、前へ。

 その度に速度が上がる。

 ――騎槍の本領は、その速度と勢いに乗せた一撃だ。


「……行くぞ!」


 声を出したのはレオン嬢が避けやすくするためだ。

 直後、上空から地面へ突き刺さるように騎槍が着弾。

 武器が折れぬようにするため自身の足でブレーキをかけたお陰で決して狭くはない闘技場が土煙に覆われる。


「げっほげほ! 心配して損した、なにこれデタラメじゃん!?」


 位置の警告はしたため、穂先を避けられることは想定内。

 だが、着弾の衝撃まで避けきる時間はあるまい。

 ハルト氏は自身の勝利に自信を持っていた。


「……君がそれを言うのか。」


 すぐ真横から、首に手がかけられていることに気づくまでは。

 騎槍は彼女の脇下を通っている。

 避けるどころか踏み込んだ上でカウンターを入れてきた。

 突撃する騎兵に飛びかかり、首を刈るとは正気の沙汰ではない。


「そこまでです。」


 土煙が収まった後。

 地面をえぐる騎槍のすぐ真横で左手を開き、ハルト氏の首を掴みかけているレオン嬢の姿を確認したからだ。

 ルナリィさんが目を白黒させながら、それでも職務に忠実に終了の声をあげる。


「まさかあの速度に対応されるとは……。もう少し加速したほうが良かったか。」


「ちょっとハルト君、あれ最高速度じゃなかったの?」


「模擬戦だろう? あれくらいの速度なら地上だけで出せる。」


「う、わあ……。」


 レオン嬢、ドン引きの声。

 単純に地上では速度を出し切る前に間合いを詰められると判断して空中に足場を広げただけだ。

 騎兵にあらずして騎槍を使いこなす。

 打倒フォールンベルトを口にするだけのことはある。


「では次、ラッティさんとミズールさん、お願いします。」


「……あ、ボク確かこのあと商談がぴえ!?」


 背後でどつ、と埋まっていた大剣の切っ先を持ち上げる音がする。

 先程の試合を見てラッティ氏、危険を感じ取ったらしい。

 中性的な顔つきを恐怖に引きつらせて悲鳴をあげる。

 何せ対戦相手は、同じように対抗心を燃やすローズベルト家の騎士令嬢なのだ。


「では、早々に終わらせねばなりませんね。解りました、流儀には反しますが攻勢に出させていただきます。」


 藪を突いて蛇、もとい竜を出す。

 ドレス姿のご令嬢は既に臨戦態勢。

 びいん、と両頬のヒゲが震え上がった。

 敵前逃亡許すまじ、まさか騎士科在籍のものが模擬戦程度で逃げるわけがないだろう。

 そんな視線に押され、弾かれたように戦場に上がらされる。

 あんな所でじっとしている方が危険だ。


「ででで、ですがほら、ボクの武器は短剣ですので。ミズールさんの訓練相手には物足りないかなあと。」


「あら、ご謙遜を。商会の海千山千な古狸を相手取ってこの街に商会をねじ込めたのは貴方だと伺ってますわ? ならばその能力、決して侮れないと思いますが?」


「ミズールさんか弱い鼠人捕まえて滅茶苦茶言いますね!?」


 泣きそうになりながらも必死に危険から逃げ出そうとするラッティ氏。

 一方決して逃さないという決意を固めるミズール嬢。

 先に折れたのはラッティ氏だ、模擬戦ならば命を落とすこともない。

 なにちょっと痛い目に合うくらいだ。


「で、では、武器、ボクまだ武器を持っていませんので! と、取ってきますね!」


「……そうですか、ではレオンさん、ラッティさんが逃げ出さないよう見張っておいてくださいませ。」


 模擬戦だと言うのに、得手もなしに挑むのは些か授業内容に反する。

 強引に送り込んだのはミズール嬢だ、頷きはするが見張りはたてておく。


「ん? んんー……、いいよ、解ったー!」


 レオン嬢の頷きを合図にとたとた武器の並んでいる一角に駆け出すラッティ氏。

 位置的にミズール嬢の横を通るため、若干肩に力が入っているのは仕方あるまい。

 足早に脇をすり抜けようとする瞬間。


「ミズールさん!?」


 ルナリィさんの悲鳴が上がる。

 他の騎士科所属の生徒達も流石に息を飲んだ。

 唐突にミズール嬢の右腕が動き、通り過ぎようとしたラッティ氏の体が大剣に跳ね上げられた。

 空を浮いたと思えばぐん、と急降下。

 腕をしならせ遠心力を加え、まるで胴体を両断するかのような一撃。

 片腕ならではの柔らかい動き。

 木製とは言え相当な重量があるだろう幅広の大剣を軽々と扱える者は中々居ない。

 ミズール嬢の動きに応じて可愛らしいはずのレースが、フリルが凶悪な暴風に曝される。


「だーからさー、ラッティ君は見え見えなんだってー。」


 一方でレオン嬢は全く焦る様子もなく、頭の後ろで手を組んでいる。

 剣圧だけで巻き起こる土煙が晴れた後、二本の短剣で大剣を挟み込むようにしてぷるぷるしながら守備に回っているラッティ氏の姿があった。


「不意打ちを咎めるつもりはありません。ですがもう少し肩の力をお抜きなさい。」


「ひええっ!」


 ラッティ氏は、既に武器を手にしていた。

 ミズール嬢の脇を通り過ぎる最中、自然に首筋に短剣を這わせようとして大剣でかち上げられたのだ。

 攻撃じみた防御の後にはカウンターが基本戦法。

 受けてから切り返せば動きにくい騎士礼服であっても問題ない。

 高さを得た大剣がミズール嬢の外見を大きく裏切る膂力で振り下ろされる。

 が、その凶悪な一撃を即時空中で短剣で挟み込み、地に足がつくと同時に角度をずらして衝撃を逃したのだろう。

 みしみしと不安な音を立てる短剣二本、完全に地面に体が縫い付けられている。

 少しでも回避に回ろうものなら短剣ごと頭に木剣が叩き込まれる。

 だからこのままでいい。

 短剣が折れる前に試合終了の合いの手が入るはずだ。


「……ぜ、全部見抜かれてました?」


 鍔迫り合いで勝てるわけがない。

 腕を震わせながら声をかけて終了までの時間稼ぎ。

 そろそろ本気で泣き出しそうだ。


「伊達に同じクラスで模擬戦を見ておりません、貴方は癖が出過ぎるのです。ですので一気に叩き折ろうと思ったのですが。」


 想定外、これほど見事に計算され、威力を逃されるとは。

 恐らく両手の全力であっても結末は変わらなかっただろう。

 商業科所属なだけあって、道具の目利きは確からしい。


「そこまでです! ミズールさん、エルエルさんのように心臓に悪いことは止めて下さい!」


 丁度短剣が半ばまで折れたところでラッティ氏の目論見通り終了の声がかかる。

 ようやく両腕にかかっていた重圧から開放され、安堵のため息とともに腰を落とすラッティ氏。

 一番痛い目にあわず、納得してもらえて、素早く模擬戦を終わらせる手段。

 上手くいったようだ。


「騎士科としてはこれくらいは普通かと。今騎士科の教員方が出払っていますものね。」


「……いえ、ここまでするのはツァーボ先生のクラスだけだと記憶しています。」


「えっ、うわ皆もひっどーい!」


 ルナリィさんの言葉に他クラスの面々も頷いていた。

 同じクラスのラッティ氏までも。


「ボク、他のクラスの模擬戦にもよく参加してますけど、皆さん腕前おかしいですからね? 実地研修とっくにクリアできる腕前ですよ?」


「その中にご自身が含まれていること、自覚しています? たった二本の短剣でしのげるほどわたしの一撃は、軽くないのですが。」


「ラッティ君は先に実地研修終わらせてるもんねー、うらぎりものー!」


「商業科の単位が鬼すぎるんです! あまりこちらに時間を取っていられないんです!」


「不自然に服に浮き上がっていたし、視線の位置もあからさまだ。僕でも解る。商業科では致命的なのでは?」


「皆さん言いたい放題ですね!?」


 ミズール嬢、レオン嬢、ハルト氏からの集中砲火。

 たまらずラッティ氏も声をあげる。

 お嬢様のクラスメイトは皆個性的らしい。

立体起動と、意外と強い男の娘(商人)

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