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白馬の王子様と呼ばれる女騎士は、熊団長に恋してる  作者: 御仕舞


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2 . 茶会の戯言





 ルパートにとって、私はただの面倒な存在でしかない。

どんなに近づこうとしても、決して届かない壁があるのだ。

白馬の王子様と呼ばれることもある私だけれど、それは好意からのものというよりも、滑稽さを嘲笑する面の方が比重は大きかった。


 そして、ルパートの女性観は誰もが知るところで、花のように可憐で、男の後ろに控えめに寄り添うような淑女を理想としている。

決して『白馬の王子様』と揶揄されるような女騎士など眼中にない。



「まったく、王国騎士団長のルパートときたら」



 お茶会の場で、アルフレッド殿下が優雅に紅茶を啜りながらため息をついた。

金の刺繍入りの服に身を包んだ彼は本物の王子様で、実際こうして隣で並べば、体格も気品も違う。

王族として、生まれ持った性質もあれば、長年努力して身に付けた所作もあり、一つ一つが丁寧で、口調も穏やかで、聞き取りやすい。

どこをとっても洗練されている王子に対して、ガサツな私であったなら、その辺にいる獣の方が私とさして変わらないだろう。



「三十五にもなって独身とは、いかがなものかと思わないか?」



 隣で可愛らしいティーカップを両手で包み込むように持っていたエルヴィラ王女が、年齢に似合わぬ冷徹な視線で兄を見つめる。

陛下から受け継いだ金の髪を持つ王子と、王妃から受け継いだ銀の髪を受け継いた王女は、まるで童話の中の人物のように、現実味のない美しさを湛えている。



「またその話ですか、お兄様。そもそも他人の恋路に首を挟むより、自身の婚約者を見つけるのが先決でしょう」



 彼女は十三歳になったばかりだというのに、既に政治的な駆け引きを理解しているかのような鋭さを持っていた。



「それに騎士団長に恋愛感情など求めること自体が無駄ですわ。あの方は国を守るための兵器ですから」

「他に言い方があるだろう、エルヴィラ。そのような物言いは王族としてふさわしくないぞ」



 アルフレッド王子が苦笑するのをエルヴィラ王女は鼻で笑った。



「では言葉を変えましょう、国宝です。しかしその価値を理解できる女性がいるかどうかは別問題ですわね」



 私は壁際に控えながら、王族の言葉に耳を傾けていた。

女騎士団長として王子と王女の護衛を務めるのは、この王宮において最も重要な任務の一つだ。



「だからこそ、ルパートに良い妻を迎えさせなければならない。彼ほどの英雄の遺伝子を絶やすのは国家的損失だろう」



 エルヴィラ王女がティーカップを置き、小さく頷いた。



「『強い種を残す』という意味では重要かもしれませんわね。でも本人はどう思っているのでしょう?」

「本人の気持ちなど問うまでもない。騎士とはそういう存在だ」



 人を机上の駒の様に語る傲慢な王族の姿に、私は一瞬眉をひそめた。

アルフレッド王子の言葉は正しいかもしれない。

しかし兵器や種といった表現には、やはり忌避感を覚える。

護衛を任されている身として、王族の話に感情を持ってはならないが、ルパートの話題にはどうしても反応しそうになる。



「それでも、好みというのがあるでしょう?彼の好みの女性というのはどのような方なのでしょうか」

「ルパートの好みか? 彼は毎回『蝶のように可憐で、花のように儚い女性』を求めているな」

「まあ、そんな女性がいるかしら」



 エルヴィラ王女が小さく肩を竦める。

ルパートは何度か、王子からの紹介でお見合いをしているので、王子もルパートの望む女性像を知っている。

そもそも、ルパートは好みの女性を公言しており、騎士団員との会話で話題になる度、私はどこか自分に当てはまるところはないだろうかと僅かな期待をしてしまうのが、みっともなく無様だった。



「可憐そうに見えて、毒花だったり、食虫花だったりする令嬢は存じ上げるけれど。そもそも可憐な女性でしたら、騎士団長の圧でよく気絶している女性たちがいるじゃない」

「そうなんだよね。彼の理想に合うならば、可憐さと内面の強さの両方を兼ね備えていないといけないのだけど、なかなか彼の理想に当てはまる女性はいないようだ。実際今まで一度も婚約すら叶わないのだから、道のりは遠いな」

「そうでしょうね、見合いを打診された女性のほとんどが、彼の容姿や熱烈さに怯えて逃げ出してしまうと聞きましたわ」



 王子の噴き出した笑い声が響き渡る。

私はその会話の行く末を見守りながら、どうすべきか悩んでいた。

王族の会話に介入するのは不敬だ。

だがこれではあまりにも、笑い者にされすぎている。



「失礼ながら」



 私は思い切って声をかけた。

二人の視線が一斉にこちらへ向けられる。



「ルパート騎士団長は非常に魅力的な男性です」



 アルフレッド王子が興味深そうに片眉を上げた。



「ほう、いつもは壁の花となっている君が、僕たちの会話に不敬だと自覚しながら口を挟むのは珍しいな」

「申し訳ございません」

「いや、謝罪はいらない。それより君の話の続きを聞きたいな。ルパートの魅力とやらを、女性視点で聞きたいと思っていたんだ」

「あら、わたくしも女性ですわよ」

「婚姻適齢期である妙齢の女性と付け加えよう。さあ、続けて」



 興味深げな2人を前に、私は慎重に言葉を選んだ。



「確かに外見は厳ついですし、言葉遣いも粗野に見えることもあります。しかし彼の人となりを知れば、必ずや彼の良さを認めてくれる女性が現れるはずです」



 エルヴィラ王女が疑わしげな視線を送る。



「例えば、どのような『良さ』ですの?」

「困難に立ち向かう勇気、仲間を守る使命感、そして」



 自己犠牲ともとれる正義感の強さ。

身分を気にせず誰をも平等に扱える稀有さ。

暗い気分を笑い飛ばしてしまう明るさ。

言葉を探していると、王子が突然笑い出した。



「なるほど、騎士らしい資質だ」



 彼は愉快そうに続けた。



「しかし、君の意見にはある側面が欠けている」

「と申されますと?」

「恋愛には必ずしも強さが必要とならない」



 王子は優雅に立ち上がった。



「君の視点は騎士の立場に寄りすぎているように見える。勇気や使命よりも、時に『一緒にいて楽しい』という単純な事実の方が勝ることがある。一般女性は騎士としての個人よりも、私生活での個人の魅力を重視するということさ。面白い意見だったよ、女騎士団長殿」

「王子殿下のお言葉、ごもっともです。私は団長の騎士としての一側面しか知り得ません。ですが、その側面も本人に変わりありません。勇気や仲間を守ることは、家族を守る強さに変換されるかもしれません。身分を気にしない優しさは、彼の温厚な性格を表しているとも言えます。騎士としての彼の資質が、女性にとって好意を寄せない理由には必ずしもなりません」

「だとしたら、彼はなぜいつも振られてしまうのだろう」

「人間同士のやりとりですから、複雑な事情がそれぞれあるかとは思います。ですが、ルパート騎士団長殿に好意を寄せている女性はいるかと思われます」

「それは一体どこに?」

「奥ゆかしい女性は自分から好意を示すのを下品だと言いますから、回数を重ねていればいずれ」



 アルフレッド王子は私の意見を冗談だと思ったようで、腹を抱えて大笑いした後、一転いたずらっぽい笑みを浮かべた。



「では、君がルパートと見合いをしてみるのはどうだろう?」

「…どういう意味でしょうか?」



 王子が肘掛け椅子に腰掛けると、意地悪そうな口調で言った。



「彼の良さを理解できる女性がいると主張する君こそが、その奥ゆかしい女性なのではないかな?」



 部屋の空気が凍りついた。

私が思わず顔を青ざめさせるより先に、



「お兄様!!」



 エルヴィラ王女が絹のような声で、しかし鋭く叫んだ。



「いくら何でもそれは酷いですわ! わたくしの『白馬の王子様』とあの野獣を結婚させるなど、天変地異よりあり得ませんわ!」



 王女の予想外の激昂ぶりに、私は完全に虚を突かれた。

アルフレッド王子も驚いたように愛する妹を見る。



「騎士団長は確かに優秀な騎士かもしれませんが、それを理由にクラウディアと見合いをさせようとすることは、あまりに非礼です!」



 彼女の頬は怒りで薔薇色に染まり、小さな拳は震えていた。

普段は冷静で計算高い王女が、ここまで感情を露わにするのは珍しい。



「落ち着け、エルヴィラ」



 アルフレッド王子が宥めるように言った。



「冗談だったのだよ」

「冗談では済まされないことです!クラウディアにはクラウディアの意志があり、騎士としての誇りがあるのです。それを踏みにじるような発言は王族として許されません」



 私は慌てて王女の前に進み出た。

ルパートの時とは違う反応に唖然とし、止めるのが遅れてしまった。



「王女殿下、どうかお怒りを鎮めてください。王子殿下の軽口に対して、そこまで本気になる必要はありません」

「でも!」

「それに」



 私は微笑んだ。



「たとえ見合いを命じられたとしても、ルパート騎士団長と私の間に愛情が芽生えることは万に一つもあり得ません」



 そう言い放ちながらも、ルパートのことを何年も想ってきた自分の報われなさを口にするのは、これはこれで胸が痛むものがあったが、表情に出さないように抑え込む。

エルヴィラ王女の表情が和らぎ、アルフレッド王子は苦笑した。



「そうですわよね、あなたはわたくしの王子様ですもの」

「すまない、二人とも。些か冗談が過ぎたようだ。だがごっこ遊びもほどほどに。今度はルパートではなく、君の王子と君の心配をしなくてはいけなくなる」

「安心して、お兄様。わたくしとクラウディアが結婚すれば全て万事解決ですわ」

「…心配の種が増えたのだが」



 彼はティーカップを持ち上げ、優雅に飲み干した。



「さて、そろそろ政務に戻るとしよう。次の予定は?」



 その言葉に救われた私は、ホッとしながら壁際に戻った。

だが心の中は激しく揺れ動いていた。


 壁に映る自分の影を見つめながら思う。

もし本当にルパートと見合いをする機会があったら、私はどうするだろう?

具にもつかない妄想なのに、愚かな私はその甘美な夢にしばらく抜け出しそうになかった。





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