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白馬の王子様と呼ばれる女騎士は、熊団長に恋してる  作者: 御仕舞


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1 . 熊団長は結婚したいのに








「ガハハ!今日も俺の勝ちだな!」



 響き渡ったのは王国騎士団長の声だった。

私は思わず団員たちから視線を声の主へと移す。

巨漢の団長は大剣を肩に担ぎ、汗と土埃にまみれた顔で豪快に笑っている。

その周りでは屈強な男たちが「さすが団長!」と口々に賞賛していた。


 ルパート・フォン・ハインツ。

三十五歳にして独身だが、王国最強と謳われる武人であり、その武勇伝は数知れず。

しかし、豪快すぎる性格が災いし、女性には全くもてないという噂がある。



「ふん、また騒いでいますわね、あの筋肉ダルマたち」

「暑苦しいったらありゃしないわ」



 私の部下であるセレスティアたちが馬鹿にしたように、王国騎士団を横目に廊下を通り抜けようとした矢先、広場の中央から怒号が響き渡った。



「おい、そこの白百合だか何だか知らねぇが、聞こえてんだよ!陰口叩くならお前たちのお得意なお茶会のおままごとでしろよ!」



 振り返ると、訓練場に残っていた数名の王国騎士団員が、私たちを睨みつけている。

中心には赤毛の若騎士、ギデオンが剣の柄に手をかけていた。

いくら陰口を叩かれたからといって、柄に手を掛け、暴力で脅すような真似は、騎士としての誇りに欠ける行為だ。

だが、陰口を叩いた側の騎士団長である私が、それを指摘したところで、場が荒れるだけなのは分かりきっていた。



「申し訳ない。すぐに出よう」



 私は他の女騎士たちを片手で制し、軽く頭を下げる。



「ふん、女の騎士ごときが偉そうに」

「お前ら、本当は男に守ってもらいたいくせに、何で剣なんか振るってるんだよ? 」



 王宮で騒ぎを起こさないでくれ、という私の祈りも叶わず、侮辱的な言葉の数々に、セレスティアが真っ赤になって言い返す。



「侮辱するなら、高く買いますわよ!」

「止まれ、セレスティア」



 セレスティアが剣に指を添えた瞬間、私は彼女の前に腕を伸ばした。



「侮辱に対して剣を抜くなど、私たちが最も嫌う蛮行ではないか」



 赤毛のギデオンは不敵な笑みを浮かべていた。

その態度はまるで山犬のように攻撃的だ。



「おいおい怖くて手も足も出せないんですか?白馬の王子様だとか、常日頃女どもからキャーキャー言われてるくせに、こんな時は女に戻るのか?」

「剣を抜けば恥辱を買うことになる」



 私は静かに言った。



「騎士道とは何か、お忘れか?」

「騎士道だと?お前ら女どもの軟弱な剣術と一緒にするな!俺たちの訓練は実戦だ!生きるか死ぬかの剣さばきを学んでいるんだよ!」



 セレスティアが怒りで震えている。

私は彼女の肩にそっと手を置いた。

その時だった。



「何だこの騒ぎは!」



 広場全体に響き渡る轟音のような声。

見ると、王国騎士団長のルパートが、巨躯を揺らしながら大股でこちらへ近付いてきた。



「団長!!」



 ギデオン含め騎士たちが慌てて頭を下げる。



「ギデオン、何があった?」



 声は地鳴りのように低く重い。

ギデオンが唾を吐き捨てた。



「こいつらが陰口叩きやがったんです!」

「くだらん」



 ルパートはギデオンの言葉を一蹴した。

ギデオンは何か言い募ろうとして口を開きかけたが、ルパートの視線に言葉を失った。

巨体から放たれる圧倒的な存在感が、彼の血の気を引かせる。


 ルパートは鋭い眼差しで広場を見渡すと、ゆっくりと私へ向き直った。

その視線には侮蔑でも嘲笑でもなく、ただ鋼のような意志だけが宿っていた。

そして、ルパートがゆっくりと私たちの方へ向き直り、深々と頭を下げた。



「我が部下の無礼をお許しください。どうやら私の教育が足りなかったようだ」



 元はといえば、女騎士たちが侮辱した言葉を吐いたのがきっかけだったし、それを止められなかった団長である私が悪かったのに、丁寧に頭を下げられ、私もセレスティアたちも困惑してしまった。


 その姿は、戦場で獅子奮迅の活躍を見せる英雄からは想像できないほど謙虚だ。

鋼のような意志を持ちながらも、自分の非を認められる度量こそ、騎士にふさわしい。

私が憧れる騎士像であった。



「頭を上げてください」



 私の言葉に、ルパートはゆっくりと顔を上げた。

夕陽に照らされた彼の瞳は、驚くほど澄んでいた。



「誤解があるようです。我々にも非がありました。なので、謝罪は必要ありません」



 私は少し躊躇った後、小さな声で付け加えた。



「それで、ルパート団長。この後の巡回の件ですが」

「ああ、夜警のことか」



 ルパートは表情を変えずに言った。



「それならば詳細は副官に任せている。貴女のお時間をいただくほどのことではないだろう」



 慇懃無礼、という言葉が脳裏をよぎった。

彼の態度は明らかに関わりたくないという意思表示だった。

私たち女騎士団が王国騎士団を卑下していることなど、とっくにお見通しだろう。

それでも公式の場では敬意を示し、頭も下げることができる。



「そうですか、わかりました。では、夜警には十分な注意をお願いします」

「承知した。では、これにて」



 ルパートは軽く挨拶すると、すぐに背を向けてしまった。

その大きな背中を見送りながら、胸の中に苦いものが広がるのを感じた。

笑みを保ったままの表情に硬いところはなかっただろうか。



「ああいう態度が一番腹立たしいですわ。表面上は礼儀正しくても、内心では見下しているんでしょう?」



 その他者への批判が原因で今回のような無益な騒動を起こしたのだから、反省しなさいとセレスティアを見つめると、本人も自覚はあるのか、「…悪かったわよ、もう言わないわ」と力なく俯いた。



「反省しているならいいんだ、さあ行こう」



 私はセレスティアの腕を軽く引いた。



「夜警の準備もあるんだから」






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