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白馬の王子様と呼ばれる女騎士は、熊団長に恋してる  作者: 御仕舞


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11 . 憎悪と殺意の甘えん坊







 室内に沈黙が落ちる。

アルフレッド殿下は落ち着き払っていた。

表情からは動揺がうかがえない。

きっと知っていたんだろう。

お母さんは誰にでも話していたから。



「君の母上の身辺は調べているから、彼女が何を嘯いているかは知っているつもりだ。だが、それが真実だと思う者がいるとは思わなかったな。実の子どもの君ですら、突拍子もない話だと思うものとばかり」



 いつもの微笑みを口元に浮かべながらも、突き放すような冷たい物言いだ。

だけど、私も同じように笑っている。

似てるところなんて欠片もないけど、私たちは鏡のように笑い合う。



「信じますよ、だって私のお母さんでしたから。どんなに狂っていても、愛していましたから。でも、愛していた私を捨ててまで、実の子であるあなたを選んだのに、あなたに信じてもらえないのだとすると、なんだか報われなくて哀れでおかしい話ですね」



 アルフレッド殿下は窓辺から離れ、ゆっくりとベッドに近づいてくる。



「僕は自分の出自には確信がある。生まれた時の記録は、公式なものに限らず、多くの側近や召使いの記憶にある通り、間違いなく陛下と王妃の子どもだ」



 思わず笑い声がこぼれた。

記録の改竄なんて、国の頂点に座ってる方々には造作もないことだと、下町育ちの私ですらわかる。


 殿下の眉が僅かに動いた。

ルパートは壁際に佇んだまま、微動だにせず、私を見守っている。

それとも、王子殿下を害すると警戒しているのだろうか、王子もルパートも感情が見えない。

幼少の頃から高度な教育を受けさせてもらえた王侯貴族様は私とは大違いだ。



「記録の改竄を疑っているのかい?だけど、疑うだけなら誰にだってできるよ。核心に至る証拠は必要だ」



 アルフレッド殿下の声は静かだった。

私はゆっくりと首を振った。

証拠など、あるとしても私は持っていない。

王家が消そうと思えば、徹底的に証拠隠滅したはずだ。


 だからこそ、私は門を叩いた。

王宮に出入りする騎士になり、真実を真実足らしめるために。

母の願いのために。



「殿下はもちろん、私たちを引き取ったハーロン男爵についてもご存知でしょう。引き取った当時、男爵家は豪華な調度品と広い屋敷と多くの使用人に囲まれていました。碌な収入源がないにも関わらず。

でも私が成長するとともに、あれらは消えていった。執事は消え、馬車は売り飛ばされ、最後には門兵さえいなくなった。新しいドレスすら買えず、男爵自身も酒浸りになった」



 アルフレッド殿下が口を開こうとしたが、私は畳みかけた。



「酒浸りになった男爵は話してました。私たちを引き取ることで大金を手に入れた、と。そのお金が尽きたから別の手段を考えていたのでしょう。彼は大金の出所を探っていたようでした」

「だが男爵は死んだ」

「ええ、私が男爵家を追い出された当日に殺害された」

「…自殺だと聞いている」

「睡眠薬を飲んだ状態で首を吊ることができれば、自殺なのでしょう」



 再び沈黙が降りた。

男爵が殺害されようが、自殺だろうが、そんなのはどうだってよかった。

彼への恐怖や嫌悪はとうに薄れ、思い出すことすら稀だった。

男爵家を継いだ義姉妹とお母さんがどうしているか、私は知らない。

手紙は宛先不明で戻ってきて、屋敷のあった場所には何もかもなくなっていた。

かといって、男爵家の戸籍から私が外されることもなく、細々と男爵家存続しているらしい。

悲しみも心配する気持ちすら湧いてこなかった。

どこかに置き忘れたようだった。


 さて、こうして私を引き取ることになった経緯や理由を知る人も、私の出生を知っている者も消え失せた。



「私が騎士になったのは偶然でしょうが、王女殿下が発案されたという女性だけの騎士団が新設され、騎士になってから数年の私が騎士団長に選ばれたのはなぜか。団員たちは私よりも年上で有能なものばかりなのに」

「…大分話が変わったね」

「いいえ、変わってませんよ。私は王女殿下に直接質問したのです。聞くと、最初王女殿下が望まれたのは私を専属護衛騎士にすることだったそうです。それを王妃殿下が女性だけの騎士団を提案したそうじゃないですか」

「女性しか入室を許されない場所は、ここ王宮では多いから、望まれた結果だと思うけど」

「私が騎士団長に選ばれたのは?」

「君の実力によるものだ。成人男性の集団相手に一人で、王女を守り切るのは一般の騎士ですら不可能だろう。君は自己評価が低すぎる」

「ですが、経験が足りない」

「だからこそ、副団長には騎士として年数が多いものを充てて、補佐をつけた。君が思う以上に君は有能で、僕たちは君に期待している。実際君はその期待に今まで応え続け、多くの成果を出しているじゃないか」



 アルフレッド殿下の声は平静を保っていたが、わずかに揺らいでいた。

王女殿下を守りきって、数日もしないうちに設立された異例の白百合騎士団。

常に誰かしら私の側で仕事を補佐する団員たち。

護衛と監視要員だと気付かない馬鹿だと思われているのだろうか。

煩わしく、窮屈で、常に人の目を気にして、理想の騎士団長を演じ続けるのは苦痛でしかなかった。

捨て置けばいいのに、男爵家に引き取られる前のように。



「そして今回のお見合い話」

「見合い話自体は本当だ。君に相応しいと思って」

「ええ、私もそれは疑ってません。ただの男爵家の養子や娼婦の娘では、どんなに功績があろうと、公爵家のご子息とのお話は持ち上がらなかったでしょう。国王陛下と王妃殿下の娘であり、第一王女であれば、降嫁するに相応しい」



 表情を強張らせた王子殿下から視線をそらし、壁際に立つルパートを見つめた。

ルパートの美しい琥珀色が微かに揺れる。

動揺の色を滲ませながらも、それでも彼は目をそらさない。

私たちは見つめ合う。



「ルパート…様、あなたに嫁ぐことによって、両親から続く負の遺産は回収されるのです。私たちの縁談はその尻拭いのためだけに仕組まれた」

「…俺はお前さんがどんな身分でも構わないと思っている。複雑な事情や思惑は俺にはわからねえ。だが、どんな理由でもいい。俺はもっと知りたい。クラウディアが何で喜ぶか、何が好きか、何を話すか、何を食べるか、何で泣き、何で怒り、何で笑うか。お前さんを知りたくて、親しくなるためにもっと時間と機会が欲しかった。そのためにアルに話を通した。そこに何が介在してようと、俺がお前さんに持ち込んだ縁談にあるのは、俺とお前さんの想いだけだ」

「私の想い…」



 ルパートはいつも正しい。

真昼の太陽のような人だ。

正しく私を照らし出し、私の影を鮮明にする。

だけど、どうだろう。

もう全てを打ち明けようか。

誰かの王子でもなく、誰の騎士でもない。

ただのクラウディアとして、私にはもうルパートしかいないのだ。


 あなたしか止める者がいない。



「ルパート様、あなたも見たでしょう?数年前も今回も、男たちを皆殺しにする私を」

「それはお前さんの母親の罪を隠すために」

「それはきっかけにしかすぎません。王子様や騎士様に憧れ、演じ続けた私の本音を言いましょうか?私はこの世の全てが大嫌いで、憎くて、どいつもこいつも刀の錆にして、殺して殺して殺し尽くしてやりたい。性欲の塊の獣ども。周囲の誰も彼も私に理想を押し付けてばかりの馬鹿ども。私が知っているともしらずに友人のフリをして近付く蝙蝠女ども。私のためだと保護しているつもりの自分よがりの自己愛主義者ども。愛しても愛してくれない薄情者。私の居場所も愛も全てを奪っておきながらのうのうと生きてる簒奪者ども。誰もが憎くて仕方がないのに、誰にでも縋りつきたくて空虚な理想ばかりを踊ってしまう操り人形も、全員ぶっ殺して死んじまえ!」



 私は、右手の痺れが治まったのを確信し、ベットサイトに置かれた硝子のコップに手を伸ばし、



「クラウディア」



 コップを掴む私の手を握り、首を振るルパートに、私は満面の笑みを浮かべた。

やはり、あなたこそ、私の理想の騎士で王子様。

血の気が引き、青褪めた顔で、アルフレッドがこちらを見ている。



「喉が渇いただけですよ、ルパート様」

「俺が飲ませてやる」



 水差しからコップに水を注ぎ、私の口元にコップを持ってくる。

警戒しているのはアルフレッドだけで、ルパートは私を心配そうに見つめるばかり。

体調を気遣いながら、まるでお姫様に接しているように、私の背に優しく右手を添え、真剣な表情で水を飲ませてくれる。



「ありがとう」

「仕方のない甘えん坊だな」



 デレデレと世話を焼くルパートを、アルフレッドは信じられないと言わんばかりの引き攣った顔のまま、大きく溜息を吐いた。








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